38

パレットたちは、ルヴィがスカイパトロールを足止めしてくれているおかげで大陸の中心部――大地の地下へと走っていた。


出入り口だった大きな穴から進んでいくと、中は洞窟のような空間となっており、その土壁には火の付いた松明が飾られている。


誰かが大地を削って作ったのだろうそれは、剥き出しの土壁ではあるものの地面はしっかり舗装されている。


その廊下のような道は、のどかだった隣町で歩いた石畳をよりも歩きやすいものだった。


「この先にロロがいるんだね?」


「そうなのよ。話によれば穴の中を進んで行けば祭壇があるはずかしら」


洞窟の奥にはロロがいる――。


パレットはそう思うと内心で焦っていた。


それは彼女の肩に乗っているルルも同じだ。


もうすぐだ。


もうすぐロロに会える。


その後のことを何も考えていないパレットとルルだったが、今はとにかく彼の顔が見たくてしょうがない。


しばらく道なりに進んでいくと、天井の高い空間へと出た。


そこには大理石できた柱や厳めしい石像、さらに見たこともない装飾が施してある机などが置かれている。


「なんかいかにも生贄を捧げるって感じのところだね」


「そんなことよりもパレット! 前よ! 前なのよ!」


ルルは周囲ある大仰なものを見て、思わず怪訝な顔をするパレットへ声をかけた。


前には、天井まで届きそうな祭壇が見える。


かなり古いものなのだろう。


近づいて来ると、豪華な金や銀などの浮彫うかしぼりで飾られているが、その損傷ぐあいがわかる。


その祭壇の前で一人の少年が立っていた。


ロロだ。


パレットとルルは彼に声をかけながら祭壇へと走る。


「ロロッ! あたしたち……来ちゃったよ!」


そしてついに彼と対面。


パレットは息を切らしながら、ただ自分たちが来たことを伝えた。


すると突然――。


地面に書かれていた魔法陣から光が放たれた。


パレットとルルはその光によって弾き飛ばされたが、ロロだけはその魔法陣の中心でゆっくりと宙へと浮いていく。


「ロロ! ロロ! あたしだよ! パレットだよ!」


「……もう、遅かったのかしら……」


宙へと浮き、まるで眠ったままのように目をつぶっているロロ。


それを見てパレットが叫び、ルルはその場で立ち上がれずにいた。


魔法陣から放たれた光は次第にロロの体を包み、やがてそこから声が聞こえてくる。


《お前たちは誰だ……》


静かだがとても威圧的な女性の声。


パレットとルルは、その凄まじい低音の声によって、このまま押し潰されてしまうと感じていた。


それは魔法陣から放たれた光には、強力な魔力が込められていたからだ。


並の人間ならば、浴びるだけでその意識を失ってしまうくらいの魔力の波動である。


だが、パレットはそのぐらいでは負けまいと歯を食いしばった。


まず片膝を立て、そこから震えながらも立ち上がる。


「あたしたちはロロの友だちだよ! あなたこそ誰よ!?」


すでに意識を失いかけていたルルは、立ち上がったパレットを見た。


ヴァイオリンと弓を出す魔道具の指輪から、彼女の魔力が放たれていることに気が付く。


その魔力がパレットの全身を包み、彼女をあの凄まじい光から守っていた。


《なぜだ? なぜお前は動ける? この光を浴びていながら》


魔法陣から聞こえる声はパレットの質問を無視し、不可解そうに言葉を呟いている。


そしてさらにその魔法陣の光を強め、パレットへと浴びせた。


光を浴びせられたパレットは、怯みながらも倒れているルルを抱いて大声を返す。


「こんなものに負けてたまるか! あたしは……あたしたちはロロに会いに来たんだ!」


そう、パレットが叫んだ瞬間――。


魔法陣から人の形をした光が現れた。


その造形は、声から想像できるように女性のようで妖しい色気を放っている。


《我が……禁術を前にして立つか……》


「禁術……って。じゃあ、あなたが引き継ぎのときに唱えられるっていう……」


《そうだ。我は魔女や魔法使いを繋ぐ禁術から生まれた……魔力が形をもったものだ》


パレットは、想像を超えて現れた自我を持つ魔力の姿に、その身を震わせるしかなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る