57

パレットか封筒に近づくにつれ、指輪の輝きも増していた。


それは封筒も同じだった。


互いに光を強くし合い、まるで指輪と封筒が惹かれ合っているかのようだ。


パレットは自分でもよくわからないまま、フロートからの封筒を開く。


「こ、これは……ロロの……」


そこには、以前に楽器屋で彼女がロロにプレゼントした――。


楽器を出し入れできる魔道具――パレットと同じタイプの指輪が入っていた。


パレットがその指輪を手に取ると、放たれていた光からアコーディオンが現れる。


これも指輪と一緒に彼女がロロに買ってあげたものだ。


「指輪とアコーディオン……残ったんだ……」


ポツリと呟いたパレットは、涙ぐみながらアコーディオンを抱きしめる。


パレットは押さえつけようとしていた気持ちが溢れ出ていた。


ロロがアコーディオンを弾いている姿が、瞑った両目のまぶたに現れて楽しそうに演奏している。


忘れるなんてできない。


考えないようにすることなんてできない。


パレットはそう思うと、堪えていた涙が流れてしまっていた。


そしてふと前に目をやると、そこにはロロへあげた指輪と、フロートが書いたものであろう手紙が見えた。


その手紙を何気なく手に取るとパレット。


そして、涙を拭いながらそのふみを読んだ。


――こんにちはパレット。


いや、もしかしておはようごさいますかな?


それともこんばんはかな?


きみがぼくの手紙を読んでくれている時間がいつだかはわからないけど。


これを見てくれているということは、ぼくはもうきみの前にはいないってことだよね。


「これって……もしかしてッ!?」


その手紙はフロートからではなかった。


封筒に入っていた指輪とアコーディオンの持ち主――ロロ·プロミスティックからのものだった。


それに気が付いたパレットは手紙に穴が開くかの勢いで見始める。


ここ数日間では見られなかった覇気のある姿だ。


それも当然である。


ロロがスカイパトロールに連れていかれ、彼女と別れた後に書かれた手紙なのだから。


その手紙には、パレットと出会ったときからことがしるされていた。


劇場街で彼女の路上パフォーマンスを見たこと――。


その後、ルヴィの家へ行ったこと――。


楽器屋でアコーディオンを買ってもらったこと――。


そして、一緒に旅に出て演奏したことなどが、彼らしい柔らかい文章でつづられていた。


それを読みながら――。


パレットは再び泣き始めていた。


それは彼といた短い日々は、彼女に新しい刺激と、改めて演奏家パフォーマーとしての喜びを思い出させてくるものだったからだ。


手紙の最後にはこうも書かれていた。


空疫病くうえきびょうを止めるため、この大陸オペラのために自分の身を捧げることを決めた。


だが、人柱となるのは自分で最後にしてほしい。


大陸を支える魔力が尽きるたびに誰かが犠牲になり、それで悲しみが続くなんて間違っている。


《だから、パレット……きみにお願いしたいんだ》


飛空艇で空を駆け、あれだけの魔力を楽器に込めれるパレットなら、世界中を回り、オペラを浮かす他の方法を探せるはずだ。


いつか大劇場の舞台で活躍するパレット……きみなら、きっとできる――。


《勝手をいってごめんね。でも、パレットなら不可能を可能にしてくれる……。ぼくはきみといてそう思ったんだ》


ロロの手紙はそこで終わる。


「あたし……あたしは……ッ!」


読み終えたパレットはベットから飛び出した。


そして、部屋を出て外へと走り出す。


「おいパレット!? どうした!? 何かあったのか!?」


「ごめんルヴィ! あたし、ちょっと出かけてくる!」


「えッ!? おい、お~い! 待てったら! どこへ行くかくらい言えよ!」


ルヴィに呼び止められたパレットだったが、ろくな説明もせずに大慌てで家を出て行った。

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