第43話
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043_モノグロークとパドス
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アールデック公爵を隠居させて幽閉、公爵夫人の幽閉、モノグロークの廃嫡と追放、エルデン子爵がアールデック公爵家を継承した。
エルデン子爵のアールデック公爵家の継承に反対した数家が、王命へ反抗したとして取り潰された。
そのどさくさに紛れて、ボロンボにモノグロークを攫てくるように命じた。
誘拐や暗殺はボロンボの本職なので、モノグロークは簡単に攫うことができた。
人望があれば手を差し伸べる者もいたかもしれないが、モノグロークが消えても誰も探すことなどしない。だから、攫っても捜索さえされなかった。
「あいつがお前の目を潰した奴か?」
縄で縛られたモノグロークを、パドスに見せた。
「間違いない。あいつです。あの時よりも太っているが、あの腐った魚のような目は忘れられません」
「今でもあいつをぶっ飛ばしたいと思っているか?」
「はい。1発殴らないと気が済みません」
パドスはモノグロークを殺したいとは思っていない。ただ、1発殴れれば気が済むと言う。
だったら、縄で縛られたモノグロークを殴って終わりにするかと聞いたら、動けない奴をぶっ飛ばしても気は晴れないと言った。
モノグロークの前に歩いていくと、オレの姿を見たモノグロークが芋虫のようにもがいた。
猿ぐつわを取ってやると、俺への罵詈雑言を吐きまくったのでパルの目が怖い。
「この役立たずが、殺してやる!」
これ以上好き勝手言わせておくとパルを抑えるのが大変なので、モノグロークの前に大金貨を積んだ。
積まれた大金貨を見たモノグロークは大人しくなった。王命で廃嫡と追放された今の自分の状況は理解しているようだ。
「その大金貨を全部くれてやってもいいぞ」
「何が狙いだ」
「簡単なことだ。冒険者登録して、そこにいるパドスと一騎討ちをしてもらいたい。勝っても負けてもその金はお前にやる」
「一騎打ちだと? がーっはっはっはっは! 剣帝である俺様と一騎討ちして、無事で済むと思っているのか!?」
「御託はいい。やるのか、やらないのか、ここで返事を聞こう」
モノグロークは鼻を鳴らしてパドスとの一騎討ちを受けた。
場所を冒険者ギルドに移して、モノグロークは冒険者登録した。
そのまま冒険者ギルドの訓練場へ向かい、決闘の手続きをする。一般人の決闘は認められていないが、冒険者は別だ。
冒険者ギルドでちゃんと手続きした決闘は、どんな結果になっても罪に問われることがないのだ。
殺し合いがしたいわけではないので、お互いに木剣での決闘にした。
モノグロークは真剣での決闘を望んだが、大金貨が欲しくないのかと尋ねたら従った。
「このガキを潰したら、今度はお前だ!」
木剣を俺に向けてくるが、俺は一騎討ちなどしないぞ。面倒くさい。
無視したらモノグロークは顔を真っ赤にして地団駄を踏んだ。半分だけとはいえ同じ血を引いているのかと思うと、つくづく腐った血なんだなと思う。できることなら自分の血を抜いて入れ替えたいくらいだ。
訓練場に冒険者たちが集まってきた。モノグロークのことを知らない冒険者のために、剣帝様だと教えてやる。剣帝なんて滅多に出ない希少なスキルだから、冒険者たちはかなり驚いていた。
驚く冒険者たちを見て、モノグロークはご満悦だ。それが最後まで続けばいいな。
今度はパドスのことを教えてやる。剣の修行をした農夫だと聞いた冒険者はあからさまにヤジを飛ばした。
さらには賭けまで始まったが、パドスに賭ける者がいない。仕方なくオレがパドスに賭けて、賭けを成立させてやった。
「これより剣帝モノグロークと、農夫パドスの決闘を行う」
冒険者ギルド警備部部長のダーナンが、立会人をしてくれるようだ。多分、オレに関係することなので、ギルマスが幹部を立会人にしたんだろう。
「両者前へ」
ダーナンを挟み、モノグロークとパドスが対峙する。
モノグロークは農夫になど負けるわけがないという、余裕の表情だ。
パドスは終始厳しい表情で、モノグロークを睨み口を真一文字に結んでいる。
ダーナンが決闘のルールを説明する。相手を気絶させるか参ったと言わせれば勝ち。あとは続行が危険だとダーナンが判断したらそこで終了だ。
命のやり取りは必要ない。パドスが納得できるかどうかだから。
お互いに説明を受けて距離を取ったら、ダーナンが開始の合図をする。
「始め!」
先に動いたのはモノグローク。大きな体を震わせて一気に間合いを詰めたモノグロークが、右手に握った木剣を縦横無尽に振り回す。
パドスはその木剣を受けることに集中しているが、数回に1回はモノグロークの木剣が掠って小さな傷が増えていく。
「ハハハ! 俺様に勝てるとでも思っていたのか、平民ごときが!」
勝てるかは分からない。だが、パドスのことを平民と言うモノグロークも、今では平民だぞ。
父親が隠居させられて幽閉されているのに、モノグロークは追放。普通はモノグロークがその跡を継いで公爵になるのだが、モノグロークは国王も呆れるほど傲慢で無能だった。おかげで貴族籍を剝奪されて追放処分になった。
「オラオラオラ! そんなにカメのように防御していても、俺様には勝てないぞ!」
モノグロークの猛攻撃は続き、パドスの体中に細かい傷が目立つようになってきた。
だが、パドスの目は諦めていない。モノグロークが作るであろう、一瞬の隙を狙っている目だ。
それに、モノグロークの動きが、最初の頃に較べると遅くなってきている。
訓練をサボっているのに、絶え間なく剣を振っていればすぐに疲れが出るのは当然だ。そういった基礎の部分に、剣帝とか農夫とかは関係ない。
パドスの目が見開かれ、モノグロークの木剣を弾いた。
「何っ!?」
「はっ!」
大きく仰け反ったモノグロークの肩にパドスの木剣が打ちつけられ、モノグロークは木剣を手放してしまった。
「ウギャァァァッ」
肩を押さえてのたうち回るモノグロークは、あまりにも醜い。あれでは剣帝のスキルが泣くぞ。
モノグロークの性格は自我が形成された頃から悪かったし、努力という言葉とも無縁だった。そんなモノグロークに剣帝を与えた剣神は、見る目がなかったということだ。
「それまで! この勝負はパドスの勝ちだ!」
ダーナンがパドスを勝者と判定した。
そのパドスはつきものが落ちたような清々しい顔をしている。
「ふざけるなっ!」
木剣を拾い上げたモノグロークが、パドスに襲いかかった。
不意を突かれたパドスは、その木剣で頭部を打ち付けられそうになった。
「ショット」
オレが放った小さな魔力の弾は、音速を越えてモノグロークの顎に命中した。顎を砕かれ、脳を揺らされたモノグロークの目の焦点がズレた。
「はへっ……」
足がふらついて倒れたモノグロークは、脳が揺らされて平衡感覚を失って地面の上でもがいている。
脳震盪が収まれば、顎と肩の骨を砕かれた痛みが襲ってくるだろう。だが、モノグロークを治療するつもりはない。
「パドス。行くぞ」
「はい!」
あとは冒険者ギルドに任せる。幸いにも、モノグロークは大金を持っているので、治療費を払うことはできるだろう。
治療費でどれだけの金が飛んでいくかは、俺のあずかり知るところではない。
目的は果たした。いつまでもモノグロークなどに関わっている暇などない。
その後のモノグロークがどうなったか、オレは知らない。犯罪に手を染めたか、どこかで野垂れ死んだか、どうでもいいことだ。
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