第20話
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020_アールデック公爵~追求されるポーンス~
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評議会のために登城したら城内が騒々しので、ポーンスは近くにいた者に何事かと聞いた。
「ダラリア公爵閣下が、国王陛下にレッドドラゴンの剥製を献上されたのです」
「レッドドラゴンだと……」
ポーンスはバカなとその者の胸倉を掴んだ。
「こ、公爵閣下……?」
「ちっ」
胸倉から手を離し、ポーンスは足早にその場を離れた。
こんなに焦っているのは、レッドドラゴンの剥製を国王に献上することを進めていたのが、このポーンスの息のかかった貴族だからである。
その貴族はかなり以前からレッドドラゴンの討伐を冒険者ギルドに依頼していた。だが、相手が相手だったため、その依頼は数年が経過しても達成されることがなかったのだ。
「あのバカが!」
その貴族がぐずぐずしていたおかげで、よりによって政敵のダラリア公爵がレッドドラゴンの剥製を献上してしまった。
怒りが収まらないポーンスは、屋敷に帰ると同時にその貴族を呼び出した。
「ピニス。レッドドラゴンの件、どういうことだ? お前は、自信満々に任せておけと言っておったではないか!?」
ピニス伯爵家はアールデック公爵家の分家の1家である。
まだ若い30ほどのピニス伯爵は、ポーンスの怒りを受け拳を握った。
「それはこちらのセリフですぞ、ご当主」
「なんだと!?」
ピニス伯爵の意外な反論に、ポーンスは椅子から腰を浮かせるほどの怒りを放った。
「まさかジョンソン商会にレッドドラゴンを持ち込んだ人物のことを知らぬのですかな、ご当主」
「冒険者ではないのか!?」
ピニス伯爵は呆れた表情をし、首を振った。
その素振りがポーンスには酷い侮辱に思え、顔を真っ赤にする。
「その様子では知らぬようですな。では、お教えいたしますが、ジョンソン商会にレッドドラゴンを持ち込んだのは、サイジャール殿です」
「なっ!?」
「これは、家内評定にかけさせていただきますぞ、ご当主」
家内評定というのは、アールデック公爵家の一族や家臣が集まり、重要案件を話し合う場である。
ピニス伯爵家はアールデック公爵家の分家であり分家筆頭の地位にあるため、その発言力は家内随一である。
「サイジャール殿を追放されたのは、ご当主とモノグローク殿。次の家内評定までに今回のことを挽回するような功績をモノグローク殿が残されない場合は、モノグローク殿の廃嫡とサイジャール殿の復帰を議題とさせていただきます」
「バカな!? ピニス、貴様、何様のつもりだ!?」
ポーンスは唾を飛ばして怒鳴る。
「某はアールデック公爵家の分家筆頭、コートジル・ピニス伯爵です」
ピニス伯爵の発言力は強い。
本来、嫡子であるサイジャールの廃嫡は、家内評定にて諮られるべき重要案件である。
それを無視してサイジャールを追放したポーンスたちに憤りを覚えていたところに、サイジャールがレッドドラゴンを討伐してしまった。
それだけでもポーンスたちの愚行を追求することができるが、サイジャールが討伐したレッドドラゴンがよりによってアールデック公爵家と犬猿の仲のダラリア公爵家に渡ってしまった。
ピニス伯爵にもレッドドラゴンを調達できなかった非はあるが、それ以上に神童サイジャールを追放したポーンスへの失望や嫌悪のほうが勝った。
「アールデック公爵家当主である私を脅迫するのか!?」
「脅迫? 何を仰っているのか?」
ピニス伯爵は嘆息して、間を開けた。
「脅迫はともかく、現在の公爵家の財政をご存じですかな?」
「財政だと?」
「サイジャール殿を追放されたのです。当然のことですが、バロディゴ商会の援助は受けられませんぞ」
「………」
ポーンスの表情を見て「こいつ何も考えていなかったな」と、ピニス伯爵は呆れた。
「これまで、サイジャール殿が居たからこそ、バロディゴ商会は湯水のように資金援助をしてくれたのです」
「そ、そんなこと……」
「これはアールデック公爵家だけの問題ではありませんぞ。我ら分家にも大きな影響を及ぼします。ご当主には、これまで同様の資金を分家にもたらす算段がおありなのでしょうな?」
6公爵家の中でも頭1つどころか、2つも抜けた経済力を誇っていたアールデック公爵家とその一門衆。
その資金力を支えていた(援助していた)のが、サイジャールの母方の祖父であるインディアス・ディゴ男爵である。
サイジャールを追放した以上、その援助は今後期待できない。
「とりあえず、モノグローク殿にはレッドドラゴンと同等の魔物の討伐。ご当主には今後の資金調達について、家内評定までにどうされるのかをしっかりと決めておいていただきたい」
ピニス伯爵はかなり怒っている。そして困っているのだ。
サイジャールが居てこそ資金援助があったのに、これからはそれが期待できない。
それどころか、これまでバロディゴ商会から借りていた資金の返済を求められる可能性がある。
レッドドラゴンのことなど些細なことだとおもえるほど、資金面における問題に頭を痛めていた。
ピニス伯爵はサイジャールが当主になるのは当然で、廃嫡や追放などあり得ないことだった。それは他の一門衆も同じ考えであった。
それなのに、目の前にいるアールデック公爵家当主ポーンスは、何も考えていなかった。そのことに、もっと早くポーンスを隠居させサイジャールを当主にすれば良かったと、後悔しているのであった。
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