第31話

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 031_魔力欠乏症2/2

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「このお詫びは改めてさせていただきます。今は往診をお願いしたく」

「随分と虫がいい話ですね」

「申しわけなく……」

「嘘を吐く奴は、不誠実で信用できません」

「パル。そんなに虐めてやるな」

「坊ちゃまは甘いのです」

「そうだな。でも、患者が居るみたいだからさ」


 パルはプンスカ怒ってくれる。

 でも、患者がオレを待っているので、パルを宥めて屋敷の中に入る。

 大きな屋敷だけど、使用人の数は少ない。そんな屋敷の中を進み、ある部屋の前に到着。


「こちらになります」


 執事が促すと、扉の前に控えていたメイドが扉を開けてくれる。

 部屋の中はランプの淡い光があるだけ。2人のメイドが、天蓋付きのベッドの両サイドに控えている。


 天蓋付きベッドへと近づいていくと、寝ている人物の顔が見えてくる。

 肌が土色に変色し、まるで水分がない。多分、年齢は16、17といったところだと思うけど、その肌から老人のように見える。

 呼吸は非常に浅くまるで生気が感じられず、わずかに残った新緑色の長い髪も潤いがまったくなくパサついている。


「いつからこの状態なのですか?」

「10日前に急に倒れられ、それ以降寝た切りになってしまいました」


 軽く見ただけでも、もう長くないのが分かる。

 しかし、10日でこの状態になるものなのか?


「診断を始めますので、毛布をめくってください」


 執事が頷くと、2人のメイドが毛布をめくる。

 髪は抜け落ちているが、体型から女性なのは分かる。顔だけではなく腕や足も土色に変色している。全身がこの状態。


 ―――アナライズ。


 光の帯が患者を包み込んでいく。


「魔力欠乏症」


 それが彼女の病名。

 しかし、おかしい……。彼女は魔力欠乏症を引き起こす毒を盛られたようだ。そんな毒のことは、聞いたことがない。


「先生。魔力欠乏症というのは、どのような病なのでしょうか?」

「治療の邪魔です。話かけないでください」


 パルが執事を窘める。


「し、失礼いたしました……」


 魔力欠乏症というのは、魔力が不足する病気。

 彼女は毒によって魔力欠乏症と同じ症状を起こしているのだ。つまり、魔力残量がゼロになる異常な体質になってしまったのである。

 魔法使いが魔法を使いすぎると、魔力が減っていき気分が悪くなる。さらに減ると気を失うこともある。

 普通は自然に魔力が回復していくので魔法を使わなければ数時間で動けるようになるのだが、魔力欠乏症は魔力が回復するどころか常に放出している状態になるのだ。


 人間は誰でも魔力を保有している。

 魔力の保有量には個人差があって、魔法使いとして活躍している人は魔力が多く、そうでない人は少ない傾向にある。

 彼女は元々魔力を多く保有していたはずだけど、その魔力が全く残っていない。10日でこんな状況になるとは、恐ろしい毒だ。


「彼女が倒れる前、変わったことはありませんでしたか?」


 普通、魔力欠乏症の症状は緩やかに進む。

 いきなり症状が進行するようなことはない。とは言ってもどんな毒なのか分からないので、明確なことは言えない。

 今言えることは、この毒が急速に魔力を放出すること。しかも、通常の魔力欠乏症の治療では完治が難しいということだ。


「タッカー伯爵家のキルラ様の招待を受け、お茶会に出席されたくらいですが?」

「魔力欠乏症は珍しい病気ですが、病状が一気に進行するものではありません。ただし、この症状は毒によって引き起こされたものです」

「ど、毒っ!? ……お茶会で何かがあったと……申されるのですか?」

「分かりません。しかし、その可能性は否定できません」

「治療はできますか?」


 彼女は体の中にある魔力を回復させる機能に異常がある。

 だから、その機能を正常な状態に戻せば、症状は改善する。毒で壊された機能だろうとね。


「やってみましょう」


 ―――デトックス。


 まずは体の中に溜まった毒素を解毒した。

 魔力がなくなることで、体の免疫機能が異物に過剰反応してしまい、人体に悪影響のある物質を分泌する。まずはその症状の発生を抑制する。


 ―――キュア。


 毒素に侵された異常な細胞を浄化する。

 異常な細胞が体の中に残ったまま治療すると、症状が再発することがあるからだ。


 ―――リジェネレーション。


 正常な細胞の再生。

 体中が毒素に侵されていたため、その修復に多くの魔力が持っていかれる。


「ふー。治療は終了です」


 土色だった肌は白色に戻っている。それに、頬が薄っすらと色づき、生気が戻っているのが分かる。

 呼吸も正常なものになっているし、心拍数も通常だ。

 ただし、抜け落ちた髪は生えるまでに時間がかかる。それは時間が解決してくれるだろう。


「おおお、姫様!」

「「姫様!」」


 執事とメイドたちが、彼女を囲む。


「しばらくすれば魔力が自然回復して、目を覚ますでしょう。その後は消化が良いスープなどを食べさせて、体力の回復に努めてください」

「先生、なんとお礼を言えば良いのか。このご恩は決して忘れません」


 通常はやってない往診をしたんだ、忘れてもらっては困る。

 オレはそう言外の含みを込めた笑みを浮かべた。





失礼しました。

パドスに関することについて、29話と30話を入れ替えました。

以前、話の構成を変えた時に、配置を間違えてしまいました。

 

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