第49話

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 追05_サップ村

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 この大陸の玄関口であるペルケオスは、人種のるつぼと言うべき雑多な種族が行きかっている。

 バザールという市場は動くのも大変なくらいの人出で、頭の上に大きな籠を載せて買い物をしている人までいる。これはなかなか考えられていると、見る度に思うものだ。


 さて、このペルケオスにはサルディス大陸から持ち込まれた多くの商品があるだけではない。多くの人も流れ込んでいる。

 俺が探しているマニシャース家の執事だったオーランドは半月程前に、このペルケオスに渡っている。仕入れをするという話だが、本当かは分からない。


 バザールから離れ、ちょっとした横道に入る。


 ───ターゲットサーチ。


 反応があった。まだこの近くに居るようだ。


「影」


 ギルマスがつけてくれた協力者。コウモリ獣人の影を呼ぶと、スッと現れる。


「お呼びですか」

「この先にまっすぐ行った場所にオーランドが居るはずだ。先行してくれるか?」

「お任せを」

「後から追いかける。オーランドが移動しても場所は分かる。誰と会って、何を話していたか知りたい」

「承知しました」


 コウモリの獣人は耳が良いと聞いたことがある。影ならオーランドの会話を遠くからでも聞き逃さないはずだ。


「それにしてもパルは……」


 バザールで買い物を楽しんでいるパルに視線を向ける。パルはどこに居ても目立つ美人だから、すぐに居場所は分かる。

 今はこの辺りの特産品である上布と言われる麻の織物を値切り倒している。店主がタジタジだけど、嬉しそうだ。その気持ち、少し分かるよ。


 パルの買い物を終えてから俺たちもオーランドを負う。市街地を抜けて人が少なくなる。郊外は長閑な風景が広がっている。

 農夫たちが畑仕事をしている田舎道を進んでいくと、村が見えてきた。


 ターゲットサーチでは、あの村の中ににオーランドが居るとある。

 こんなところに買い付けする商品があるのか? それとも買い付けから帰ってきたところか?


 村の入り口の辺りに商隊と思われる荷馬車が数台あっり、荷物を積んでいたから買い付け後のようだ。

 入り口には村人に毛が生えた程度の衛兵が立っている。馬車にも乗らず、荷物も持っていない俺たちを怪しんでいる顔をしている。


「あんたたち、2人だけか?」

「ああ、2人で気ままに旅をしている」


 怪訝な顔でパルを見る。メイド服が珍しいようだ。


「珍しい格好だな」

「メイド服は私のシンボルです。坊ちゃまに脱がされない限り、脱ぐ気はありません」


 そういうことを真顔で言わないでくれ。

 衛兵の顔が引き攣っているじゃないか。


 引かれた衛兵が「ようこそ、サップ村へ」と言って俺たちを通してくれた。

 パルの空気を読まないところが役に立ったようだ。


 オーランドの反応は村の中央付近にあるそこそこ大きな家の中にある。どうやら村長の家のようだ。

 俺たちがその家に近づくと、物陰に影が姿を現した。

 影は物陰の奥に俺たちを誘うと、人目につかない場所に陣取った。


「どうやら村長はオーランドの仲間のようです」

「詳しく聞こうか」

「村長の名前はルーグと言います。オーランドがそう呼んでいます。上布の仕入れを行っているようですが、時々マニシャースという名が出ます」


 思わぬところでソルデリクの関係者に出遭うことができたようだ。

 ルーグはオーランドよりも年上で、70近い。名前と風体からマニシャース家で番頭をしていた男だと思われる。

 まさかこんなところで村長をしているとはな。


 その妻もマニシャース家で働いていて、マニシャース一家惨殺後に2人でここに流れてきて村長の補佐をしていたらしい。それが今では村長になっていることに違和感がある。

 前村長の死にルーグが関係してそうで、笑えないんだけど。


「引き続き会話を盗聴してくれ」

「はい」


 その日は村の宿に泊まることにしたが、酷い宿だ。古いのはしょうがないが、汚いのは宿屋として最低だな。ベッドのシーツもいつ交換したのか分からないようなもので、とても清潔感があるとは言えない。

 こういう時こそ俺の生活魔法が役に立つ。


 ───クリーン。


 部屋の中が清潔な空間に早変わり。これぞ生活魔法の真骨頂だ。


「坊ちゃま。私が掃除しましたものを」

「旅の間はメイドの仕事から解放だ」

「その空いた時間で私の体を蹂躙するのですね!」


 朱に染まった頬に両手を当て、体をクネクネさせるパル。まあ、可愛いからいいけど。


「今日はどんなプレイをしますか? 水着は昨日しましたし、白衣は治療院をしている時にたくさんしましたから……そうだ、水夫が着るセーラー服を可愛くしてみましょうか!」


 パルのスイッチが入り、セーラー服を可愛くアレンジした服を仕立てていく。料理や掃除だけでなく、裁縫もプロ以上の腕前のパルであった……。





 太陽が顔を隠した頃、影に食事を持って行く。

 闇の中に居る影は簡単に捜せるものではないが、そこはパルだから。


「食事を持って来たぞ」

「これは……ありがたく」


 なぜ微妙な顔をする。


「これでも気配を隠すのが得意なのですが、お2人の前では自信をなくしそうです」

「ああ、なるほど。そこは気にするな。俺たちは特殊だ。影の隠密行動は世界でも有数のものだと思うぞ」

「……悲しむべきなのか、喜んでいいのか分かりません」

「こういう時は喜べ。それで気分が楽になる。深く考えると、禿るぞ」


 食事を渡して、オーランドとルーグの会話について聞く。


「他にサダダとイシュという仲間がいるそうですが、その2人は別の場所にいるようです。あとはオーランドは明日この村を発ち、ペルケオスから帝国に戻るとのことです」


 さすがは影だ。いい耳をしている。

 マニシャース家の使用人は十数人居たが、そのうちの3人がここに居て他に2人の名前が出た。

 オーランドとルーグを尋問すれば、最低でも2人の居所が分かるだろう。


 問題は尋問のタイミングだ。今夜しかけるか。


 

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