第10話

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 010_冒険者登録2/2

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 オレは王都を出てバルドト山の麓に立っている。このバルドト山に住み着いているレッドドラゴンを討伐するためだ。

 活火山であるバルドト山はいたるところから噴煙が上がっており、有毒ガスが噴出している危険な場所でもある。


 このバルドト山の山頂近くに、数体のレッドドラゴンが住み着いているのは有名な話。

 レッドドラゴンは群れを形成しており、1体と戦闘になると騒ぎを聞きつけて他のレッドドラゴンも戦闘に参加してくる。

 1体で小国を滅ぼせるほどのレッドドラゴンを、数体も相手して生き残れる冒険者は居ないため、レッドドラゴンの楽園と化しているのが、バルドト山なのだ。


 ―――ターゲットサーチ。


 このターゲットサーチは、エネミーサーチに目標を指し示す矢印と、目標までの距離が出るように改良したもの。

 目標が複数いる場合は、任意で複数の矢印を出すか、一番近いところにいる目標の矢印を出すかを選べるので、今回は一番近いレッドドラゴンまでの矢印を出している。

 マップもこれまでの二次元ではなく三次元マップになっていて、高低差も分かるようにしている。


 ターゲットサーチによると、目標のレッドドラゴンはここから1.2キロ離れた場所にいる。


 ―――フライ。


 飛翔魔法で岩山をひとっ飛び。レッドドラゴンを眼下に収める。

 岩肌に寝そべるレッドドラゴンの姿は、王者の風格。

 これほど無警戒の寝姿を晒しているのも、他のモンスターに襲われることがないドラゴンだからだろう。


 呼吸をするだけで、鼻や口から火の粉が散る。

 レッドドラゴンは堅い鱗に守られ、さらに分厚い皮がその下にある。

 防御力は言うまでもなく高く、そのあぎとは岩を軽く噛み砕き、炎のブレスはマグマの海を作る。


 誰が好き好んでこんな化け物に戦いを挑むだろうか?


「オレが戦いを挑むんだけどね」

「坊ちゃま。レッドドラゴンはいいお金になります」


 パルは良い笑顔だ。オレも自然と笑みが漏れる。

 彼女もフライをかけてやろうと言ったのだが、オレに抱っこしてほしいというのでお姫様抱っこしてきた。

 もちろん、パルのセクハラは健在で、お姫様抱っこ中に胸とお尻をしっかり押しつけられ、首に巻き付くように腕を回してきた。ん、これセクハラかな?

 耳元で色っぽい息を吐くので、ムラムラした気分になりそうだったのを理性で抑え込むのが大変だからセクハラでいいよね?


「パルは見ておいてくれ」


 レッドドラゴンからやや離れた大きな岩の上に着地すると、パルを下す。

 下りる時に、パルがオレの頬にキスしてきた。頬でも感じられる柔らかい唇。


「勇者様へ、勝利のキスです」

「勇者じゃないし。それにまだ勝ってないだろ」

「坊ちゃまはパルの勇者様です。それに、レッドドラゴンごときが、坊ちゃまに勝てるわけがないので、キスの前渡しです。もちろん、戦いの後にもしますけど」

「なんだか勝利のキスの安売りだね」

「坊ちゃまはパルが安っぽい女だと言うのですか!? パルは悲しいです。およよよ」


 およよよって、どう見てもウソ泣きじゃん。


「はいはい。勝利のキスだけじゃなく、いろんなキスをもらえるようにがんばります」

「はい! たくさんキスします。今からでも良いですよ!」


 そこでなぜ股間を触る!


「坊ちゃまの勇姿をこの目でしかと見させていただきます。そして、脳裏にその姿を刻みます」


 股間を触って、どんな勇姿が見たいのだろうか?


「今は止めてくれるかな」


 あくまでも今はである。


「グフフフ。坊ちゃまの裸もいいですが、戦う姿もしっかりと覚えておかなければ」


 聞いていないし……。

 てか、オレの裸を覚えているの? オレもパルの裸を脳裏に刻み込んでいるから、お相子だけどさ。

 パルの胸はすごいんだ。両手では収まらないほどのスイカが2つもあるんだよ。


 って、オレは今から戦うというのに、何を考えているのか。いかん、いかん。邪念を排して戦いに神経を集中しないと!

 いくら楽勝な戦いでも、舐めていては手痛い反撃を喰らうかもしれないからな。


「パル。じゃれ合いは終わりだ」

「あら、坊ちゃまとの愛の語らいを邪魔するなんて、不躾なトカゲですね」


 レッドドラゴンがオレたちを敵と認識したようで、こちらを睨みつけている。


「今日の夕飯は坊ちゃまの好きなクリームシチューです。がんばって稼いでください」

「クリームシチュー! 気合入れて稼いでくるよ!」


 空に飛び上がり、レッドドラゴンの頭上に移動。


「リッチ召喚」


 オレの周囲に5個の魔法陣が浮かび上がり、そこからリッチたちが顔を出してくる。

 このリッチたちは、言うまでもなく屋敷でテイムしたリッチたちだ。


「体に傷をつけず、殺せ」


 オレの命令を受けたリッチたちが、レッドドラゴンに群がる。

 オレは他のレッドドラゴンに気づかれないように、周囲に結界を張る。

 これで音や魔力が漏れることはない。もちろん、レッドドラゴンの攻撃でもびくともしない強固な結界。


「ライフドレインか。いい攻撃だ」


 ライフドレインは体を傷つけずに、生命力を奪う。

 群がるリッチたちにより、確実にレッドドラゴンの生命力が吸い取られていく。

 レッドドラゴンとリッチのモンスターの格は、リッチのほうがやや劣る。でも、1対5ではさすがの最強種でも分が悪い。


 たまらず巨大な翼を羽ばたかせて飛び立つレッドドラゴンは、オレの結界に頭をぶつけて地面に落下した。そこにリッチたちが群がる。


「表現が悪いが、ウ●コに群がるハエのようだ」


 リッチたち、ごめんね。


 レッドドラゴンの口が大きく開き、炎のブレスを吐いた。

 しかし、リッチたちは短距離転移でレッドドラゴンの背中側に移動し、ライフドレインをし続ける。

 レッドドラゴンはまったく良いところなしで、その命の炎が消えた。


「ここまで圧倒すると、逆に引くね。リッチってこんなに強いの?」


 動かなくなったレッドドラゴンの無傷な体を収納する。

 オレは結界しか張ってないけどリッチをテイムしているのがオレだから、レッドドラゴンを倒したのはオレということでいいよな?

 まあ、誰が倒そうが無傷のレッドドラゴンの死体を持って帰れば良いだけの簡単なお仕事なんだけどな。


「皆、ご苦労だったね。送還」


 リッチたちに礼を言い、送還した。

 パルのところに戻ると、抱きつかれた。


「勇者様に勝利のキスを」


 頬にされると思っていたら、唇にされた。とても柔らかく、甘酸っぱいパルのキス。


「坊ちゃま、ここでしていきますか?」

「ここでか?」

「野外というのも、モエますよ」


 もっと戦うものだと思っていただけに、不完全燃焼なオレ。

 血が滾っているので、それもいいかと思った。


「それでは、失礼して」


 パルが膝を付きオレのズボンに手をかける。

 その手を、オレは掴んだ。


「お客さんだよ」


 6体のレッドドラゴンが、オレたちを囲むように展開している。

 仲間を倒したのが分かったようで、その目には明らかな敵意と殺気が見える。


「ちっ」


 パルが舌打ちしたよ。

 あぁ、目が座っている。これはヤバイ。


「坊ちゃまとの愛の時間を邪魔する無粋な輩は、この世から消滅すればいいのです!」


 パルがかざした手の平から、漆黒の霧が噴射された。

 漆黒の霧はあっという間に広がり、レッドドラゴンたちを包み込んでいく。


 レッドドラゴンたちの悲鳴のような鳴き声が聞こえたのは、ほんの一瞬。

 数秒後にはレッドドラゴンの気配はなくなり、地面に巨大な物が落ちた音が響いた。


「トカゲのくせに、坊ちゃまと私の大事な時間を邪魔するからです!」


 フンスッと鼻息が荒いパル。

 1体だけのつもりだったけど、全部で7体の死体が手に入ってしまった。

 しかも、どの死体も傷らしい傷はついておらず、素材としてはかなり良い状態。


 というのが、昨日の出来事である。


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