第29話

失礼しました。

パドスに関することについて、29話と30話を入れ替えました。

以前、話の構成を変えた時に、配置を間違えてしまいました。





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 029_使用人

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 闇夜のカラスナイトクロウの大幹部ボロンボは、子供と間違えそうになる小人族だ。

 パルがロリ枠とうるさいが、俺よりもかなり年上だからな。

 そんなボロンボを部下に加え、働かせる。


「子供たちに働く場を与えてくださり、感謝します。我が君」


 ボロンボが引き取っていた子供たちに、俺の屋敷で育てている薬草の面倒を見てもらうことにした。

 上は13歳くらいから下は4歳くらいまで幅広く居る。

 暗殺者に適した加護やスキルを得たら、ボロンボの手下として暗殺の術を教え込んでいる。

 今さらそういった子たちに普通の暮らしをしろと言っても簡単ではない。

 日陰の道を歩ませるつもりはないが、暗殺術は色々役立つ。


「分かっていると思うが、子供たちの意思を尊重する。暗殺者、冒険者、農夫、商人、何になるかは、子供たち次第だ」

「分かっております」

「あと、畑を耕す子供たちには、読み書きと簡単な算術を教えろ。それくらいはできるな」

「適任の者がおります。あの者であれば、読み書き算術はお手の物にございます。我が君」

「その我が君というのは、止めろ。オレはサイだ。いいな」

「承知いたしました。サイ様」


 子供たちに勉強を教える適任者だが、あの騎士崩れだった。

 名前はメディス・オルバン。オレの想像通り、元騎士だ。


 メディスがボロンボの配下になったのは最近。

 元は王国騎士団に所属していたのだが、上司との折り合いが悪くその上司を殴ってしまったのだが、その上司が悪かった。伯爵家の次男坊だったんだ。

 メディスは騎士団を追い出されたが、再就職もままならず、妻は失意のうちに病死し、1人娘も同じく病死してしまった。

 世をはかなんだメディスがボロンボに拾われるのは必然だったのかもしれない。

 ボロンボが言うには、顔に似合わず子供が好きらしい。幼くして死んでしまった自分の子と重ねているのかもしれない。

 今も子供たちと一緒に畑を耕している。あんな柔和な表情をするとは思えない強面なのに。


「これもサイ様が皆の命を助けてくださったおかげです」


 セージストーンで吸い取った生命力は、返してやった。

 ただし、セージストーンは変換効率がわるいので、吸い取った生命力の半分も返すことができなかった。

 だから、モンスターから命をもらって、彼らに返してやった。

 かなり多くのモンスターから命を奪わなければいけなかったので、めちゃくちゃ大変だった。ちょっと後悔。


 ・

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 ・


 今日はこれまでで一番の寒さになった。

 それでも治療院はいつもの時間にオープンする。


「ん、お前は……話す気になったか?」

「ちっ」


 以前、治療を受けにきた黒髪黒目の片目の少年が、舌打ちして診察台に座った。


「冷やかしか? だったら帰ってくれ」

「喋るよ」

「なら、さっさと話せ」


 片目が潰れた話は、どこかの貴族のボンボンに無礼討ちにされたそうだ。

 そのボンボンがどこの誰かは知らないが、顔は覚えている。恨みを晴らす機会があるのなら、晴らしたいような感じだ。


「まあ、貴族なんかに近づいたお前が悪い。諦めるんだな」

「うっせー」

「で、親はどうしているんだ?」

「親父の顔は知らない。お袋はどこかで飲んだくれているだろうよ」


 まあ、そういった身の上は珍しくもない。


「目が治ったら、何をするんだい?」

「そんなことは、聞かなかっただろ!」

「今、気になったから聞いた」

「くっ」


 人の弱みに付け込みやがって、と言いたそうな目だ。


「ほら、どうした。言わないのか?」

「冒険者になるんだよ。別に貴族を探し出して、やり返そうなんて思ってない」

「ならいいけど。そこに横になって」


 別に嫌がらせをしているわけではない。

 こうやって人と話すことを、覚えてもらおうと思っただけだ。


「お前、目が治ったら、オレのところで働け」

「はあ? 何言ってんだよ!?」

「言葉が分からなかったのか? それとも耳も悪いのか?」

「ちげーよ! なんで俺がお前のところで働くんだよ」

「お前じゃないだろ、サイさんと言え」

「ッザケンナ」

「で、オレのところで働く。でいいな?」

「俺は冒険者になるって、言っただろ」

「お前みたいな向こう見ずの奴は、すぐに死ぬから止めておけ」

「てめぇっ!」


 掴みかかってくるが、その腕を掴んで止める。


「くっ」

「動いてみろ。オレの力にもかなわないお前が、魔物なんか倒せるわけない」

「う、うるせぇ!」

「正直に言うが、お前の加護とスキルでは戦いは無謀だ。スキル・農夫でどうやって戦うんだ?」

「な、なんでそのことを!?」


 彼のスキルは農夫。誰でも知っていることだけど、農夫は魔物と戦うスキルではない。

 土を耕し、作物を育てるのがこのスキルの効果。

 オレのように創造の女神アマリアの加護を得ているわけでもないので、農夫に特別な効果があるわけではないのだ。


「で、どうするんだ? オレのところで働く気になったか?」

「だ、誰が」

「なんだ、働かないのか。残念だなぁ。じゃあ、帰っていいよ」

「なっ!? 俺の目はどうするんだよ!」

「冒険者になって死ぬくらいなら、今のまま生きたほうがいいだろ」

「て、てめぇ!」


 少年は体中から怒りを発して、オレを睨みつける。

 なんでか分からないが、放っておけないんだ。こんな向こう見ずの死にたがりなんて、どうでもいいはずなのに。


「坊ちゃま。矯正しますか」


 パルがネコのように少年の首ねっこを掴み上げた。


「いや、矯正はしないから」

「この野郎、放せよ」

「パル。放してやって。治療を受けないようだから、お金も返してやって」

「坊ちゃまは甘いのです。こんな農夫が冒険者になっても野垂れ死ぬだけ。さっさと治療して放り出せばよいのです」

「そうはいかないだろ」


 関わってしまった以上、彼には生きてもらいたい。

 たとえ片目が見えなくても冒険者になるくらいなら、今のままでいいじゃないか。


 

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