第55話

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 追11_かつての仲間

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 大賢者と呼ばれていた頃、パル以外にも俺に協力してくれる人物がいた。

 その人物はこのアロンド大陸東部にある都市ドロリアスの郊外に工房を構えているはずだ。

 俺とパルはドロリアスへ向かうために、航空艇に乗った。


 航空艇の旅は順調に進んだが、もうすぐドロリアスというところで嵐にみまわれた。航空艇は嵐を避けるために、ドロリアスから南にあるイスキスという町に着陸することになった。


「なんだか雰囲気が悪いですね」


 パルの言うように、イスキスの町中は活気がなく出歩いている人が少ない。

 雨が降っているから人出は少なくなるだろうが、町の規模からするとこの数倍の人が歩いていても不思議ではないはずだ。


「最近、神隠しが流行っておりまして……」


 ホテルのフロントで町のことを聞いてみると、なんでも神隠しが多く発生してるのだとか。

 てか、神隠しは流行るものなのか? 普通に誘拐だろ、それ。


「嵐は二、三日もすれば収まるらしいから、ここで足止めだな」


 パルが雨に濡れた髪をタオルで拭いてくれる。


「神隠しを探るのですね。神を名乗っていいのは、坊ちゃまだけです。ぶっ飛ばしてやりましょう!」


 なんかパルがやる気になっている。俺は神じゃないからな。


「パルのも拭いてもらえますか?」


 俺の髪を拭き終わると、パルが服を脱ぎ始める。髪を拭くんじゃないのか?


「全身を拭いてほしいのです」

「それなら風呂に入ろう」

「はい! すでにお湯は入れてあります!」


 さすがはパルだ。いつ風呂のお湯を入れたのかと思うような早業だ。


「ぬぎぬぎしましょうね~♪」


 手際よく俺の服を脱がしていく、パルはすでに下着姿だ。目に毒というのは、このことだな。





 イスキス滞在二日目で雨が上がった。

 雨だったからホテルから出ることはなかったが、三日目の朝にイスキスを出るために魔動車を借り切ってドロリアスへと向かった。

 片道で半日かかる道のりだが、イスキスを出たあたりで魔動車が不意に止まる。


「道に誰かが倒れています。見てきますので、お待ちください」


 運転手が魔動車を降りようとするのを、俺が止めた。


「パル」

「はい」


 俺とパルの二人で魔動車を降りる。

 まったく面倒だな。


「おい、起きろ。こんなところで寝ていると、轢き殺すぞ」


 声をかけても起きる気配はない。


「最近は誘拐が多いと聞いたが、まさか俺たちを誘拐しようと言うんじゃないだろうな?」

「愚かなことですね。うふっ」


 誘拐と聞いて、ピクリと反応した。


「仕方ない。パル運転手に轢き殺せと伝えてくれ」

「はい」


 触って起こすつもりはない。

 こいつが息を殺して俺たちが近づくのを待っているのは、分かっているんだ。

 車に帰ろうとすると、寝ていた男が飛びかかって来た。


「この野郎!」

「甘いな」


 回し蹴りを顔面におみまいすると、男の歯が数本飛び散って錐もみしながら地面に倒れた。


「まさかこんなベタな展開があるとは、さすがの俺も引くわ」

「坊ちゃまが可愛らしいからいけないのです」

「いや、パルが綺麗だからだろ」

「まあ、坊ちゃまったら!」


 パンッと背中を叩かれる。痛い。


「ちっ、失敗しやがって。使えない野郎だ」


 悪態をついて道の脇からぞろぞろと十人くらいが出て来る。

 仲間が気絶しているのだから、心配してやれよ。


「おい、小僧。その女を渡しな。そうしたら、怪我をせずに済むぜ」


 無精髭を生やしたむさ苦しい男が、調子に乗っている。こいつがボスではないが、この十人の中ではリーダー格のようだ。


「目的はパルだってさ」

「ダークエルフなんて珍しいからな。高く売れるぜ」


 下卑た笑みを浮かべパルを舐め回すような視線を向ける。


「坊ちゃま。私、穢されてしまうようです」

「それは大変だ。どうしたらいいのかな?」

「生殺しにしますか?」


 生殺しか。それもいいかもな。

 死ぬまでに時間があるから、自分たちが犯した罪に懺悔できる。

 もっとも、こいつらが懺悔するかはしらんけど。


「それじゃあ、そうするか」


 俺の言葉が終わるか終わらないかの刹那、パルの姿がブレた。

 俺には見えたが、こいつらじゃパルが動いたことさえ見えなかっただろう。


「おうおう、ガキが調子に乗ってるんじゃ……アピャッ……」


 男たちが膝から下へと落ちる。両足が切り離されて地面を血で濡らす。


「誘拐するなら相手を選ぶべきですね」


 パルが短剣をスカートの中にしまう。その短剣になりたいとたまに思うよ。


「そうだ、そっちの林の中で見ている奴ら。今すぐ出て来たら、殺しはしない。だが十数えるうちに出て来なければ、皆殺しだ」


 大きな声で警告する。


「一、二……五、六……九、十。はいアウト」


 異次元に収納していた剣を、【収納魔法】から取り出す。

 鞘から剣を抜き、魔力を込める。

 剣が俺の魔力を受けて光り輝く。


 誘拐犯たちが林の中を逃げていく気配を感じる。愚かなことを。


秋霜烈日しゅうそうれつじつが俺のモットーだ。裁かれろ、悪苦斬あっくざん!」


 剣を振り下ろすと、光の帯が林の中へと飛んでいく。

 木々を避けつつ悪党どもへと向かうその光は、犯した罪の重さによって、苦痛を与える魔法剣技。

 こういう時のために前世で作ったものだが、エフェクトが派手なのが俺的にマイナスだ。


「「「ぎゃぁぁぁぁぁっ」」」


 林の中から悲鳴が聞こえる。


「悪苦斬の光は、悪さをしてなければ、苦痛もなければ死ぬこともない。だが悪事を重ねた者にとっては、死ぬに死ねない苦痛を与える。苦痛を受けているのは、お前たちの罪故だ。後悔しろとは言わん。せいぜい苦しんで死ね」


 林の中にいたのは三人。誘拐が成功した時に、攫った人を奴隷にする奴隷商人やボスがいたのだろう。


「さて、俺たちの旅を邪魔した奴には、報いをくれてやった。先を急ごうか」

「私を攫おうとするから、坊ちゃまの逆鱗に触れるのです。愚か者ですね~」


 パルが右腕をサッと振ると、漆黒の霧が悪党たちの傷口に纏わりつき、止血しながら体の中に染み込んでいく。


 足を斬り落とされても、高級なポーションや高位の回復魔法なら足をつけることができる。さらに再生させることも可能だ。

 しかし今のパルの魔法は、そういったポーションや回復魔法の効果を打ち消す魔法を放ったのだ。簡単に言うと呪いだ。

 悪党どもは二度と自分の足で歩くことができなくなった。しかも定期的に苦痛を与える呪いでもある。

 えげつない魔法だが、相手が悪党なら心は痛まない。





 悪党たちを成敗した後は順調に進んで、ドロリアスへと到着。

 さっそく昔の知り合いに会いに向かう。


 俺の記憶にある町並みとはかなり様変わりしている中を進み、ドロリアス郊外の古ぼけた工房に到着。この工房だけは俺の記憶にあるままだ。

 工房は前世の頃から古ぼけた外観をしている。俺が建てた工房なんだが、【状態維持】の魔法がかけてあるから外観が変わることは滅多なことではない。


 敷地の外にも活気のある音が聞こえて来る。

 俺の胸あたりまである石塀の向こうでは、複数の人が木や金属を組み立てている。


 パルと二人で石塀沿いに歩く。

 昨日までの雨が嘘のような晴天で、石畳の道はすでに雨を排水して足取りは軽い。


「なんじゃい、ワレ?」


 敷地へ入ると、声をかけられた。相変わらずドワーフは言葉使いが乱暴だな。


「俺はサイと言う。ゲッソに会いたい」

「親方に会いたいだ? ガハハハ。帰れ、帰れ。ワレのようなガキが来るところじゃネェ!」


 髭もじゃだから年齢が分かりにくいが、このドワーフはまだ若い。多分、見習いか見習いを卒業した程度だろう。


「いいからゲッソを呼びなさい」

「あぁぁんっ!? ダークエルフがなぼのもんじゃい。そんな細い体じゃ、筋肉ないじゃろ! 筋肉つけてから出直してこいやっ!」

「死にたいようですね」


 パルの目が座った。これはマズい。


「パル。死人は出すなよ」

「ふふふ。分かっていますよ。坊ちゃま」

「何をごちゃごちゃ言ってるんじゃ。さっさと出て行かんギャフンッ」


 ドワーフが空中を舞った。

 パルはすらりとした形の良い足が見える程、蹴り上げていた。


「ドワーフ如きがゴチャゴチャうるさいのよ」

「ボンゴッ!? ワレがボンゴを殺ったんか!?」


 あのドワーフはボンゴというらしい。


「黙れ、ドワーフ! さっさとゲッソを呼んできなさい!」

「親方を殺りに来たか!? おい、皆! 出て来い! 刺客じゃ!」


 ゾロゾロと工房の中から外からドワーフが集まって来る。

 しかしそれらのドワーフは、皆が空中を舞って先程のボンゴの上に積まれていく。

 まあ、死んでなければいいだろう。


 都合二十人程のドワーフが積みあがったその上に、パルが可愛らしくちょこんと座る。


「ふんっ。ドワーフはガサツで嫌いよ」


 この光景、昔も見た気がするな。

 ドワーフの性格とパルは昔から合わないんだよ。

 以前よりも山が大きくなってるけど、そこは人が増えたからだろう。


「騒々しいぞ! なんの騒ぎ……なんじゃこりゃぁぁぁっ!?」


 お、ゲッソが出て来たぞ。老けたな、ゲッソ。頭の天辺が剥げてるぞ、お前。


「やっと出て来ましたか」

「むっ!? 貴様は!?」

「ふん。こんな汗くさいところに来たくはなかったですが、来てあげましたよ」

「ぱぱぱぱぱパルメリス・モノトリーィィィィィィィィッ!?」

「うるさい。黙れ。そして跪け!」

「うぐっ……」


 パルの威圧を受けたゲッソが地面に倒れ伏す。


「ぐががが……」

「相変わらず、ゲッソの部下は躾がなってないですね」

「うぅぅぅ………」

「なんとか言ったらどうなの?」

「パル。威圧を切ってやれ。返事もできないぞ」

「仮にも大賢者の弟子が、この程度の威圧に屈するわけないですよ、坊ちゃん。このゲッソは姿形が似ているだけの偽物だと思います」

「あががが……」

「パルはゲッソに厳しすぎるぞ。パルの威圧を受けて無事な奴なんて、いないから」

「坊ちゃまの優しさに感謝することです。いいですか、ゲッソ。坊ちゃまに失礼があったら、その首をいただくわよ」


 威圧が解けて、ゲッソは何度か大きく息を吸った。

 地面にあぐらで座り、パルと俺を交互に見る。目には困惑があったが、次第に困惑が融解していく。


「まさか……大賢者様か?」

「久しぶりだなゲッソ」

「本当に転生したのか?」

「ああ、今度こそ世界の果てを見てやるぞ」

「っ!?」

「大賢者様ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 ゲッソが飛びついて来るのを、ヒラリと躱す。

 俺に避けられたゲッソは、顔面から地面に落ちて転がっていった。

 パルではないが、毛むくじゃらの筋肉オヤジに抱きつかれて喜ぶことはない。


「ゲッソ。土産を持ってきたぞ」

「っ!? 土産!? 見せてくれ!」

「落ちつけ、ゲッソ。またパルの威圧を受けるぞ」

「うっ」


 鋭い視線を向けるパルに、ゲッソが二歩後ずさる。


 

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