第7話

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 007_マニシャース屋敷2/3

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「それはちょっと……」


 悪霊を退治した時の報酬を要求して何が悪い?


「どうせ周辺の土地もサンドルの店のものなんだろ? 開発したら大金貨5枚どころか、100枚、いや、1000枚以上の利益が出るんじゃないかな? それに、神官に除霊を頼んだら大金貨10枚くらいは取られるんじゃないのか?」

「……サイジャール様には負けました。大金貨5枚で手を打ちます。ですから、悪霊をなんとかしてください」

「よし、契約成立。口約束だがこれを破れば、サンドルに呪いをかけるからな」

「わ、分かっております。口約束でもしっかり履行します!」


 契約成立。


「サンドルはここで待っていろ。オレは中に入って悪霊の正体を見極めてくる」

「お気を付けて……」


 サンドルを噴水のそばに置いて、オレたちは屋敷の玄関に向かう。


「立派な扉だ。金がかかっているのがよく分かる」

「敷地は広大で、屋敷の規模もそれなりに大きい。この造りは公爵家の屋敷にも引けをとるものではないですね」


 パルの言う通りだ。かなり金がかかった屋敷だよ、これ。

 サンドルから預かっているカギで扉を開けて、パルと共に中に入る。

 雨戸が閉まっているため、広いエントランスは真っ暗だ。


 ―――勝手に扉が閉まる。ランプに火が灯る。

 なかなかおどろおどろしい演出だ。


『ウラメシイ』

『ニクイ』

『コロシテヤリタイ』

『ワタシノウデハドコナノー』


 どこからか声が聞こえてくるが、これがまた背筋が寒くなるような声。


「坊ちゃま、お下がりください」

「いや、大丈夫だ」


 パルがオレの前に出て、メイド服のスカートの中から短剣を取り出して構えた。

 こんな時だが、パルの太ももはスラッとしていながら、とても柔らかそうで目の保養になる。


「それじゃあ、やるか」

「坊ちゃまには、何か策があるのですか?」

「策なんて高尚なものじゃないさ。まあ、見ていてくれ」


 エネミーサーチのマップには、しっかりと敵対者の反応がある。

 赤●は7つ。この屋敷で殺されたマニシャース家の人間の数と同じだ。


 ―――エリアセイントバリア。


 敷地内全体を覆いつくす聖なる結界を展開する。


 ―――動け。


 徐々に結界の範囲を縮めていく。


『ギャァァァァァァァァァァァァッ』

『ワァァァァァァァァァァァァァッ』

『フシャァァァァァァァァァァァッ』

『キャァァァァァァァァァァァァッ』


 悪霊と思われていたのは、モンスターのハイゴースト。さらに、その進化系のリッチ。

 リッチはかなり強力なモンスターで、生半可な神官では浄化できないだろう。返り討ちにあうのも納得だ。

 しかも、この屋敷に縛り付けられていることで、敷地内限定だけど普通のリッチやハイゴーストよりもかなり強力なモンスターになっている。


 エリアセイントバリアが徐々に縮まっていき、オレの目の前で一辺が3メートル程度の正方形になった。

 そのエリアセイントバリアの中では、1体のリッチと6体のハイゴーストが怨嗟の視線をオレに向けている。


『ダセェェェ』


 リッチがエリアセイントバリアを破ろうとしている。

 これでもオレは創造の女神の加護を得ているので、神聖な力とは相性がいい。

 オレのエリアセイントバリアは、リッチやハイゴーストたちの攻撃にびくともしない。


「お前たちの気持ちは分かるけど、いい加減天国に行ったらどうだ?」


『ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ』


「いや、その気持ちは分かるけど、誰がお前たちを殺したのか分かっているのか?」


『コロス コロス コロス コロス コロス コロス コロス コロス コロス コロス』


「ふーん、そいつらがどこに居るのか知っているのか?」


『ウラメイシイ ウラメイシイ ウラメイシイ ウラメイシイ ウラメイシイ ウラメイシイ ウラメイシイ ウラメイシイ ウラメイシイ ウラメイシイ』


「分からないんじゃ、どうしようもないだろ」


『ギィィィィ ギィィィィ ギィィィィ ギィィィィ ギィィィィ ギィィィィ ギィィィィ ギィィィィ ギィィィィ ギィィィィ』


「はぁ? なんでオレがそんなことしなければいけないんだ?」

「坊ちゃま。先程から会話が成り立っているように、聞こえるのですが?」


 胡乱な目のパルがそこに居た。


「なんとなく言っていることは理解できる。多分、エリアセイントバリアを通じて意思が伝わってくるんだ」

「さすがは坊ちゃまでございます。世界広しと言えども、リッチと意思疎通できるのは、坊ちゃまだけでしょう」


 それ、喜んでいいことなのか?

 だが、このリッチの無念は分かる。

 オレだっていくらでも恨みに思うことをあの継母と弟にされた。父親には見て見ぬふりをされ、非道な行いを受けてきたんだ。

 だからリッチたちの無念は分かる。

 リッチたちは、彼らを殺した相手に復讐したいらしい。

 でも、復讐相手がどこに居るか分からない。

 しかも、生きているか死んでいるかさえも分からないのだ。


『ガァァァァ ガァァァァ ガァァァァ ガァァァァ ガァァァァ ガァァァァ ガァァァァ ガァァァァ ガァァァァ ガァァァァ』


「何? このまま滅ぶくらいなら、オレにテイムされるから復讐相手を捜して復讐をさせてほしい? しかし……20年も前の事件だ。そいつの顔だって変わっているかもしれないし、死んでるかもしれないぞ。一生その相手が見つからない可能性のほうが高い」


『グゴゴゴ グゴゴゴ グゴゴゴ グゴゴゴ グゴゴゴ グゴゴゴ グゴゴゴ グゴゴゴ グゴゴゴ グゴゴゴ』


「それでも良いだって? オレのほうがプレッシャーかかるっつーの」


 どこの誰か分からない奴を捜すのは、さすがにキツイ。

 リッチは顔は覚えていると言ったが、顔が変わっている奴だって居るだろう。それに、悪党だと命の危険が多いだろうから、死んでいる可能性が高い。

 生きていて今でも悪さをしているなら、探すのはそれほど難しくないかもしれないけど、そうじゃない奴を探すのは骨が折れる。ハードルは高い。


「坊ちゃま。常に仇を捜し続けることはできない。仇を捜し出せなくても良いと言うのであれば、リッチをテイムしてやってはいかがでしょうか」

「そんな簡単なことではないと思うけど……」

「このまま浄化しても、リッチたちは天国に行くことはできないでしょう。ならば、坊ちゃまがテイムして、少しでも可能性を残してあげたほうがいいと思うのです。彼らの無念を思えば、そのくらいのことはしてあげたいと……」

「パル……」


 そこまでリッチたちの無念を……って、その顔は絶対に悪だくみしてるだろ!


「グフフフ。リッチが眷族になれば、坊ちゃまに箔がつくのです。グフフフ」


 心の声が漏れているんだけど。

 だけど、リッチのことを考えれば、少しは可能性を残してやりたい。


「分かったよ。復讐ができるか分からないが、できる限り手を尽くす。それでよければ、お前たちをテイムしてやる」


 リッチたちから了承の意が伝わってくる。


 エリアセイントバリアに手をつく。


 ―――テイム。


『アァァァ……』


 エリアセイントバリア内が光で満たされていく。


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