第50話
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追06_いざ村長宅へ
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皆が寝静まる時刻。俺とパルは汗ばんだ体をクリーンで綺麗にし、服を着た。
宿屋の者は全員眠らせておいた。あいつらの視線が怪しするぎる。もしかしたら俺たちが寝静まってから、部屋に押し入ってくる気なのかもしれない。
「オーランドは村長の屋敷に泊まっています。サダダとイシュの居場所についての話は出ませんでした」
「そこは3人に聞くとするか」
「影はここまででいいよ。休んでくれ」
「……よろしいのですか?」
「ずっと見張っていたんだろ? あとは俺たちがするから、影は休んでくれ」
「分かりました……」
なぜ涙を流す? よく分からん。
さて、村人たちを起こしては迷惑だろうから、エリアセニントバリアで村長の屋敷を囲む結界を張っておく。
「出て来い」
俺の声に呼応するように、マニシャース家の者たちが現れる。
ソルデリク・マニシャース。アルテミス・マニシャース。そして五体のリッチ。
「旦那様」
ソルデリクが膝をつく。
「ご主人様」
アルテミスがスカートの端を掴み、頭を下げる。
リッチたちは俺の周りを飛び、呼ばれたことを喜んでいる。
「お前たちを呼んだのは、他でもない。約束を果たす時がきたからだ」
「感謝いたします。旦那様」
「ありがとうなのです。ご主人様」
村長の屋敷を見上げる。
随分と儲けているようで、かなり大きな屋敷だ。
「ここにマニシャース家の執事だったオーランドと、番頭だったルーグとその妻がいる」
「この日が来ることを夢にまで見ておりました」
ソルデリクが笑う。しかしその目は鋭く屋敷を射貫いていた。
「オーランドたちはサダダとイシュという2人の消息を知っていると思われる」
「その2人も使用人でした」
やはりそうか。
「他の奴の情報を持っているかもしれないが、まずは3人だ」
ソルデリクが頷く。
「さあ行こうか」
「はっ」
「はい」
村長屋敷の玄関から堂々と入って行く。カギはリッチが扉をすり抜けるついでに開けてくれた。
村長屋敷には、村長夫婦、その息子夫婦、孫たち、護衛、それから離れに使用人たちがいる。
気配から何人かは起きているようだが、ほとんどは寝入っているようだ。
「俺は結界を張るだけだ。あとはソルデリクたちの好きにしろ」
「ご配慮、痛み入ります」
俺に一礼すると、ソルデリクたちは音もなく屋敷の奥へと進んでいった。
ここからはソルデリクたち次第だ。オーランドたちを殺すのも、その家族を殺すのもな。
自分たちはソルデリクだけでなく、幼いアルテミスを殺したのだ。その復讐に一族を殺されたとしても文句は言えない。たとえ孫が幼くてもだ。
無慈悲と言う奴はいるだろう。だが、そいつも自分の子供が殺されたらそんなことは言えないはずだ。無責任な非難ほど気分の悪いものはない。
背筋が凍えるほどの殺気が伝わってきた。
「始まったようですね」
パルの腕が俺の腕に絡みついてくる。柔らかい胸の感触が伝わってくる。
これ、絶対わざとやっているな。こんなところでさかるわけないのに。
すでに数人の護衛が倒されている。そこに悲鳴が轟くと離れで休んでいた護衛も駆けつけてきた。
リッチたちがその護衛たちの意識を刈り取っていく。使用人たちは生命力を吸われて動けないが、死んではいない。護衛は仇ではないからだ。
「坊ちゃま。他の使用人も起き出したようです」
「そのようだな」
全員が護衛というわけではないから逃げ出そうとしているが、結界を張っているから逃げ出せない。別に皆殺しにしようというのではない。
仇を誰も逃がさないための結界だ。ことが済めば、結界は消える。怖いとは思うが、少しだけ我慢してくれ。これも犯罪者の下で働いていた因果だ。
屋敷内が静かになった。オーランド、ルーグ、その妻が一カ所に集められたようだ。俺たちもそこに向かう。
「なななな、なんでっ!?」
ルーグと思われる老人がソルデリクを指差して目を剥いている。
死んだ人間、自分たちが殺した人間が目の前にいるのだから、恐怖だろうな。
ここには仇の3人しかいない。ルーグの家族はリッチたちが見張っているようだ。
「お、落ちつくんだ、ルーグ」
「これが落ちつけるかっ。なんでソルデリクがいるんだっ。アルテミスまでいるんだぞっ、オーランドッ」
「そんなわけあるか。こいつは幻覚だ。気を確かに持て」
2人の老人が言い合いをする。みっともない。
「黙れ」
静かだが怒りのこもったソルデリクの声。
一瞬で空気中の水分が凍りついて、オーランドたちの体に霜がついた。
3人の年寄りはガタガタと震え、喋ることさえできないほどだ。やり過ぎだ。これじゃあ仲間の居場所を聞き出せないだろ。
アルテミスが3人の周りをくるくる回る。霜が蒸発し、今度は3人の顔が真っ赤になった。
「「「ギャァァァッ」」」
血まで蒸発しそうな勢いだ。
「まったく……お前たち、遊んでないで早く仲間のことを聞き出せ」
3人を光の帯が包み込む。
「「「だ、誰!?」」」
3人の状態を回復してやると、誰何された。
「無礼者どもめ、ひれ伏すのだっ」
「「「がっ」」」
ソルデリクの厳しい声に、3人が圧せられて床に伏せた。
見苦しくもがく3人。老人になっても生きたいという執念が顔に出ている。
「ソルデリク。もういい。早く済ませろ」
「申しわけなく存じます」
俺に礼をし、懐から何かを取り出して3人の前に投げる。
「拾いなさい。あの時のように、それで私を刺すがいい」
ナイフだ。
3人はどうしようか迷っている。ナイフとソルデリクとアルテミスの間で視線が彷徨う。
「拾わないのですか? 構いませんが、武器がなくても殺しますよ」
殺すのは決定事項。
「ですが、他の者たちがどこにいるか持っている情報を全て提供すれば、考えてやらないこともないですよ」
「「「っ!?」」」
生きる道ができたと、3人に希望の光が差して表情が和らぐ。
でもさ、それ考えるだけだぞ。情報を吐いた後に「考えるとは言ったが、助けるとは言ってない」とか言うんだ。俺ならそう言う。
「言います、言いますからどうかっ」
「私も喋りますから、どうかお助けくっださい」
「お、お前たち、止めろ、止めるんだっ」
ローグ夫婦が情報を吐くと前のめりになるが、オーランドがそれを止める。
「うるさいっ。こんなところで死んでたまるか」
「そうよ、あんただけ死ねばいいんだわ」
「この裏切り者たちが」
ののりし合う3人に呆れるしかない。こんな時に仲間割れとか、勘弁してくれ。
長くなりそうだから、俺は椅子に座ってソルデリクの対応を待つことにした。
俺が椅子に座ると、すぐにパルがお茶を淹れてくれた。そのポットはどこから出てきた? え、スカートの中? いやいやいや……いいけどさぁ。
「坊ちゃま。パルのスカートの中はシークレットスペースですよ。うふふふ」
「シークレットって……」
ポットがどのように入っていたのか、それが気になる今日この頃ですよ。
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