第11話

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 011_治療院1/3

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 唐突だが、治療院をオープンさせた。

 お昼になっても、患者はまだない。


 レッドドラゴンはまだ売れてない。

 大金が動くのだから、それなりに時間はかかる。そんなことはいい。


 治療院を開院したのは、生活魔法【創】の熟練度を上げるためだ。

 治療をすることで生活魔法【創】の練度が上がりやすいのだ。


「暇だな」

「暇ですね」


 治療院の受付に座るパルのお尻を眺めながら、オレは治療用ベッドに寝そべっている。

 相変わらず、素晴らしいお尻だ。鷲掴みにして揉みしだきたいという衝動にかられる。

 このまま患者が来なければ、本当にパルのお尻を揉みそうだ。


 まあ、すぐに患者が来なくても、なんの問題もない。

 だけど、せっかく格安で治療するんだから、使わない怪我人や病人のほうが損をしているんじゃないかな。


「暇ですから、イチャイチャラブラブしましょうか」

「どういう考えなんだと言いたいところだけど、ここまで暇だとさすがにな~」


 くるりと体をこちらに向けたパルが、とっても妖艶な笑みを浮かべている。

 今のパルは看護師風の白衣を着ているが、胸元が大きく開いていて爆乳が零れ落ちそうだ。スカートもかなり短く、座っていると三角ゾーンが見えそうで見えないというチラリズムを刺激する。

 豊満な胸と肉欲的なお尻。ウエストはキュッと引き締まっているし、白衣と褐色の肌が妙なエロスを醸し出している。これ、絶対オレにアピールしているよね?


「坊ちゃまの黄金の瞳に熱っぽく見つめられると、濡れちゃいます……」


 パルは頬に手を当てて、くねくねする。

 そんなに熱い視線だったかな? 欲情しているのは否定できないか……。


 チリンチリン。

 ドアベルが鳴ったので入り口を見ると、杖をついたイヌ耳の男が立っていた。

 ドアベルが鳴った瞬間、パルが舌打ちしたのをオレは聞き逃してはいないからな。オレもちょっと残念だよ。


「あの看板に書いてあることは、本当か?」


 看板には『サイ治療院』の他に、料金のことが書いてある。

 この男は料金のことを確認しているのだろう。


「四等民であれば大銅貨五枚。三等民なら小銀貨二枚で治療しますよ」


 パルが看護師モードで応える。

 四等民というのは貧民のことで、三等民が平民のこと。ちなみに、二等民は貴族に仕える使用人たちで、騎士のような準貴族は一等民。

 貴族になると爵位で判断されるので、なんとか民とは言われず貴族とか貴族位で呼ばれる。


 大銅貨1枚でパンが買える程度の金額なので、大銅貨5枚はパン5個分。

 小銀貨2枚にしてもパン20個分なので、そこまで高額というわけではない。

 神官に頼んだら、ちょっとした怪我でも小金貨は取られるし、大怪我なら大金貨は間違いない。それを考えたら、格安価格だと思う。


「俺の体の怪我を治せるか?」


 杖をついているから、足を怪我しているのは分かる。ただし、体のいたるところに包帯を巻いている怪我人。


「治療費は前金です。身分証をお出しください」

「冒険者の方は三等民になりますので、小銀貨2枚になります」


 冒険者の身分は平民扱い。ただし、収入は貧民と変わらない冒険者が多い。

 それでも、小銀貨2枚で怪我が治るのであれば、安いものだと思う。


「これでいいか」

「はい、たしかに」


 パルに促され、今までオレが寝そべっていた診察台に案内した。


「モンスターにやられたのか?」

「ああ、ファングバイパーにやられた」


 ファングバイパーはヘビ型のモンスターで、毒を使うことで有名。


「包帯を外すぞ」


 パルに手伝ってもらい、全部の包帯を外した。

 所々壊死していてどす黒く変色している。しかも、包帯を取ると腐った肉の臭いがキツイ。

 毒が原因なのは言うまでもないが、碌な治療もしてなかったのも原因なんだろう。


「このまま放置したら体中が腐って、死ぬな」

「っ!?」

「ファングバイパーの毒は傷口を腐らせていき、やがて体中が腐る。死ぬのは当然だろ?」

「くっ……、治療はできないのか?」


 苦悶の表情を浮かべる。


「いや、できるけど」

「……もっと金がいるのか?」


 困惑した目。


「バカ言え。治療費は固定。この程度の怪我と毒で、追加の治療費など取ってたまるか」

「本当か!?」


 希望を見出した表情。


「あんたは黙って横になっているだけでいい」


 ―――アナライズ。


 光の線が手の平から伸びていき、男の体を包み込む。


 この男の体を調べると、怪我をしているのは12カ所。

 3カ所は治療しなくても自然に治癒していく程度の軽いもの。

 5カ所は重傷で傷口も壊死しているけど、毒には侵されていない。

 そして4カ所は毒に侵され、その毒が肉だけではなく骨まで腐らせている。

 他に、尿路結石もあるし、虫歯と水虫もある。あとは目立ったものはないね。


 ―――デトックス。


 男の体に入った毒を解毒する。


 ―――キュア。


 腐った部分を浄化。

 この時点でまだ傷口は塞がっていないので、赤白い肉や骨が見える。


 ―――リジェネレーション。


 肉がもりもりっと動き傷口が塞がっていき、その後から皮膚も再生していく。


「終わりだ」

「もう終わったのか? っ!?」


 男は目を大きく見開き、診察台の上で飛び起きた。


「う、動く! 体が動くぞ!」

「診察台の上で暴れるな」

「あ、すまん!」


 男は飛び降りて体の調子を確認している。

 まったく、さっきまでは死にそうな顔をしていたくせに。


「治療は終わったから薬も要らない。もう無茶な戦いはするんじゃないぞ」

「分かった。しかし、本当に助かった。また何かあったら頼むぞ」

「オレの言葉を聞いていたのか?」

「ハハハ。そうだな、できるだけあんたの世話にならないようにするよ」


 男が治療院を出て行こうとドアノブに手をかけたところで、立ち止まってこちらを振り向いた。


「オレはドウソンだ。あんたの名は?」

「看板に書いてあったろ。オレはサイだよ」

「サイ先生だな。覚えた。本当に感謝している」


 ドウソンは手を振って出て行った。

 その日、ドウソン以外の患者はこなかった。

 患者が少ないのはいいことだけど、怪我人や病人が居ないわけではない。


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