37

突如スカイパトロールの船団の前に現れた小型飛空艇を前に――。


各飛空艇を指揮している船長たちが一斉に声をあげる。


あの小型飛空艇はルヴィ·コルダストだ。


ここからは何人たりとも通すな。


祭壇へと近づけるな。


吹き付ける嵐に負けじと咆哮している。


「私ってそんなに有名だったのかい。照れちゃうね、こりゃ」


飛空艇を見ただけで自分だと見破られたルヴィは、スカイパトロールから聞こえる声に向かってうそぶいた。


並んでいる船団がそれぞれの砲台を、彼女の乗る小型飛空艇へと向ける。


それでもさらに速度をあげるルヴィ。


いや、むしろ止めることなどできない。


それは、速度を落とした瞬間に狙い撃ちにされるからだ。


ルヴィは舵を握り、すんでのところで船団の間を抜けながら、一斉に発射される大砲の雨をかわしていく。


当たらなかった大砲の弾は、味方の飛空艇に直撃。


スカイパトロールの船団は大混乱におちいっていた。


「予想通りだね! やっぱり大型の飛空艇じゃこの船をとらえられないよ!」


「でも見てみなさい!? あいつら、小舟を出して追って来ているのよ!?」


してやったりといったパレットの傍でルルが叫び声をあげた。


スカイパトロールの船団からは、ボートサイズの飛空艇が次々と飛び出してくる。


どうやら大砲で撃ち落とすのを諦めて直接捕らえるつもりだ。


「今さら追いつけやしないよ。パレット! ルル! あんたらは穴の入り口に着いたらそこから走りな!」


スカイパトロールの船団を抜け、ついに大陸の底に空いている穴までたどり着くと、ルヴィは飛空艇を旋回。


追って来ていたスカイパトロールの船のほうへと向きを変える。


「ほら、どうした!? 早く行きなよ!」


「でも、ルヴィ……」


パレットは、ここでルヴィがスカイパトロールを食い止めるために残るのだと理解した。


だがあの数を相手に、彼女一人ではとてもじゃないが無理だと言おうとしていた。


ルヴィはそんなパレットに微笑んでみせる。


「いいから行きな! 私を誰だと思ってんだよ! あんたらがロロに会えるくらいの時間は稼いでやる!」


「ルヴィ……ありがとうッ!」


そして、戸惑っていたルルの体を鷲づかみにしたパレットは船から飛び出し、祭壇のある大陸の中心部へと駆けていった。


ルヴィはそんな彼女たちを見送ると、舵から手を離し、先ほどパレットに固定させた大砲を撃つ。


当てるつもりはないのだろう。


撃たれた弾は穴の上部に飛んでいき、崩れた大地がその衝撃で落ち始めていた。


それを見て、スカイパトロールたちが乗ったボートサイズの飛空艇が一斉に停止。


その一つから一人の男が飛び降り、ゆっくりとルヴィへと向かって行く。


ルヴィも飛空艇を降り、近づいて来た男の目の前へと立った。


「ルヴィ……なぜこんなことをする?」


「なぜだって? あんたならわかるだろう」


それはルヴィの幼なじみであり、スカイパトロールのリーダーでもあるフロート·ガーディングだった。


フロートは飛び出そうとしている部下たちを止め、その拳に自身の魔力を込めた。


彼はルヴィと一対一でやるつもりだ。


「こんなことをしても無駄だ。彼――ロロ·プロミスティックはもう覚悟を決めたのだ。今さら会いに来たところでなにも変わらん」


「それを決めるのはあんたじゃない。“あの子ら”だ、フロート?」


ルヴィがそう訊ねた瞬間――。


フロートの手から現れた鎖が彼女へと襲い掛かった。


普通の武器では止めることのできない拘束魔法で具現化された鎖だ。


「あんたは昔っから鎖が好きだよね!」


剣を抜き、その鎖を切り払うルヴィ。


彼女は魔法は使えないが、武器に魔力を込めることできる。


そのため、フロートの放つ魔法の鎖に対抗できるのだ。


「でも、その鎖が自分を縛っているって、まだわからないの!?」


「そうはいってもそれが私の仕事だ。悪いがルヴィ……ここからは手加減せんぞ」


「いつから私相手に手加減できるほど強くなったんだよフロート? 最初ッから全力で来いっての!」


そして、スカイパトロールたちが見守る中――。


ルヴィとフロートによる一騎打ちが始まった。

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