第42話
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042_縁は切れている
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「パル、その薬草を取ってくれ」
「はい」
石鹸の販売が好調なのはいいが、売れすぎてオレが手伝うくらいの忙しさになっている。
朝から夕方までは治療院で病人や怪我人を治療して、夕方からこうやって石鹸を造っている。
こんなことになったのも、ルシア様と王妃様に献上した石鹸が大好評だからだ。
元々貴族向けの石鹸はあった。しかし、2人に献上した石鹸は王家用に特別に調合したものだ。それが他の王族のご婦人方にも広がってしまった。
オレはそこまで大量に生産しなくても大丈夫だと思っていたのだが、ベイルの店に大量の注文があったのは必然なのかもしれない。
その大量の注文を捌くために、オレが王家用の石鹸を造っているというわけだ。
数日をかけて王家用の石鹸を造ったオレは、木剣を持って裏庭に出た。
朝の素振りは毎日しているが、今日は騎士崩れのメディスと手合わせをしようと思った。
裏庭の一角には、薬草畑がある。この薬草畑もかなり立派になった。パドスがしっかりと管理してくれているおかげだ。
そのパドスは朝の仕事が終わって、今はメディスと剣の訓練をしていた。
最初は腰が引けて心もとない素振りだったが、最近では様になっている。
「俺も混ぜてもらうぞ」
「大将が相手でも、手加減はしないからな」
「ほざけ」
メディスはオレのこと大将と呼ぶ。ボロンボがボスのままなので、区別のためだと思う。
オレとメディスが激しく打ち合うと、子供たちが見学にやってきた。子供たちはオレとメディスの両方を応援する。要は楽しければいいのだ。
ひとしきり打ち合って、体が温まったのでパドスを相手にすることに。
「腰が引けているぞ。もっと踏み込め」
「はい」
メディスはある意味完成されているが、パドスはこれから成長していく。教えたそばから鋭い踏み込みをしてきた。
「今の踏み込みはいいぞ。その感覚を忘れるな」
「はい!」
パドスに手ほどきをした後、希望する子供たちにも教えた。
なかなか筋の良い子供もいるが、多くは遊びの延長線だ。
その翌日、オレは城へ向かった。以前、国王に暗殺者に関する書類を渡した。アールデック公爵が暗殺を依頼した証拠だ。
国王はアールデック公爵を処罰すると言ったので、その結果を聞くことになっている。
アールデック公爵家が潰れようが、他の処罰になろうが、オレはどうでもいい。ただし、1つだけ約束したことがあるので、それについて確認するのが今回の目的だ。
国王と面談する部屋に入ると、また王妃様とルシア様が居た。挨拶すると、国王がオレをソファーに促した。
1対3で向かい合って座る。王妃様とルシア様は微笑んでいる。それがまた不気味に思えるのは、オレの性格が歪んでいるからだろうか?
「サイさんからいただいた石鹸、とても気に入りましたので購入させていただきました」
王妃様が口火を切った。
「とても良い石鹸です。私の肌も髪も以前に較べると、凄く調子が良くなりました!」
ルシア様が興奮したように話した。
「それは良かったです。これからもご贔屓にお願いします」
「サイさんは旅に出られるそうですね。石鹸の生産は問題ないのですか?」
「王妃様のご懸念は尤もなことと存じますが、問題ございません。石鹸は私でなくても生産できるようにしてあります」
それを聞いて王妃様は安心したようだ。女性にとって肌や髪の潤いはとっても大事なことだとパルが言っていたっけ。
「サイ様が旅に出られると、寂しくなります」
「ありがとうございます。戻って来たら顔を出すようにします」
「絶対ですよ!」
旅から帰ってきたら顔を出す約束をして、王妃様とルシア様は部屋を出て行った。
前回同様、2人と入れ違いに宰相が入って来た。
「さて、本題に入ろうか」
終始無言だった国王が口を開いた。どうも国王は王妃様やルシア様に弱いようだ。
宰相が紙を差し出してきたので受け取る。
「アールデック公爵は隠居してもらう。さすがに公爵家を潰すわけにはいかぬゆえ、それで我慢してくれ」
「それは構いませんが、まさかモノグロークが公爵家を継ぐのですか?」
パドスがモノグロークを一発ぶん殴りたいと言っているので、公爵家の当主になられては面倒だ。
「それはない。あれは両親の悪いところを引き継ぎ過ぎている」
国王もそれが分かっているんだな。
だが、これでパドスの希望が叶うというものだ。俺も約束が守れるので、胸をなでおろす。
「余としては、貴殿に公爵家に戻って継いでほしいのだが」
「それはありません」
公爵家を継ぐつもりなら、とっくの昔にあいつらを追い出して家を乗っ取っている。
「そう言うと思っておったが、実際に聞くと本当に残念だ。のう、ホムリヤ」
「左様にございますな。しかし、そうなると誰に公爵家を継がせますかな」
そう言いながら2人が俺をチラチラ見る。可愛くないからな。
「それなら、エルデン子爵が良いでしょう」
仕方がないので、そう答えておいた。
「エルデンか。確かにあの者は誠実で頭も切れるが、ピニス辺りが反発するのではないか?」
ピニスは伯爵でアールデック公爵家の分家筆頭。傍流であるエルデン子爵が公爵を継げば、ピニスや他の分家が反発するのは簡単に想像できる。
「陛下の命を聞けない家を潰す好機ではないですか」
オレがそう言うと、国王と宰相は目を点にした。
この国は神殿と貴族の力が強い。王家を蔑ろにする家もあるくらいだ。そういった家を牽制するためにも、アールデック公爵家の分家を数家潰してみせるのもいいだろう。
「貴殿もアールデック公爵の血を継ぐ者であろう。良いのか?」
「アールデックとの縁は切れております。気にすることはありません」
必要であれば
貴族の悪さの証拠なら、いくらでもあるぞ。ついでに神殿の力も削いでおいてもいいけど、オレ的にはどうでもいい。ただし、大司教にはちゃんとケジメをつけてもらうつもりだ。まあ、それはいずれだな。
「あえて聞くことはしないが、他にも色々と隠し玉を持っていそうだな」
オレは国王の言葉に、笑みで応えた。
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