第12話

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 012_治療院2/3

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 今日は生憎の曇り空。昼頃には降り出してくるかもしれない。


「坊ちゃま、大変ですよ」


 パルは大変だと言うけど、慌てた風はない。


「どうした? 槍でも降ってきたのか?」

「門のところを見てください」


 パルに促され窓から門を見ると、人が沢山並んでいた。


「どうなっているんだ?」

「昨日のドウソンが吹聴したんじゃないでしょうか?」

「あいつが? ……すぐに食事をするから、パルもそのつもりでね」

「はい」


 かなり多い。昨日と違って、朝から大変だ。


「四等民の方ですね。大銅貨5枚をいただきます。―――はい。奥へどうぞ」


 最初に入って来たのは、老婆。

 ドウソンと同じように杖をついているが、怪我をしているわけではない。


「そこに座って」


 診察台に座るように促す。


「あんたが先生かね?」

「先生なんてもんじゃない。ただの治療師さ」


 老婆は怪訝な表情を隠しもしない。

 こんな若造に何ができるのかと、思っているんだろう。


「そこに横になって。治療を始めるから」

「悪いところを聞かないのかい?」

「聞かなくても把握するのが、治療師だからね」

「そうかい。なら、やってもらおうかね」


 アナライズを発動させると、光の線が老婆を包んでいく。

 老婆の体の状態を把握する。若い時から無理をさせてきたんだろう、体のあちこちにガタがきている。特に膝がかなり消耗している。これでは歩く度に痛みが出るだろう。


「婆さん、膝が酷く痛むようだな。あと、腰もかなり悪い」

「その通りだよ。驚いたね」

「治療をするから、もう少し我慢するように」

「あいよ」


 キュアからリジェネレーションを行使する。

 これで老婆の膝と腰、あとついでに虫歯も治しておいた。


「婆さん、歯磨きしないとダメだぞ。歯がボロボロだったから治しておいたけど、歯磨きを怠るとまたボロボロになるからな」

「本当かい? あら、本当だ。歯があるよ」

「立って歩いてみろ。違和感ないはずだ」

「どれどれ……あらまあ、凄いよこりゃ。膝がちっとも痛くないよ。それに腰が真っすぐ伸ばせる」


 老婆はピョンピョン跳ねて、体の軽さを実感している。


「体がよくなったからと言って、調子に乗って無理したらダメだからな」

「分かったよ。しかし、あんた、凄い腕だね」

「そう思うなら、オレの言葉を聞いて無理しないように」

「あいよ。ありがとうね、先生」


 老婆が去った後、そこには杖が残されていた。


「昨日のドウソンもそうだったけど、調子が良くなると杖は使わないからな……」


 これ、処分するのはオレなの?


 治療院は連日大盛況。

 おかげで昼食を食べる時間がない。


「サイ様。ジョンソン様の店の方が、お越しになりました」


 夕食を摂っていると、ソルデリクがそう告げてきた。


「ここへ」

「承知しました」


 飯を食い進めていると、見知った男が入ってきた。

 ジョンソンの右腕で、大番頭のベイル。

 苦み走ったいい男のベイルは40を過ぎたくらいの年齢で、子供の頃からジョンソンの店に奉公して大番頭にまでなった叩き上げの人物だ。


「こんなところで悪いが、昼食を摂る時間もなかったから失礼するぞ」

「治療院は順調のようで、何よりです」


 オレも子供の頃からベイルを知っているので、気安い仲。と思っている。


「例のレッドドラゴンの販売先が決まりました」

「いつ引き渡せばいいんだ?」

「治療院は闇の曜日に休みだと伺いましたので、闇の曜日に当店にお越しいただければと存じます」

「分かったよ。闇の曜日の朝一で店に行くと、ジョンソンに伝えておいて」

「畏まりました。では、私はこれにて」

「ベイルも食べていくか?」

「ありがたいお申し出にございますが、妻と娘が待っておりますので」

「そうだったな。ベイルは奥さん命、奥さんラブだったな。ハハハ」

「お恥ずかしい限りにございます」

「いや、いいよ。奥さんと娘さんによろしく言っておいてくれ」

「はい。サイ様からお言葉をいただいたと聞けば、2人とも感激いたしますでしょう。それでは、失礼いたします」


 ベイルはジョンソンの下で働いて30年以上の最古参。オレの人生の倍もの時間を、ジョンソンの下で働いている。

 ジョンソンに聞いたが、ベイルに暖簾分けをしようと思っているらしい。

 今回のレッドドラゴンのことで箔をつけさせるために、今回の商談はベイルがメインで進めていると聞いている。


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