第22話

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 022_ギルマス~哀愁のエルメヌイス~2/2

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「パル。止めないか」


 サイ殿が止めてくれたので、殺気が収まった。

 ダーナンも私と同じように冷や汗を噴き出して、荒い息をしている。


「敵意を持って坊ちゃまに接する者は、排除します。それが、私の役目ですから」


 ロジーだけにしてください。

 このバカには何をしても問題にはしませんので!


「話せば分かる。それで分からない奴なら、冒険者ギルドの幹部にはなっていないだろ」


 そ、そうです! 話せば分かります!

 だから、殺すなら親の七光りで冒険者ギルドに就職して、好き勝手しているこのロジーだけにしてください。


「そうですか? 十分に無能ですよ、その女は」

「とにかく、殺気を放つのは禁止ね」

「坊ちゃまがそう仰るのであれば、次は喉を切り裂いて黙らせましょう」

「それも禁止。オレに危害が加えられそうになるまでは、一切の攻撃を禁止する」

「……納得いきませんが、承知しました」


 た、助かった……のか?


 ん、サイ殿から何か……これは魔法? 気分がよくなる。

 そう言えば、サイ殿は治療院をされていると、報告にあったな。この心が軽くなる現象も彼の魔法なのかもしれない。


「ゴホンッ。申しわけなかったね。パルは敵意に敏感なんだ。だから、敵意を発するのは、止めて欲しい。あまりしつこく敵意を出すと、オレでも抑えられないから」


 分かってます!

 私はロジーに目で合図を送った。お前は二度と口を開くな!


「坊ちゃま、私は坊ちゃまの忠実なしもべですよ」

「自称、僕ね。それとパルが殺気を放つと、話が進まないから本当に止めて」


 厄災は本当にこのサイ殿に仕えているのか?

 見ている限り、彼に従っているように見えるが、なぜだ?


「それで、先ほどのギルマスの質問に対する答えだけど、もちろんその規約のことは知っている。登録する時に、その説明を受けたからね」


 あ、そんな質問をしたっけ。

 しかし、こんな回答をされると、不問に付すことが難しい。しらばっくれてほしかった……。


「サイ殿が『ジョンソン商会』に持ち込んだレッドドラゴン。それは本来、このギルドに持ち込むべきものだというのは、理解できているかな?」


 くっ……言いたくないが、言わないといけない。これでもギルマスなのだから……。


 あー、怖いよーーーっ!


「本来ギルドに持ち込むべきなのは、理解しているよ」

「それが規約に違反していることもかね?」

「違反していないと、オレは思っている」


 言葉が噛み合わない。なんだろう、嫌な予感がする。


「なぜ違反していないと思うの―――」

「ギルマス! もういいでしょう! この者は、自らの罪を認めたのです! 罰を与えましょう!」


 嘘っ! このバカ、何言ってるのよ!?


「ダーナン。この男を捕えなさい!」


 ダーナンは動かない。それでいいのよ!


「どうしたの!? 早く捕えなさいよ!」


 うるさい! 喋るな!


「ダーナン!」

「止めなさい!」

「っ!? なぜですか!? ギルドマスター!」

「これ以上騒ぐのであれば、退席を命じますよ」

「っ!?」


 ヤバいわ。早くサイ殿を解放しないと……厄災の目が座っている……。


「騒がしくて申しわけないですね」

「いや、こういう人物には慣れているから大丈夫ですよ」


 サイ殿……なんて心の広い方なんでしょう!


「話を元に戻すが、サイ殿がレッドドラゴンを『ジョンソン商会』に売り渡したことは、ギルドの規約違反であると私たちは考えている。そのことについて、サイ殿は規約違反に当たらないと考えているようだが、その理由を教えてくれないか?」


 ごめんね、聞かないといけないの。


「簡単なことだね。オレはギルドのその規約を知っているから、レッドドラゴンのクエストを受けようとした」

「「えっ!?」」


 どういうこと?

 とういうことは……このままこの場をお開きにしていいの?


「オレはちゃんとギルドに仁義を通した。しかし、受付嬢はオレがクエストを受けることを拒否した。だから、ジョンソンの店にレッドドラゴンを持ち込んだにすぎない。それで規約違反と言われるのは、非常に気分が悪い」

「嘘をつくなっ!」

「ロジー!」


 このクソアマ! 喋るなと言っているだろうが!


「次に喋ったら、降格処分にします」

「っ!?」


 この状況はいい。謝罪してさっさと帰ってもらおう。

 でも、その前に聞かないといけないことがある。あーもう、早く終わらせて胃薬飲みたーーーいっ!


 色々を話を聞き、受付嬢のイルミダも呼んだ。

 そしてイルミダとロジーの2人がやったことが分かった。

 こいつら、どうしてくれようか。お前たちのおかげで、私はこの世からおさらばするところだったんだぞ!

 しかし、なんで映像クリスタルなんか用意しているの? いや、そんなことはいいと言うか、考えてはいけない。私はこのバカどもを全力で処分するのだ。


 その3日後、サイ殿にギルドまで来てもらった。

 本当は私が赴こうと思ったけど、サイ殿が来てくれると言うので、来てもらった。

 なんと今回のことに関わったギルド職員は30人にもなった。おかげで、私は3日間寝ていない。

 とにかく、バカどもを処分して、私自身も3カ月分の給料を返上する処分を科した。


 サイ殿に納得してもらうために、ギルドの予算を裂いた。さらにロジーの実家に今回の不始末によってギルドが被った金銭的な賠償を求めた。

 ロジーさえいなければ今回の騒動はギルド内で収められたのに、あいつが隠蔽を指示したことでややこしい話になってしまった。その賠償は保証人であるロジーの父親に払わすことに。

 おかげで厄災を従えたサイ殿に不快な思いを二度もさせてしまった。


 私はまだ死にたくないので、ギルドの資産を全部処分してでも、サイ殿に謝罪するつもりだったが、サイ殿は金銭ではなく情報を要求してきた。

 20年前にあった事件のことだ。私はそれを了承し、すぐに情報を集めるように指示した。

 ここでグダグダしているようなら、情報部員たちを大幅入れ替えしてやる。

 とにかく、結果を出せと発破をかけた。


「ふーーー……。私はつくづく厄災に縁があるのかな?」


 そんな縁は要らない。

 二度と関わり合いになりたくない。


「ギルマス……辞めようかな……」


 まだ230歳にもなっていないピチピチのギャルなのに、こんな若さで死にたくないよ。


 

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