第37話

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 037_軟禁

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 捕まってから数日が過ぎたと思う。地下牢なので、日の光は入らない。

 その間、誰もこの地下牢にやってこない。完全に放置されていますよ。

 誰もやってこないということは、食事や水さえ出ないということ。

 普通ならかなり衰弱するけど、オレには生活魔法がある。


『生きるため、活動するために必要な全てを魔法化して使える』というのが、オレの生活魔法。

 生きるために必要なこと全てが、魔法として使える。それがどれほど凄いことか、オレは知っている。


 食料を摂取しなくてもオレのお腹は減らない。

 食料を摂取しなくても栄養が不足することはない。

 そういう魔法―――ヌトリションでオレはこの地下牢に閉じ込められていても、空腹になることなく生きていける。


 檻の中ではすることがない。患者も居ないし、誰も来ない。

 最近は忙しかったので、丁度良い機会なのでゆっくりと休ませてもらおう。

 横になって目を閉じる。こんなにゆっくりしたのはいつ以来だろうか?

 黒顔病が沈静化し、終息するまでは寝る間も惜しんで治療していた。

 そのおかげもあって、オレのステータスはかなり上昇したけど。



 加 護 : 創造の女神アマリアの加護

 スキル : 生活魔法【創】

 才能 : 【魔法戦士SSS+】

 武器 : 【剣A+/SSS+】【棍棒C+/S】【槍D/S-】【弓D/A】

 魔法 : 【生活魔法SS+/SSS+】



 生活魔法の熟練度(現在値)がSS+になった。成長限界がSSS+なのでまだ伸びる可能性があることが嬉しい。

 この世界で武器でも魔法でも熟練度がSS+の人物はどれだけいるだろうか? Sだって、ほんの一握りだから、おそらく片手の指の数で収まるはず。


 剣の熟練度はA+と変わらない。実戦をこなさないとこれ以上は上がらないから、仕方がない。

 それでもA+だから、この世界の上位の一角には入るはず。まあ、本当にギリギリのところだと思うけど。


 でも、オレは魔法戦士。魔法と剣などの武器を合わせた戦いができる。剣だけでも魔法だけでもない。

 魔法戦士は器用貧乏になりやすいが、オレの場合は剣も生活魔法も成長限界がSSS+で世界最高水準。共に極めれば、圧倒的な力を得るだろう。


 あの継母がこのことを知ったらどういう顔するだろうか? 悔しがる顔が見れないのは、残念だ。


「坊ちゃま。お待たせいたしました」


 目を開けると、檻の外にパルの姿があった。相変わらず足音などの気配がまったくしない。


「最近は治療で毎日忙しかったから、丁度いい休みになったよ」

「坊ちゃまは働きすぎなのです。もっとパルとイチャイチャするべきです」

「そうだね、パルの膝枕で久しぶりに寝たいかな」


 じめじめして硬い地下牢の石の床に直で寝ていたので、柔らかいパルの太ももが恋しい。


「まあ、坊ちゃまったらぁ~、積極的ですね♡」


 パルの機嫌が最上位まで良くなった。尻尾があったら、ぶんぶんと振れていたことだろう。


「それで、今回の黒幕は誰かな?」

「神殿ですね。大司教の野郎が糸を引いていました」


 大司教や神官たちに恨まれている自覚はある。でも、それは逆恨みでしかない。

 神殿という巨大組織の権力を笠に着て、これまで弱い者を蔑ろにしてきた。

 金持ちや貴族といった自分たちに利益をもたらす人たちへ、回復魔法を行使することで莫大な富を得てきたのだ。

 それが、黒顔病の治療で後手を踏んでしまい、金持ちや貴族がオレを頼ってしまった。

 オレにはできることが神官たちにはできなかったのが原因だけど、それを恨みに思うのが今の神官たち。困ったものだ。


「国王はどのように動いているのかな?」

「坊ちゃまを拘束した者たちを捕縛しています」

「大司教は?」

「野放しです」


 一応は聞いたけど、その答えはオレが想像していたものと同じだった。

 この国では神殿の影響力が極めて強い。大司教を捕えたりすれば、神殿と事を構えることになる。

 だから、トカゲの尻尾切りのように、末端で悪さをした奴らを切り捨てて話を有耶無耶にしようというのだろう。


 地上に出ると、オレを捕縛した衛兵たちが縄をうたれていた。

 彼らは命令されたか、金をもらってオレを捕縛しただけ。それでも、罪は罪。


「サイ様。ご無事で何よりでした」

「ギルマス自ら出迎えとは、嬉しいな」


 冒険者ギルドのギルマスは、どうもパルを恐れている。

 エルフ戦争でエルフが負けたことがトラウマなのか、ダークエルフのパルの一挙手一投足にびくついているのが分かる。

 だからか、オレに丁寧な対応をしてくれていると、この数カ月の付き合いで分かった。


「救出が遅くなり、申しわけございません」


 ギルマスがペコペコオレに頭を下げるのを、周囲の人たちが凝視している。変な噂が立っては困るので、止めてほしい。

 よく見ると、衛兵たちを捕縛しているのは、近衛騎士団だった。

 近衛騎士団は王家直属の騎士たちで、王家の紋章が入った鎧を身に纏っているから簡単に見分けがつく。


「某、近衛騎士団第二部隊長のアイスマンと申す。サイ殿でよろしいかな」


 薄い青色の髪をした偉丈夫が、近衛騎士団の部隊長と名乗った。

 近衛騎士というのは聞こえはいいが、実際のところはボンボンの集まりだ。だから、実戦経験が乏しく、生ぬるい考えの人物が多い。

 そんな近衛騎士団にあって、このアイスマンの名前は国中に轟いている。豪傑にして清廉潔白な人物だと、オレも噂を聞いたことがある有名人である。


「はい。オレがサイです」

「この度の不手際を謝罪する」

「英雄のアイスマン様に謝罪されるとは、思ってもいませんでした」

「某は英雄などではない。貴殿のような人物こそが、英雄なのだ」


 嫌味のない言葉だった。

 それだけで、このアイスマンという人物の人となりが分かるというものだ。

 お互いに褒め合っていたら、パルに咳払いをされた。

 ギルマスも苦笑いを浮かべていたし、周囲の人たちもどうしたものかという表情をしていた。


「そういえば、この人たちはどうなりますか?」

「この者たちは、国王陛下の客人であるサイ殿を拉致監禁しました。これは国王陛下への明確な謀反ですので、一族郎党に極刑が言い渡されることでしょう」


 国王の客を有無を言わさず拘束して地下牢に監禁し、食事も与えなかったのだからその罪は重い。

 謀反というのも頷ける。衛兵であれば、そのくらいのことは知っていて当然だ。

 ただ、何も知らない家族も罪に問われるのは、あまりにも不憫だと思う。とは言え、今のオレには法を曲げて家族を助けてやってほしいと言える権力はない。

 たとえ、レッドドラゴン討伐者で黒顔病を治療したとしても、今のオレは貴族でも官僚でもないのだ。


「これよりサイ殿を城へご案内したく思います。城で静養いただき、改めて国王陛下と面談いただくことになります。よろしいでしょうか?」


 断ることのできない確認をされても困る。ここでノーと言えるのは、相当の権力者だけだ。


「案内をお願いします」


 オレはパルと、なぜかギルマスと一緒に馬車に乗り、城に向かった。

 ギルマスは今回のことで色々と動いてくれたので、日を改めてしっかりとお礼をしようと思う。


 

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