第27話

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 027_大幹部1/2

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 闇の中を飛翔する。

 この王都にあるナイトクロウの拠点は5カ所。

 その中で、今回のオレの暗殺を請け負った者がいるのは、王都北部にある住宅街の中。


 ナイトクロウはこのオルドレート王国全域で活動する裏ギルド。

 30年ほど前に立ち上げられた犯罪組織だけど、4年ほど前に創始者が死んだ。それ以来、3人の大幹部が合議によって組織を運営している。

 オレの暗殺を請け負ったのは、大幹部の1人であるボロンボ。これからそのボロンボに会いに行く。

 ターゲットサーチには、しっかりとボロンボの反応がある。暗殺者たちから得た情報通り、北部の拠点にいるのはそれで明らか。


 四階建てのアパートメントタイプの建物が、ナイトクロウの拠点になる。

 周囲にも同じようなアパートメントがあり、普通の一軒家も多くある。

 見た目は普通の住宅街だけど、その拠点だけは正面入り口に4人、裏口に3人の見張りがいる。

 住宅街なのに、こんなに目つきの悪い奴らが多いと通報されるんじゃないかと思うけど、その心配はない。

 なぜなら、この住宅街の顔役とナイトクロウは繋がっているのだから。

 顔役はかなりの賄賂を得ていて色々協力もしているので、ある意味、ナイトクロウの一味と言っても過言ではない状況。


「パルは裏口から入ってくれるかな」

「坊ちゃまであれば問題ないと思いますが、どうぞお気をつけて」

「うん、ありがとう」


 アパートメントの屋上に降り立ち、お姫様抱っこしていたパルを下す。

 ふわりとバラの香りが鼻をくすぐる。オレが作った石鹸を愛用してくれて、嬉しいよ。


「それでは、いってきます」

「頼んだよ」


 パルは裏口のほうへ向かうと、屋上から飛び降りた。

 四階建てなのでその高さはかなりのものだけど、パルにとってこんな高さは大したものではない。

 ふわりと地面に下り立つ。そこは見張りたちの目の前。

 3人の見張りはいきなり現れたメイド服の爆乳美女に面食らい、しばし呆然とした。

 その間にパルが動いて、3人は一言も発することなく地面に倒れ伏した。


「さて、オレも行くか」


 オレは正面のほうに降り立つ。オレにはフライがあるので、パルとは違って落ちるのではなくゆっくり落下する感じだ。


「何者だ!?」


 オレの気配に気づいた見張りが、声を張り上げた。

 パルは気づかれなかったけど、オレは気づかれた。これがオレとパルの差。まだまだ修行が足りない。


「オレはサイ。すぐにお別れだから、覚える必要はないよ」

「てめぇっ!」


 1人が剣を抜いて飛びかかってきた。他の3人も剣を抜いている。

 さすがは裏組織の構成員たちだ。なかなかいい動きをしている。

 真面目に働けば、冒険者としてそれなりに大成していたんじゃないか?

 剣を避けたオレは、懐からなんの変哲もない灰色の石を取り出した。


「吸い取れ」


 4人が地面に膝をつく。


「な、なん……だ……?」


 4人の顔がみるみるうちにシワシワになっていき、その場に倒れた。このセージストーンに生命力を奪われたからだ。

 死んだわけではない。ただし、死ぬ直前くらいには生命力を吸ったけ。

 今の彼らは老衰で死にかけた老人と同じ。余命いくばくもない状態だ。


 この石は御伽噺などでよく語られるもの。

 その存在は誰もが知っているけど、誰も手にしたことがない。言わば、伝説の石である。


「今までの悪さを悔やみながら、あと数日の命を謳歌するといい」


 これはセージストーン―――賢者の石というものだ。

 多くの魔導士や錬金術師たちが日夜研究しているが、誰も作り出すことができていないもの。オレ以外は。


「まだ足りない」


 セージストーンは人の生命力を吸う。それが、これまでに誰も作ることができなかった理由。


 正面玄関の扉はカギがかかっていた。しかも扉の向こうには多くの敵対者の反応がある。

 ターゲットサーチって本当に便利。でも、ターゲットサーチに頼っていると、自分の感覚を研ぎ澄ますことができない。ちょっと反省。


 扉を蹴り飛ばし、セージストーンを発動させる。

 8人が一瞬で動けなくなり、3人はなんとか倒れるのを耐えた。

 だけど、3秒で生命力のほぼ・・全てを吸われて動けなくなった。

 今の彼らは、100歳の年寄りのようなものなので、思うように体が動かせない。

 放置すれば、あと数日で死に至る。


 もし、このセージストーンをオレが作ったと知られたら、おそらくだけど宮廷魔導士にならないかと誘われると思う。

 そういった誘いがあっても断るつもりだけど、それでもオレの名声は王国内だけではなく、大陸中に鳴り響くはず。セージストーンというのは、それほどのもの。


 セージストーン。それは不老不死を現実のものにしてくれる石。

 エルフなどの長命種の寿命は1000年を越えるが、オレのようなヒューマンだと100年にも満たない。

 80年生きたら長生きだと言われる俺たちヒューマンの寿命を延ばすことができるのが、このセージストーンだ。別にヒューマンに限らないが、その寿命が明らかに延びる。

 どれだけの命を吸っているかによってその年月は違うが、若さを保ってくれて死ぬほどの怪我をしても癒してくれる。

 権力者にとっては喉から手が出る程欲しいものに違いない。


 まあ、ここに居る悪党たちの生命力を集めるだけなので、その効果は寿命を10年ほど延ばすくらいだと思う。

 セージストーンは集めた生命力と、延ばせる寿命がイコールではない。かなり変換効率が悪いのだ。

 それに怪我などを治せば、延ばせる寿命が少なくなる。


 セージストーンを持った左手には手袋をしている。

 この手袋には、セージストーンをコントロールするための模様が描いてある。俗に言う魔法陣だ。

 この魔法陣がないと、セージストーンをコントロールできず、セージストーンに生命力を溜めることができないだけでなく、オレの命も吸われてしまう。

 セージストーンの取り扱いはとても繊細なんだ。

 裏口からパルが入ってきた。オレとアイコンタクトしたパルは、そのまま階段を上がっていく。


「上はパルに任せておけばいいから、オレは下へ行くことにしよう」


 このアパートメントには、隠された地下室への入り口がある。

 ターゲットサーチの立体マップがなければ、地下室への入り口が分からなかった。もしくは、発見までにそれなりの時間を要しただろう。

 上手く隠された地下への扉を開けると、槍が突き出されてきた。その槍を右手で掴んで引っ張ると、扉の向こうの暗がりから男が顔を出した。


「何者だ!?」

「何者だって? フフフ、お前たちのターゲットの男だよ」

「っ!?」


 男が目を剥いたのは一瞬で、すぐに平静を装った。


「なんのことだ?」

「何も証拠がないのに、乗り込んでくるわけないだろ」

「ちっ」

「その歪んだ表情は何? まさか反撃されないとでも思ったのかな? 甘い、甘くて反吐が出るよ」


 剣を抜いてオレに斬りかかってくる。その剣捌きが妙に堂に入っている。

 この剣を、オレは見たことがある。


「あんた、元騎士だろ」

「………」


 騎士崩れというのは珍しくないが、それが裏ギルドの用心棒に成り下がっている。

 騎士だった男がこんなことをしているのには、それなりの理由があるのだと思う。でも、楽しんで人を殺す奴に成り下がっているのであれば、アウト。


 

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