第9話
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009_冒険者登録1/2
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冒険者ギルドは繁華街を通り過ぎたところにある。
受付には多くの冒険者が並んでいて、それぞれがクエストを受けようとしている。
冒険者は1人で活動するソロの人も居るけど、多くは複数の冒険者でパーティーを組んで活動する。
冒険者ギルドが斡旋するクエストは誰でも、どのパーティーでも受けることができると聞いている。
ただし、定められた期間内にクエストをクリアしなければ、懲罰金の支払いを命じられることになる。
だから、自分の身の丈に合ったクエストを受けるのが、冒険者の基本だ。
「登録してくれ」
オレの番になったので、金髪ロールの受付嬢に登録を頼んだ。
受付に座っている受付嬢は、全員容姿がいい。
冒険者は7割が男だというから、そういったことも考慮されているのだと思う。
オレの横の受付では鼻の下を伸ばした冒険者が、受付嬢の見えそうで見えない胸元に視線をやっている。オレの考えはあながち間違ったものではないだろう。
「ありがとうございます。こちらの用紙に氏名と加護を記入ください」
差し出された用紙にスラスラと氏名と加護を記入し、受付嬢に返却する。
「氏名はサイ様で、女神アマリア様の加護ですね」
受付嬢はアマリアのところで顔を少し強張らせた。わずかな動きだったので、注意して見ていないと分からないものだ。
多分だけど、女神アマリアのことを知らないのだろう。一般的には創造の女神として知られているアマリアだが、名前は知られていない。
「こちらが冒険者登録証です。再発行には大銀貨3枚が必要になりますので、なくさないようにお願いします」
それからいくつかの説明を聞いた。
「理解した」
これでクエストを受ける土台ができた。
「早速だけど、このクエストを受けたい」
クエストは張り出されているので、すでに見繕っている。
誰も受けようとしなかったので、オレがこのクエストを受けても誰も困らないだろう。
むしろ、冒険者ギルドとしては、塩漬けにされているクエストが解消されるのだから助かるはずだ。
「はい……え?」
受付嬢がオレとクエストの用紙を交互に見る。なんだろうか?
「このクエストはレッドドラゴンの剥製用の素材収集ですよ。いくらなんでも、今登録したばかりのサイ様には、荷が重いと思いますが」
レッドドラゴンに限らず、ドラゴンは生物の頂点に君臨する最強の種族。レッドドラゴンが一体現れただけでも小国なら滅ぶと言われているので、受付嬢が心配するのも分かる。
でも、今のオレならレッドドラゴンを倒すことは難しくはない。ていうか、簡単だ。
クエストはレッドドラゴンの剥製用の素材収集。
つまり、できるだけ傷をつけずにレッドドラゴンを倒して、その体を持ち帰れというもの。報酬は大金貨1000枚。
ただし、受注後10日以内にレッドドラゴンを持って帰らなければ、クエストは失敗と判断されて大金貨100枚の懲罰金が課せられる。
「問題ないから、処理してほしい」
「いやいやいや、問題大ありです! レッドドラゴンですよ!」
そんなに大声を出さなくても、聞こえているよ。
そもそも、目の前にいるのだから、大声を出す必要はない。
「レッドドラゴンの剥製用の素材収集。オレはクエスト内容を理解している。もし失敗したら、ちゃんと懲罰金を払うから、処理してくれて構いませんよ」
大金貨100枚なんて持っていないけど、レッドドラゴンくらいなら問題ない。
「そんなことできません! 登録したばかりの冒険者が何を言っているんですか!」
「登録したばかりは、関係ないはずではないかな? 冒険者であれば、どんなクエストも受けることは可能なはず」
「1年に1人は居るのです。自分はとても強いから、ドラゴンでも倒せると勘違いする新人が」
受付嬢が呆れた風にそう言うと、周囲から笑いが起こった。
冒険者たちはオレのことをバカにし、受付嬢たちも軽蔑や侮蔑の視線を向けてくる。
「クエストは受けさせてもらえないのか?」
「こんなバカなことを受け付けるわけないでしょ!」
「はあ……」
オレは深いため息を吐いた。
「ここまで言われては、仕方がない。クエストを受けるのは諦めるとしよう」
「そうです。それでいいのです!」
オレをバカにしたような笑みで、受付嬢が勝ち誇る。
「ノービスがドラゴンなんて狩れるわけないだろ。頭を冷やして出直してきな」
「いいじゃねぇか、このバカがドラゴンに突撃して勝手に死ぬだけなんだから、クエストを処理してやれよ。ギャハハハハハ」
オレがレッドドラゴンを倒せないと、なぜ言えるのか? 彼ら彼女らは、オレの実力の何を知っているのだろうか?
こいつらもあの父親と一緒だ。上辺だけしか見ていない。物事の本質を見ずに、周囲に流される。
まったくもって不愉快極まりない。
冒険者ギルドから出ると、真っすぐジョンソンの店に向かった。
「これは、サイジャール様」
「ジョンソン。今のオレはサイジャールではないぞ」
「おっと、これは失礼しました。サイ様。屋敷用の家具は明日納品の予定ですが、本日はどのようなご用でお越しくださったのですか?」
「ジョンソンに儲け話を持ってきたんだ」
「ほう、儲け話ですか」
にこやかなジョンソンの表情が、商人のそれになった。
オレは冒険者ギルドでのことを語ってきかせ、レッドドラゴンの販売をジョンソンに任せると言った。
「なるほど、冒険者ギルドが拒否した以上、こちらがレッドドラゴンを扱っても問題ありませんな。よろしいでしょう、このジョンソンが責任を持ってレッドドラゴンを売りさばいてみせます」
「頼もしい限りだ」
「レッドドラゴンが丸ごと1体ともなりますと、大金貨1500枚は越えることでしょう。私どもは仲介手数料として15パーセントをいただきます。また、国に収める税が25パーセントになりますので、40パーセントが経費になり、サイ様の手元には60パーセントが残ることになります。それでよろしいでしょうか?」
大金貨1500枚の60パーセントというと、大金貨900枚か。悪くない。
「いや、オレの取り分は40パーセントでいい。税を払った残りはジョンソンが取っておいてくれ」
「仲介手数料で35パーセントもですか? 私どもとしては嬉しい限りですが、サイ様も命を賭けてレッドドラゴンを倒してきたのです。せめて50パーセントということでいかがですか?」
「ジョンソンも欲がないな」
「いえいえ、十分に利益は出ますので」
「ならば、オレは50パーセントで」
「はい。できるだけ高く売り捌き、利益を出してみせます」
「そんなに気張らなくてもいいぞ。レッドドラゴンの死体は7体あるんだ」
「はい? ……ぷっ、そんなに狩ってきたのですか?」
「たまたま手に入れただけだよ」
6体はパルが狩ったものだけど。
「フフフ。サイ様を手放した公爵様は、今後どれほど後悔されるのでしょうかね」
「あの家がどうなろうと、オレの知ったことではない。隆盛しようが、没落しようが、オレには関係ない」
公爵家というのは、王家を除けば貴族の最上位に君臨する爵位だ。
簡単に没落することはないが、何があるか分からないのが政治の世界。
明日、政争に負けて没落していることだってあるかもしれない。
オレはジョンソンにレッドドラゴン1体の販売を任せ、店を後にした。
7体全てを売りに出すと1体辺りの価格は落ちるけど、売り上げは大変な金額になるはず。
しかし、オレとジョンソンは適度な時期に小出しすることにした。お互いに、1体でも十分な利益がある。
1体でも大金貨数百枚になり、数年は遊んで暮らせるくらいの金額になるのだから。
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