第21話
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021_ギルマス~焦燥のエルメヌイス~1/2
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私はエルメヌイス。家名は捨てた。捨てざるを得なかったのだ。私はエルフで年齢は―――ナイショだ。
現在は冒険者ギルド・オルドレート王国王都支部のギルドマスター(ギルマス)をしている。
15年前からギルマスをしているが、これまでは順風満帆だった。そう、これまでは……。
私の目の前には煌めく黄金色の瞳を持った少年が座っている。深い青色をした髪は昔見た海のような色だ。
この少年は少し前に冒険者登録したばかりで、年齢は15歳。私がこの王都ギルドのギルマスに就任した頃に生まれた子だ。
今、私はとても緊張している。この少年にではない。その斜め後ろに立っているメイド服のダークエルフのせいだ。
私たちエルフは森の護り人と言われていた。そして、エルフの亜種と言われていたのが、ダークエルフである。
雪のように白い肌を持ったエルフは、褐色の肌をしたダークエルフを見下していた。
そのため、ダークエルフはエルフに森を追われ、いつしか砂漠や岩山などに住むようになっていた。
今から200年ほど前のことだが、ダークエルフが森に帰ってきた。
当然のことだが、エルフはダークエルフを受け入れなかった。そうなると、争いが起こるのは必然であったのだろう。
森の中の戦いということもあり、最初は森の中で暮らし続けてきたエルフが優勢だった。
しかし、ある時から戦況は一変した。ダークエルフの族長が交代したのだ。
その族長は、美しい黒髪をしていた。エルフでもダークエルフでも、黒髪は珍しい。それどころか、その族長は瞳まで黒かったのだ。
その異質な容姿のダークエルフの族長は、闇を操りエルフを追い込んでいった。そしてエルフはダークエルフに降伏したのだった。
降伏したエルフの族長は土下座して許しを請うたが、そのダークエルフは族長の頭を踏みつけ、高らかに笑っていた……。
私はあのダークエルフの笑みがとても恐ろしくて、ブルブルと震えて身を小さくしていることしかできなかった。
エルフの族長一族を処刑することで他のエルフは許すと、そのダークエルフの族長は約束した。
エルフの族長一族は全員処刑された。いや、ただ1人だけ未成年の子が居たので、その子だけは処刑を免れた。
その子が私である。私は族長の一族だったが、まだ30歳に満たないということで、処刑されることなく許された。
エルフの成人が30歳だったため、族長一族で私だけが生き残ったのだ。
その後、私はエルフの森を出て冒険者になった。
それから多くの国を回って、力をつけた。別に復讐をしたいからではない。生きるために力が必要だったのだ。
ダークエルフとエルフの戦争のことを、世間ではエルフ戦争と言っている。
200年前のことなので、ヒューマンでは歴史家や王侯貴族くらいしか知られていないことだ。
そのエルフ戦争の勝者は言うまでもなく、ダークエルフである。そして、そのダークエルフを率いた黒髪黒目の族長が目の前に居る。
黄金色の瞳を持つサイという少年を、慈愛の眼差しで見つめているのだ。
古き記憶を辿ると、ダークエルフの族長の名が思い出される。
―――パルメリス・モノトリー。
『厄災のパルメリス』という名が、私たちエルフの魂に刻まれた名である。
なぜ厄災がこんなところに居るのか? 戦争終結後、10年ほどで族長の座を他の者に譲って森を出たと聞いたが、なぜ私の前に現れるのだ!?
「お待たせしました。私はこの支部のギルドマスターです」
魂に刻まれた恐怖が、彼女を怒らせてはいけないと警鐘を鳴らす。
「オレはサイで、後ろのはパルだ」
パル……。今はそう名乗っているのだろう。しかし、なぜ、彼女がこのサイという少年と共に居るのか?
サイのことは調べた。少し前までサイジャールという名であり、アールデック公爵家嫡子だった少年だ。
だが、あの厄災が貴族に靡くわけがない。つまり、厄災はサイ個人に従属していると考えていい。
もし、サイという少年を捕縛したら、私は、否、この冒険者ギルドは物理的にこの世から消え去るだろう。
レッドドラゴンのことなど、不問にしてこのまま帰ってもらおうか? そうすれば、厄災の怒りを買うことはないはずだ。
呼び出したことに謝罪しろと言われたら、いくらでも頭を下げよう。地面に額を擦りつけて許しを請おう。
「貴方、本気で言っているの!?」
ロジーが声を荒げたことで、思考の底から意識が引き上げられた。
このバカ娘は、誰に向かって声を荒げているのか分かっていない。止めなければいけない。
「貴方、本気で言っているの!?」
「本気も本気。オレが何をしたのか、ハッキリと言ってくれなければ分からないよね? パルは分かる?」
「規約が何を差しているのか、さっぱり理解できません。この人物は頭が弱いようですね?」
「なんですって!?」
バカ者! 誰に向かって敵意を!?
「落ち着きなさい、ロジー」
「しかし! ……し、失礼しました」
これ以上彼女に喋られては、地獄が待っている。私は、ロジーを睨みつけ、口ごたえを許さない。
幸いなことにダーナンは厄災の強さを知っているようで、成り行きを見守っている。
場の空気は最悪だ。ここで何もしなければ、またロジーが暴走するだろう。それだけは絶対にさせないようにしなければ。
「サイ殿。冒険者ギルドに所属する冒険者は、モンスターの素材を優先的にギルドに持ち込むことが定められている。それは知っているかな?」
私はできるだけ上から目線にならないように、それでいて冒険者ギルドのギルマスとして最低限の威厳を持って問いただした。
「坊ちゃま、何か?」
「い、いや……なんでもない……」
くっ……この殺気は……私にこれ以上追及するなと言っているのですか……?
「パルさん……。そのプレッシャーを止めてもらっていいかな」
「ウフフフ。プレッシャーだなんて、何を言っているのですか、坊ちゃま」
プレッシャーが止まった。私を含めて、ギルド側の3人は青色吐息。
「な、なんなのですか、貴方は!?」
私の横から怒鳴る声が発せられた。
このバカは何をしてくれるの!?
「申しわけない。オレがちょっと不用意なことを考えたためなんだ」
「はあ?」
お前は黙っていろと言おうとしたら、厄災が口を開いた。
「黙れ、脳足りん」
「なっ!? この……」
うっ!? 先ほどの殺気とは比べものにならない。
ロジーがその殺気を受けて意識を手放し、顔面を机にぶつけて気絶している。
く、苦しい……。このままでは、殺気だけで私も気絶しそうだ。厄災の力は今も健在だということだ……。
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