第51話

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 追07_マニシャース家のケジメ

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 マニシャース家の番頭で現村長のルーグとその妻のチココが素直に情報を吐いた。

 オーランドは最後まで喋るなと騒いでいたが、2人が情報を吐き切ってしまうと黙ってしまった。


「サダダとイシュのことしか知らないのですね」

「は、はい。その他の奴は死んだかあれ以来連絡を取ってません」


 ルーグが必死だ。


 サダダというのはチココの弟でマニシャース家の3番番頭だった男。

 イッシュはサダダと仲が良かった御者だった男。

 2人もアロンド大陸に居て、サップ村からほど近いダトス町に住んでいるらしい。


「何か言うことはありますか?」


 ソルデリクはオーランドに視線を向ける。


「ふん。亡霊ごときに話すことなどない」

「そうですか。では、あなたも亡霊になるといい」


 ソルデリクの手がひれ伏しているオーランドの背中へ入っていく。


「がぁぁぁぁぁぁぁっ」


 ソルデリクが手を引き戻すと、そこには心臓が握られていた。動いて脈打っている心臓だ。


「これは私がもらっておきましょう。心臓のないあなたはもう人間ではない。ふふふ。今のあなたは幽鬼です。幽鬼を追う専門の神官がいるのは知ってますよね? あなたは神官に追われ、追い詰められ、そして無残に死んでいくのです」


 オーランドの顔はまるで精気のない青白いものに変わっていた。視線は定まらず、まるで意識がここにないようだ。


「あぁぁぁ……」


 幽鬼となったオーランドがふらふらと立ち上がると、覚束ない足取りで部屋を出て行った。


「さて、あなたたちですが……」

「「ゆ、許してください!」」


 幽鬼にされてはたまったものではないと、ルーグとチココ夫婦が必死に許しを請う。


「いいでしょう。殺すのは止めてあげましょう」

「ゆ、幽鬼には」

「しませんよ」


 ソルデリクの言葉を聞き、安堵の表情をする2人。


「ぎゃぁぁぁっ」

「「っ!?」」


 屋敷の奥から悲鳴がした。


「オーランドが屋敷内にいる者を食らっているようですね」

「ひ、ひぃぃぃっ」

「た、助けてくださいぃぃぃっ」

「そんなに必死にならなくてもいいですよ。殺しはしませんから」


 その笑みが返って怖いんだと思うぞ。


「「ほ、本当ですか?」」

「ええ、本当に殺しはしませんよ。あなたたちはちゃんと喋ってくれましたからね」

「「ありがとうございます!」」


 幽鬼になったオーランドに食われている者の中に2人の子供や孫もいるだろうに、この2人はそのことよりも自分たちが助かることのほうが大事なようだ。


「サイ様。お手を煩わせてしまい、申しわけございませんでした」

「いや、構わん。これは約束だからな」

「それでも心よりの感謝をさせていただきます」


 ソルデリクが慇懃に礼を尽くす。


「わたくしはこれからサダダとイシュのところに参ろうと思います。よろしいでしょうか?」

「構わんさ。屋敷のほうはボロンボたちがやってくれるからな」

「ありがとう存じます。それではこれにて失礼いたします」

「おう、好きなだけ暴れてこい」


 ソルデリクの姿がすーっと消えていく。

 それを見たルーグとチココ夫婦は悲鳴をあげるが、すぐに助かったのだと安堵の表情になる。


 そんな2人の前にアルテミスがトコトコと進み出る。いい笑顔だ。


「つぎは私なの」

「「えっ!?」」


 そりゃそうだ。お前たちが殺したのは、何もソルデリクだけではないのだから、アルテミスにも復讐する権利はある。


「「ぎゃぁぁぁっ」」


 ナイフで2人の背中を斬りつけ、そこに塩を塗る。アルテミスは拷問思考が強い。以前、ボロンボの部下が俺の屋敷に侵入した時も傷口に塩を塗って拷問していた。


「つぎはこれなのです」


 いい笑みを浮かべ、出したのは竹串。その竹串をルーグの爪の間に刺していく。ルーグは絶叫する。拷問のバージョンが上がっているな。


「幼女の拷問風景はさすがにあれだな……」

「坊ちゃまは幼女好きロリコンですからね(プイッ)」


 パルが拗ねたように唇を尖らせ、顔を背けた。


「何度も言っているが、俺はロリコンじゃないからな」

「それならパルをもっと可愛がってください」

「可愛がっていると思うんだが……」

「もっとなのです」

「はいはい」

「はいは一回ですよ、坊ちゃま」

「はーい」


 俺の膝の上に体を預けたパルが、俺の唇を奪う。今はそういう時ではないんだが。


「ああぁ、高ぶります」


 拷問している前で、いたすのはさすがに無理だ。なんとかパルを落ちつかせる。

 パルを落ちつかせている間に、アルテミスのほうは拷問を終えたようだ。


「殺さないのか?」

「苦痛は長く与えたほうが、効果的だとお父様が言ってました」

「なるほど」


 どこまでも恨みが深いな。


 ルーグ夫婦は体中に傷があり、全ての爪の間に竹串が刺さっている。さらには腕と足の腱は切られている。殺されたほうがいいのか、このほうがいいのか。生きていたことを喜んで余生を送れ。


 屋敷から外に出る。まだ空は暗く、宝石のように星が煌めいていた。


「さて、約束は果たした。次は俺の目的を果たそう」

「行くのですね」

「ああ、世界の果てを見に行こう」

「お供します」


 パルの肩を抱き寄せ、美しい星々を見上げる。パルとならどこまでも行けるだろう。


「世界の果てに行くには足が要るな……。あいつのところに行くか」

「あいつですか。まだ生きていると思いますが……」

「あまり虐めてやるなよ」

「約束はできません」


 前世で大賢者と呼ばれていた頃の知り合いのところに行こうと思う。


「影の仕事はこれで終わりだ。助かった、感謝しているぞ」


 俺たちの斜め後方に現れた影にも感謝の言葉を伝えた。


「お願いがあります」


 影が跪く。なんだ?


「私を麾下にお加えください」

「はぁ?」


 いきなりだな。何か意図があるのか?


「なんで俺に?」

「サイ様は私のような怪しい者を分け隔てなく接してくださいました。私は、私はサイ様の懐の深さに感激したのです」

「えぇ……」

「あなた、よく分かっているではないですか! 特別に麾下に加えてあげますから、励みなさい!」

「はっ、ありがとうございます!」


 なんでパルが喜々として受け入れるわけ? 俺は何も言ってないんだけど。


「まあいい。ギルマスに感謝の意を伝えてくれ。その後は屋敷へ行き、ソルデリクかボロンボの指示に従え。いいな」

「はっ、ソルデリク様かボロン……え? ボロンボ? まさか闇夜のカラスナイトクロウの三大幹部の一人のボロンボですか?」


 驚いた顔だ。ボロンボってそんなに有名人なのか? 裏家業だから名前は知られてないほうがいいと思うんだけどな。


「なんだボロンボのことを知っているのか。顔見知りなら話は早い」

「このような仕事をしていますと、裏の世界にもそれなりには。たしか闇夜のカラスナイトクロウは壊滅したはずですが……? ま、まさかサイ様はボロンボも麾下に……?」

「絡んできたから、少し懲らしめてやったら配下になった」

「さ、さすががサイ様です! あのボロンボを麾下に加えるとは! その深謀遠慮に感服いたしました!」


 深謀遠慮なんて何もないぞ。あの時は行き当たりばったりで配下にしたんだから(笑)


「そうなのよ、坊ちゃまは凄いのよ。あははは」


 なんでパルが高笑いするんだよ?

 何にしても、影がボロンボを知っているというのなら都合がいい。細かい説明をしなくてもボロンボなら対処できるだろう。




 影が姿を消した頃には、空が白んできた。もう朝か。

 闇と光は織りなすグラデーションが幻想的だ。この世には俺が知らないこと、理解してないことがまだたくさんある。

 ソルデリクとの約束もほぼ果たしたし、本来の目的を果たしにいくか。


「坊ちゃま。パルは朝シャンがしたいです」

「いきなりだな」

「あんなクズたちのそばにいたせいか、この身が穢れた気がします」

「クズは否定しないけど……まあいいか。風呂のある宿を取るか」

「はい。一緒に入っていいことしましょう!」


 パルはブレないな。


 白んだ空を見上げると、闇と光の間に何かの影を見つけた。


「あれは……航空艇か」


 航空艇は前世の俺が発明した空を飛ぶ船のことだ。このアロンド大陸の東部で運用されていたはずだが、この時代では西部にも航空艇の航路ができたようだな。


「そう言えば、あいつ……まだ生きているのか?」

「ゲッソは20年前は生きていましたよ……殺してやればよかったですかね」


 パルが嫌そうな顔をした。ゲッソは前世の俺の知り合いだから、パルもゲッソのことは知っている。パルとゲッソは顔を合わせると喧嘩ばかりしていた。いい思い出だ。


「風呂の後はゲッソに会いにいくぞ」

「あいつは臭いから嫌いです」


 プイッと顔を背けるパルの可愛い仕草に、思わず肩を抱き寄せてしまった。

 パルには我慢してもらわないといけないから、今日はがんばってサービスしなければ。


 

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