第8話
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008_マニシャース屋敷3/3
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ロータリーの噴水が、まるで聖水のような清やかな水を流している。
それを二階の自分の部屋の窓から眺めていると、扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
扉を入ってきたのはブラウンの髪をした40前の男。この屋敷を建てたソルデリク・マニシャースその人だ。
勘のいい人なら分かっただろうけど、このソルデリクはあのリッチ。今はオレがテイムしたことで、スピリットリッチという種族に進化し、人間だった頃の容姿を手に入れた。
「サイ様。朝食の準備が整いましてございます」
「分かった」
ソルデリクは元々商人だった。それが20年前に使用人たちの反乱に遭って一族全員が殺されてしまった。
だから、使用人たちの顔も名前もしっかりと憶えている。
もっとも、その使用人たちが今でもその名前を使っているか分からないし、顔も変わっているかもしれない。そもそも、死んでいる可能性だってある。
食堂に行きテーブルに着くと、小さなメイドが料理を持ってくる。パルではない。
この金髪をお下げにした10歳くらいの少女は、アルテミス。アルテミスはソルデリクの娘である。
リッチだったソルデリクと共に居たハイゴーストだったが、今はリッチドールという種族に進化している。
オレはリッチだけテイムする気だったけど、6体のハイゴーストもテイムしてしまった。どうも、ハイゴーストたちはソルデリクと一心同体らしい。
「アルテミス。フォークはこちらに置くのです。フォークとスプーン、ナイフは坊ちゃまが食する順に置くのです」
「あ、いけないのです。サイ様、ごめんなさいです」
アルテミスはぺこりと頭を下げてから、ニカッと笑いかけてくる。
この愛らしい笑顔を向けてくるアルテミスを、20年前に殺した使用人たちは外道だ。いくらソルデリクに恨みがあったとしても、こんな幼い子まで殺す必要はないだろ。
「おいおい覚えていけばいいよ」
先ほどからソルデリクとアルテミスが、オレのことをサイと呼んでいるけど、これはオレがサイジャールと言う名を捨てたから。
今のオレはサイジャールじゃなく、サイ。ただのサイと名乗っている。
人間の姿をしているのは、ソルデリクとアルテミスだけ。他の5体のハイゴーストはリッチに進化したけど、人間の姿になれなかった。
そこら辺はマニシャース一族の中でも、温度差があるのかもしれない。
ただし、ソルデリクとアルテミスと他の5体のリッチは、この屋敷の呪縛から抜け出せた。つまり、自由に動き回ることができるようになったのだ。
しばらくこの屋敷で生活し、力をつけてから旅に出るつもりだ。
「朝食を食べたら、冒険者ギルドに行ってくる。屋敷のほうはソルデリクに任せる」
「承知しました」
朝食を食べると、冒険者ギルドに向かった。
オレの屋敷は貧民街と平民街の境にあり、市場や繁華街にも近い。
繁華街に近いからこそ、サンドルは屋敷の周辺の開発がしたい。
悪霊の話はやがて下火になるだろうから、屋敷の周辺の開発は進むだろう。土地が安い今のうちに、この辺りの土地を買い占めるとサンドルは言っていた。
今ならオレが悪霊を退治(テイム)したことは、他の地権者に知られていない。商魂逞しい奴だ。
―――収納魔法。
異空間に物質を収納する魔法。
生活魔法【創】であれば、こういった魔法を創り出すことは簡単だ。
アイテムボックスは異空間に物質を収納できるスキル。
オレが使った収納と似ているけど、オレの収納はアイテムボックスと違って使用時に魔力を消費する。
ただし、魔力を消費するだけあって、アイテムボックスでは収納できない生き物でも収納が可能になっている。
どうせ創るなら、アイテムボックスよりも利便性がいい魔法のほうがいいからな。
この収納魔法に貴重品を入れておけば、誰かに盗まれることはない。
食料などを入れておけば、非常事態があっても食料に困ることはない。
そんなわけで、多くの物が収納魔法によって収納されている。
その中にあるものを確認し、俺は屋敷を出た。もちろん、パルも一緒に。
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