56

ルビィがフロートに呼び出され、家を空けていたとき――。


パレットは彼女の家で一人ベッドに入り、毛布にくるまっていた。


窓はカーテンで閉めきられていて、昼間だというのに彼女のいる部屋はまるで夜のようだ。


パレットの側にあったテーブルには、ルビィが作ったのであろうサンドイッチが置かれていた。


すでに冷たくなっているところを見ると、朝から手をつけずにあるのだろう。


パレットは、ロロが大陸の人柱となってから、ずっとこんな調子だった。


ろくに食事も取らず、服も着替えず、寝たきりの状態。


ルビィはパレットが元気になるようにいろいろと試してみたが(好きな食べ物を用意したり、劇場のチケットを取ろうといってみたり)、結局彼女がベッドから動くことはなかった。


ベッドでうずくまりながらパレットは、何も考えることができなくなっていた。


いや、正確には考えるのを止めようとしていた。


自分がした大それたこと――。


大陸を浮かすための儀式を止めようとしたこと――。


結果的にロロが望んで人柱になってしまったこと――。


彼女はそのことを考えないように、ただベッドで丸まって頭の中から消えるの待っている。


だが、そんなことで消えはしない。


今もロロの笑顔がまぶたから離れず、彼のいった言葉が脳内を駆け巡っている。


「パレット、私だ。入るぞ」


コンコンコンと扉からノックの音が鳴ると、レビィの声が聞こえた。


訊ねられたパレットだったが、何もいわずに黙ったままだ。


返事はないが入るなといわれなかったせいか、ルビィは部屋の扉を開ける。


「なんだよもう、いるなら返事くらいしろよ。それと、カーテンくらい開けな」


ルビィはまず部屋の暗さが気になり、閉じていたカーテンを開いた。


夜のように薄暗かった部屋に、暖かな陽の光が差し込む。


「今日はいい天気だぞ。あんたも外に出てみれば? 日差しと風が気持ちいいよ」


そういったルビィは窓も開けた。


彼女のいったように、閉めきっていた部屋へ午後の爽やかな風が入ってくる。


だが、そんな爽やかな風に吹かれても、今のパレットには効果はないようだ。


パレットは風が煩わしかったのか、寝ている状態で体を動かし、窓から顔を背ける。


それを見たルビィは、テーブルに置いてあるサンドイッチを手に取ると、それを頬張った。


「う~ん! 冷めてもうまい! ちょっと固いけど、さすが私が作っただけのことはある!」


ルビィは芝居がかったことをいって、サンドイッチが美味しいことをパレットに伝えようとしていた。


少しでも彼女に食欲が出るようにと。


「腹は減ってないのかパレット? 全部私が食べてしまうぞ?」


ルヴィはさらに煽るようなことをいったが、パレットは無反応のままだった。


これは今日も無理かなと思った彼女は、サンドイッチが乗ったテーブルの上にそっと封筒を置く。


「こいつはフロートからあんたにだよ」


ルヴィはそういうと部屋の扉に手をかけた。


そして、パレットに背を向けていう。


「別にあんたが頼んだわけじゃないが。私らが今自由にしてられるのはあいつのおかげなんだ。読むだけ読んでやんな」


そういい、ルヴィは部屋を後にした。


ルヴィはああいったが、今のパレットにフロートのことを気にかける余裕はない。


もちろん彼が罪を被らなければ、今頃パレットは国外追放――いや、死刑になっていたかもしれないことは、子どもの彼女にもわかっていた。


フロートに感謝はしている。


それは間違いない。


しかし、ロロを失った今のパレットに、感謝の気持ちを求めるのは無理な話だった。


パレットは部屋が明るくなったせいか、包まっていた毛布を頭まで被ろうとした。


そのとき――。


彼女の付けていた魔道具――楽器を出し入れできる指輪が輝き始めた。


パレットは何事かと思っていると――。


「手紙も……光ってる……?」


ルヴィがテーブルの上に置いたフロートからの封筒も光り出していた。


パレットは包まっていた毛布から出て、それに手を伸ばす。

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