第28話

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 028_大幹部2/2

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「吸い尽くせ」


 さすがは元騎士。膝を付き荒い息をしているのに、気丈にもオレを睨んでくる。

 生命力が一気に抜かれると、恐ろしいほどの脱力感に見舞われる。それを耐えるのは、かなりの精神力だと思う。


「なに……を……した……」


 10秒も持ったのだから、褒めていいだろう。


「悪事に手を染めたことを、後悔しながら余生を送りな」


 元騎士はすでに槍を持つ力もなく、地面に両手をついている。

 動けない元騎士を無視して地下への階段を下りていくが、かなり暗い。


 ―――エリアライト。


 オレを中心に、20メートルほどの視界が確保される。

 階段を下り、通路を進む。通路は所々壁に窪みがあって、待ち伏せしやすい形状をしている。

 ただし、隠れていてもマップにその反応がしっかりと出ているので意味はない。


「吸い尽くせ」


 窪みに隠れている闇ギルド員たちが、バタバタと倒れていく。


 奥へと進んで突き当りの扉を開ける。

 貴族のような服を着た渋面ヒューマン、大きな体をしたクマの獣人の戦士、子供と間違えそうになる小人のメイドの3人が居た。


「ボスはやらせん!」


 大幹部じゃなくてボス? クマ獣人にとってはボスってわけなんだ。

 クマ獣人が突撃してくる。その巨体で体当たりされたら、軽量のオレは吹っ飛ぶだろう。当たればだけど。


 ―――エリアセイントバリア。


「何っ!?」


 エリアセイントバリアはゴースト系のモンスターを拘束するためだけのものではない。普通に誰かを閉じ込めることもできるんだよ。あのレッドドラゴンのように。

 クマ獣人が見えない壁をバンバンと叩いているが、そんなことで破られるほど軟なものではない。


「ここが襲撃されるとはな……」


 ヒューマンが、苦々しい表情でオレを睨む。


「手を出す相手は、選ぶべきだと思うぞ」

「そのようだな」


 テーブルの上に置かれていたヒューマンの指が、わずかに動いた。オレが立っていた床が抜けて穴が開く。


「………」

「悪いね。オレ、飛べるんだ」


 フライがあるオレに落とし穴は、有効じゃない。


「フフフ……。降参だ。好きにしろ」


 ヒューマンが両手を上げて、降伏のポーズをとる。


「まさか、ナイトクロウの大幹部の俺が、こんなガキに降伏するとはな」


 渋面にシワが寄る。


「ふっ、誰が大幹部だって?」

「なんのことだ?」

「お前はただの影武者。見た目がボスっぽいだけで、大幹部でもなんでもない。大幹部はそっちのメイドだということは、分かっているんだけど」


 メイド姿の大幹部に向かって、ニヤリと笑みを浮かべる。


「「………」」


 ターゲットサーチは渋面ではなく、メイドを指している。

 それはメイドのほうが大幹部だということを表しているということ。

 距離が離れすぎていると反応しないが、ターゲットサーチが示す目標に間違いはない。


「何を言っているか分からんな」


 とぼけたって無駄だよ。


「まあいい。クマもお前もメイドも、皆、ここで死ぬのだから、変りはない」

「ま、待て! 俺は罪深い奴だが、このメイドは攫ってきて働かしていただけだ。首を見ろ、奴隷の首輪があるだろ!」


 必死だね。

 だけど、その必死さが逆にメイドが大幹部だと言っているんだよ。


「もうよい」

「っ!?」

「わらわがお主の目的の者じゃ」

「そんなことは、知っている」


 さっきからそう言っているんだけど。


「わらわをどうするつもりだ?」

「言っただろ、殺すって」

「死にたくはない」

「オレを殺そうとしたのに? それは都合が良すぎる言い分だよね」


 往生際が悪い奴だね。


「わらわが死ねば、多くの者が路頭に迷う」


 だから何? オレは殺されてもいいけど、自分は困るとか、我儘か。


「わらわが稼いだ金で、孤児たちを食わせているのだ。お主にこの命を取られるのは、非常に困る」

「孤児を食わせているから、なんだと言うんだ? どうせ、その孤児を暗殺者に育てているんだろ?」

「そうだ。だが、そうしないと生きていけないから、そうしている。孤児が成長しても、まともな職に就けぬからの」

「孤児という言葉を出せば、オレが見逃すとでも思っているのか?」

「そうしてもらえると嬉しい」

「……で、先ほどからお前がしていることは、その言葉とは反対のことだけど、オレを舐めているのかな?」

「っ!? な、なんのこと……だ?」

「オレを魅了しようとしても、無駄だということだよ」


 このメイド服姿の小人は、オレを魅了しようとしていた。

 残念ながらオレの加護は創造の女神アマリアのものなので、圧倒的な神威によって魅了を弾いてくれた。


「言い残すことが他になければ、死になよ」


 セージストーン、吸い尽くせ。


「止めろ!」


 ヒューマンが小人を庇うように後ろに隠した。


「ぐっ」


 渋面ヒューマンが膝を付いているが、それでもメイドを庇おうと必死。

 オレはセージストーンを止めた。

 このヒューマンは、魅了されていない? 目を見れば分かる。


 ―――アナライズ。


 光がクマとヒューマン、そして大幹部を包み込む。


「な、なんだこれは!?」


 ヒューマンは重い体を無理やり起こして、なおも大幹部を庇おうとした。


「………」


 あんた、見上げた根性だよ。


「ボロンボ。お前、いい部下を持ったな」

「わらわには、すぎた者」


 本当に、そうだよ。


「そのジャガスに免じて、選ばしてあげるよ」

「なぜ、俺の名を……?」


 アナライズで情報を得られたからだよ。


「オレの配下になるか、それともここで死ぬか。好きなほうを選べ」

「なっ!? ボスにそんなこと」

「黙っていなさい」

「………」


 ボロンボがジャガスを黙らせる。


「配下になったら、私と部下たちを生かしてくれるのですか?」

「そうだ。ただし、配下になるのだから、オレの命令には従ってもらうぞ」

「……分かりました。貴方に従いましょう」

「オレを裏切ったら、殺してほしいと懇願するほどの苦痛を味わってもらうことになるぞ。いいな?」

「構いません」


 ―――コントラクト。


「契約成立。これからよろしく頼むぞ」


 その時、背後にパルが現れた。

 音も気配もなにもない。ターゲットサーチがなければ分からなかった。


「パル。ボロンボが配下に加わったよ」

「またロリですか。私という者がありながら、なぜロリに走るのですか?」

「いや、オレはロリコンじゃないからね!」


 まったくパルは。こんなことではしまらないじゃないか。


 

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