第25話

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 025_使者再び

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「坊ちゃま! 髪が艶々なのです! それに、お肌も潤っていて、100歳は若返った気分です!」


 100歳も若返ったのかよ!?

 おっといけない、パルの年齢のことを考えてはいけないのだった。


「パルが喜んでくれて、オレも嬉しいよ」


 何を隠そう、オレの髪と肌も良い感じなのだ。

 毎日風呂に入って髪を洗っているけど、どうしてもパサついていた。

 オレの髪は青藍せいらん色をしている。幼い頃に母がその色を、深い海の色だと言っていたのを覚えている。

 母の記憶はそれほど多くない。オレが幼い時に死んでしまったからだ。

 母が青藍色の髪を撫でてくれた時の気持ち良さは、今でも懐かしく思うことがある。


「坊ちゃま、また奥様のことを思い出しているのですか?」

「なんで分かるのさ?」

「坊ちゃまのことはなんでも分かります。奥様のことを思い出されると、坊ちゃまの黄金色の瞳がとても和やかになった後、深い悲しみが見えます」


 母との思い出はとても楽しいものだ。でも、母との思い出は多くない。それが悲しい。


「坊ちゃまが悲しい目をされるのは、心が痛みます」

「心配してくれて、ありがとう。パルだけだよ、オレのことを分かってくれるのは」

「そうです、パルは坊ちゃまのことならなんでも知っているのです!」


 パルが鼻息荒く胸を張ると、その爆乳がボヨヨンと揺れる。それはそれで眼福だ。

 さて、今日は剣ではなく、鍬を振るかな。


 庭に出て鍬で土をおこす。

 採取した薬草を植えるには、まず土を耕さなければいけない。

 剣を振るのも訓練なら、鍬で土を耕すのも訓練だ。フンッ、フンッ。


 ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッと地面を耕す。

 耕した地面に山で採取した土を加える。この土は薬草が生えていた地面のものを持ってきた。

 こういった腐葉土や黒土を加えることで、土に栄養を与えるのが目的。

 さらに、魔力を土に混ぜることで、薬草の育ちがよくなるらしい。


 ―――グレイス。


 土などのものに、聖なる力の恩寵を与える魔法。

 一度恩寵を与えれば、10年くらいは持続してくれる。


 こんなことができるのはオレだけだが、広い畑でもなんとかなる。

 まあ、この屋敷の敷地内で余っている土地を耕すくらいなので、それほど広くないのだが。


「ふー、これくらいでいいかな」


 鍬を振るのは、剣を振るのと違う筋肉を使うので、なかなかいい訓練になる。

 水を撒いて地面を湿らせる。この時の水にもグレイスをかける。

 続いてロカイを始めとした薬草を植えていく。数はそれほど多くないけど、全てがスクスクと育ってくれることを願おう。


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「あら、パルちゃん。なんだか今日は一段と奇麗だね」

「うふふふ。分かります?」

「やっぱり何かあるのね、何したの? 教えてよ」


 野菜を持ってきたおばちゃんがパルの髪や肌の状態に気が付いたようで、パルが嬉々として石鹸のことを話している。


「あら、良かったねぇ!」

「でしょ~」


 楽しそうだな。

 まあ、パルだって女の子だから、お喋りくらいするよな。


「それ、私にもちょうだいよ」

「サンプル程度ならいいですよ~」


 え? サンプルって何?

 まさか石鹸を売るつもりじゃないよね?


「はい。どうぞ」


 って、なんで小分けされた物があるの?


「私にももらえるかね」

「いいですよ~」


 何人に配るつもり?

 売るほど作るようなことはしないよ。


「先生、俺は治るのか?」

「ん、ああ、大丈夫だよ」


 治療に専念しよう。オレはオレの仕事に専念だ。


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「坊ちゃま。国王からの使者が来ました」


 治療院を閉めた後、夕食を食べ終わりある物を作っていると、ソルデリクが耳打ちしてきた。

 前世で大賢者と言われていたオレでも、これを作ることはできなかった。だが、今世のオレはこれを作ることができる。世界で初めての偉業だろう。

 良い感じできょうが乗ってきたところだったので、帰れと言いたいところだ。でも、使者も仕事だし、追い返すのは可哀想だから会うとするか。


 リビングで大人しくしているのは、前回と同じ使者。ソルデリクの教育が効いているようで、静かにしている。

 そう言えば、名前を聞いていなかったような?


「ご無沙汰しております。サイ様」

「はい、ご無沙汰してます。使者殿」


 深々と頭を下げてくる使者に、オレも挨拶して軽く頭を下げる。


「本日は、先日と同じ要件で申しわけありませんが、再び訪問させていただきました」


 勲章授与のことか。さて、どんな話になったのやら。


「話をお聞きします」

「ありがとうございます。国王陛下におかれましては、サイ様のレッドドラゴン討伐の功績を称え、豪炎宝珠勲章を贈りたいと仰っております」


 へー、第二位勲章の豪炎宝珠勲章フラムにランクアップしたか。

 国としてはレッドドラゴンを討伐できるオレとできるだけ誼を通じておきたいのだろうな。できる限りの譲歩をしてきた。

 第一位の聖十字勲章クロススターは、長年国に仕えて豪炎宝珠勲章フラムを2回以上授与された者にしか、授与できないもの。だから、オレに授けるには、豪炎宝珠勲章フラムが最高位のものになる。

 聖十字勲章クロススターを望んでもいいけど、授与されることはないだろう。それにあまりゴネても国王からの心証が悪くなる。


「また、報奨金として大金貨1000枚をお贈りしたいとも仰っております」

「国王陛下の勅令で討伐したわけでもないのに、報奨金ですか?」

「もし、レッドドラゴンを討伐できる方が居ると知っておられれば、国王陛下も勅令を出されたことでしょう」


 知らなかったから、勅令は出さなかったわけか。そういう名目なんだね。

 ただ、伊達や酔狂でそんな勅令を出されても、出されたほうにしたら迷惑な話だと思うけど。


「どうでしょうか、お受けいただけないでしょうか?」


 豪炎宝珠勲章フラムがもらえる時点で、受けると決めていた。報奨金に関しては予想もしていなかったので、何かお土産を用意しないといけないかな。


「ここまで言われては、是非もありません。国王陛下に承知しましたと、お伝えください」


 オレは勲章と報奨をもらうと返事した。

 詳しい日時は後日決定するとのことだったので、また使者が来ることになるだろう。


 

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