54

大陸中心部――大地の地下にある祭壇での出来事は、儀式の不手際ということでオペラ政府には報告された。


その責任は、すべてスカイパトロールのリーダーであるフロート·ガーディングが負うことになる。


フロートは大陸を危機にさらした責任を、退職、または国外追放の形で取ろうと自ら進言したが、部下たちの説得と上層部の判断によりそれは受け入れなれなかった。


代わりに、数ヵ月の減給と謹慎を言い渡される。


大陸の危機の処罰にしては、いささか軽すぎる処分であった。


だが、これもフロートがオペラに必要な人物であると同時に、上の者から下の者まですべての人間に愛されていたのもあったからだった。


結果としては、無事に大陸を浮遊させる者を魔方陣に定着させることに成功し、蔓延していた病――空疫病くうえきびょうによる被害も抑えられた。


大陸に住むすべての者は以前の生活を取り戻し、フロートが暮らす劇場街もまた、かつての活気がある光景が見られるようになる。


フロートは今自宅で人を待っていた。


だが、約束の時間になっても訪ねて来ない呼び出した人物に苛立っている。


「まだ来ないのか……。もう十分~十五分は過ぎているぞ」


ブツブツと独り言を呟きながら何度も時計を見るフロート。


それからしばらくして、ようやく呼び出した人物がやって来る。


「入るぞフロート」


「遅いぞルヴィ。まったくお前という奴は、昔から時間が守れんな。それに他人の家に入るときは、ちゃんとノックして了解を得てから入れ」


フロートが呼び出した人物はルヴィだった。


遅刻した来た彼女は特に悪びれる様子もなく、ソファーに腰掛けている彼の前に立つ。


「んな小さいこと気にするな。今さら気を遣うような仲じゃないだろ?」


「小さいといわれようが、私は気にするぞ。親しき中にも礼儀ありだ」


フロートはそういいながら立ち上がり、自分が腰掛けていたソファーに座るようにいう。


ルヴィがソファーに腰を下ろすと、彼は用意していた紅茶を出した。


テーブルの上に置かれた紅茶からは、茶葉の甘い香りが漂っている。


それから彼は、自分用に別の木のイスを持ってきて座った。


「さて、じゃあ早速私を呼び出したわけを聞かせてもらおうか」


訊ねながらルヴィは、カップを持って紅茶の香りを嗅ぐと、それに口をつけた。


彼女が飲んだのを確認したフロートも、それに続いて紅茶を飲み始める。


「白々しいな。もうわかっているんだろう? あの少女――パレット·オリンヴァイのことだ」


「ああ、やっぱりね。パレットのことだと思っていたよ」


パレットの名を聞いたルヴィは苦い顔をしていた。


フロートは、ルヴィがそういう態度を取るとわかっていたようで、気にせずに言葉を続けた。


祭壇での出来事から――。


パレットは今どうしているのか?


まだ大陸を浮かすために人柱となった少年――ロロ·プロミスティックのことを気にしているのか?


――と、フロートはルヴィに訊ねる。


「……一応いっておくけど。あの子はあんたには感謝しているんだ」


ルヴィはフロートの質問には答えずに、パレットが彼に礼をいっていたことを伝えた。


それは当然だろう。


本当ならパレットが受けるべき罰を、フロートはすべて自分の責任だと嘘の報告をしたのだ。


それはルヴィにもいえ、彼女もパレットを手伝った罪で、最低でも牢屋にぶち込まれても文句をいえないほどのことをしでかした。


現場にいたフロートの部下――スカイパトロールたちも、そのことはもちろん知っていた。


だが彼を慕う部下たちは、リーダーにも何か事情があるのだろうと、そのことを政府上層部へ告げる者はいなかった。


中にもパレットやルヴィのことを面白くないと思っている者もいただろう。


しかし、その感情以上にフロートへの忠誠心が勝り、事態はフロートへの軽い処罰のみで済んでる。


「もちろん私もだ。あんたが庇ってくれきゃ……」


「私への礼などどうでもいいのだルヴィ。早く質問に答えてくれ」


フロートに静かにいわれたルヴィは、悲しそう顔をしながら、パレットの現状について話し始めるのだった。

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