第30話
失礼しました。
パドスに関することについて、29話と30話を入れ替えました。
以前、話の構成を変えた時に、配置を間違えてしまいました。
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030_魔力欠乏症1/2
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またあの少年がやってきた。片目が潰れた少年だ。
「冒険者ではなく、オレのところで働く気になったか?」
「……1つ条件がある」
「どんな条件か聞こうじゃないか」
「俺の目を潰した奴に、思い知らせてやりたい」
結局そこに行きついてしまうのか。
「相手がどこの誰か知らないのだろ?」
「名前は知らない。だが、顔は覚えている!」
「恨みを忘れることはできないのか? 相手は貴族なんだろ?」
「お前は目を奪われていないから言えるんだ!」
理不尽に目を奪われた彼の憤りは、理解できるつもりだ。
これでもモノグロークに背中を切られた過去があるからな。
まあ、俺の場合は自力で傷を塞ぐことができたけど。
「どうやって、相手を捜す気だ? お前では貴族街に入ることはできないぞ」
「分からない。だから、捜す手助けをしてくれ」
「捜し出してどうするんだ?」
「1発ぶん殴ってやる」
彼の気持ちは分かる。殴って気が済むのなら、殴らせてやりたいが……。
「そうなったら、お前は犯罪者として捕まるぞ」
「あんたに迷惑はかけない」
「いや、使用人が貴族を殴ったとなれば、間違いなく迷惑がかかるんだが?」
「………」
そんなことまで気が回らなかったか?
スラムで育ったため学があるわけではないだろうから、仕方がないかもしれない。それとも考えなしな性格なのか。
「その相手の特徴は?」
「年齢は俺とそんなに変わらない。赤毛でデブで、俺様とか言っていた」
そんな特徴の奴が、どれだけいると思っているんだ?
「あと、ここに
「ん?」
少年は鼻の左下を指差した。
「本当にそこに黒子があったのか?」
「ああ、間違いない。あんな目立つ黒子を見間違えるわけないだろ」
オレはその人物に心当たりがある。て言うか、心当たりがありすぎるんだけど。
そいつはモノグローク。そう、オレの弟だった奴だ。
モノグロークの鼻の左下には黒子があり、体格はかなり良いというか太い。
幼い時から暴飲暴食を繰り返していたので、オレよりもはるかに大きな体をしているのだ。
それに「俺様」というのも聞いたことがある。
何よりもモノグロークの性格は粗暴で考えなし。平民相手なら平気で暴力を振るだろう。否、貴族でも下級貴族なら、平気で暴力を振るう。オレはそんな場面を何度も見てきた。
「その傷を負ってからかなりの年月が経つが、その相手の顔を見たら分かるのか?」
「当然だ。あいつの顔は、何年経っても忘れない。ガキのくせに脂ぎった顔をした目つきの悪いクソ野郎だ」
脂ぎったところや目つきの悪いところも、モノグロークの特徴に当てはまる。
「そいつを殴れたとしても、いつになるか分からないぞ」
「構わない」
「その黒子の奴には、オレも苦い思いをさせられた。多分、同じ相手だ」
「あんたもか?」
「そうだ。もしかしたら違う奴かもしれないが、同じところに黒子のある同年代の奴がそれほど多くいるとは思えない。協力しよう」
「いいのか?」
「それが条件なんだろ?」
「そうだが、あんたも捕まるかもしれないんだぞ」
「だったら、目を治すのは止めるか?」
「……いや、頼む」
「いいだろう、治してやる。だけど、目を治した後は、オレの家で働くのを忘れるなよ」
「約束は守る。あんたも忘れるなよ」
「当然だ。約束は何があっても守る」
オレは彼の目を治してやった。
この黒髪黒目の少年の名は、パドス。オレより1つ年上の16歳で、豊穣神の加護を与えられていてスキルは農夫【極】。
農夫【極】は農業をする上では非常に有用なスキルだけど、戦闘力はない。パドスには薬草園の面倒を見てもらうつもりだ。
「この農園の面倒を見ればいいのか? 痛っ!? 何するんだ!?」
パルがパドスの頭を殴った。
「あなたは坊ちゃまの使用人ですよ。その言葉遣いは直しなさい」
「そんなこと言っても、どうすればいいんだよ?」
「今日から私とソルデリクで教育します。覚悟なさい」
「えーーー痛っ! 殴るなよ」
「坊ちゃまに仕えた以上、甘えは許しません」
パルとソルデリクに仕込まれたら、どんな人間でも貴族家の執事になれるだろう。がんばれ、パドス。
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今日は終わろうとしたところで、扉が開くベルの音がした。
入ってきたのは、ずいぶんと身なりの良い白髪の紳士。
「サイ先生に往診をお願いしたく、まかり越しました」
綺麗な所作で頭を下げる。
多分だけど、この人は貴族家の執事。
「本日の診療は終わりました。それに往診はしておりません」
パルが拒否する。
胡散臭い貴族の執事だからな。
「そこを何とかお願い申しあげます」
声に必死さがある。相当切羽詰まっている感じがする。
「どこに向かえば良いのですか?」
「坊ちゃま」
「パル。患者がオレを待っているんだ」
「……分かりました」
「ありがとう存じます。向かう先は、西貴族街の一角にございます」
西貴族街は領地持ちの貴族の屋敷が集まる場所。
領地持ちの貴族は、基本的には国政に携わらないため、全ての領地持ち貴族が王都の屋敷を持っているわけではない。
だから、王都に屋敷を持っているのは、それなりの貴族だ。
「家名は?」
「ここからは決して口外されないようにお願いいたします」
執事はそう念を押して、教えてくれた。
ゾルドー辺境伯。マルテス王国との国境を守る家で、このオルドレート王国でも有数の武門の家になる。
「患者の容体は?」
「衰弱が酷く、あまり良くないと、医師が申しております」
「それで藁をも掴む思いで、オレのところに来たわけか」
「何卒……」
「できる限りのことはしますよ」
パルと共に、執事が用意していた馬車に乗り込んだ。
「坊ちゃま」
「分かっている」
西貴族街に向かっているはずの馬車は、その逆へと進んでいる。
執事がオレを罠にハメようとしている可能性はある。でも、執事からは敵意は感じない。ターゲットサーチでも敵対者判定をされていない。準敵対者でもない。
嘘は言っているけど、患者が居るというのは嘘ではないと思う。
「到着いたしました」
大きな屋敷だが、ここは王都郊外。
「さて、オレたちをここに連れてきた理由を聞こうか」
「分かってしまいましたか……」
外は真っ暗なので、馬車の中に居たらどっちに進んでいるか分からない。
だけど、オレにはターゲットサーチがあるし、パルには経験に裏づけられた勘がある。
「ここはゾルドー辺境伯の屋敷なのか?」
「はい。ゾルドー辺境伯が所有する別宅になります」
王都郊外にあるゾルドー辺境伯の別宅に患者が居る。
オレにとってはどこに居ても患者は患者だけど、行先が騙されたことは不快に思う。
「行先について嘘を申しましたこと、誠に申しわけなく存じます」
執事は深々と頭を下げた。
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