36

家を出たパレットたちは、フロートたちスカイパトロール船団の出発後に港へと来ていた。


来て早々にルヴィの持つ小型飛空艇へと乗り込むと、係船柱けいせんちゅうにロープを解き忘れていたことを思い出し、パレットが慌てて船から降りる。


そこに、ルヴィが狩りで採った肉を卸している店の男が現れた。


店主は、ロープを解こうとしているパレットを見て恐る恐る声をかけた。


こんなときに狩りへ出るつもりか?


ついさっきスカイパトロールの船団が出たばかりで、すべての船の出航は禁止にされたんだぞ、と。


訊ねられたパレットは、店主のほうを向いてニコッと笑みを浮かべる。 


皆で友だちに会いに行く。


ただそれだけのことを止められるなんておかしい。


パレットはそういいながら係船柱からロープを解き、小型飛空艇へと乗り込んだ。


店主はパレットが何を言っているのかが理解できなかった。


彼女では話にならないと思ったのだろう、すでに船に乗り込んでいるルヴィへと同じことをいった。


「私はやりたいようにやるだけさ。昔からそうだったし、当然これからもね」


何をバカなと店主は大声で叫んだ。


だが彼の声は、浮かび上がる小型飛空艇の回転翼かいてんよくの音によってかき消されてしまう。


ルヴィは舵を握り、周囲と空を見渡した。


晴天とはいえない暗い雲が大陸を覆っている。


出航の禁止以前に、あまり船出に向かない天気だ。


「こいつは嵐が来るね。しかもとんでもないやつがさ」


港から飛空艇を大陸の下へと操縦しながら、パレットとルルにいうルヴィ。


その言葉と同時にポツポツと雨が降り始め、強い風が吹き出す。


「それは好都合でしょ。スカイパトロールの船団は大型のものばかりなんだから、小回りが利くルヴィの船なら悪天候のほうが突破しやすいもん」


パレットの力強い返事を聞いたルヴィは、いつも狩りに出ると弱々しく震えていた彼女のことを思い出していた。


晴れた日もそうだったが、曇り空、雨の降るには特に怖がっていたパレットが、今はこうやって意気揚々といっている。


たくましくなったとは少し違うが、そんな変わった彼女を頼もしく感じていた。


「でも、やっぱり難しいかな……?」


「ふふふ、安心しなよ。私が必ずあんたらをロロのところまで運んでやる。オペラ最速の女と呼ばれたこのルヴィ·コルダストを舐めるなよ」


次第に強くなる雨と風の中――。


パレットたちが乗る小型飛空艇は、大陸の中心部――大地の地下へと向かっていった。


嵐が始まり、その吹き荒れる音に負けないようにパレットが叫ぶ。


「待っててねロロ! ぜぇ~たいに会いに行くんだから!」


小型飛空艇は大陸の下――剥き出しの大地を眺めながらゆっくりと降下していく。


その大地からは木の根が張り巡らされていて、よく見ると嵐に怯えた鳥たちがその身を隠していた。


パレットとルルはもちろん、飛空艇を乗って狩りをしているルヴィも初めて見る光景だ。


「パレット、風がさらに強くなってきた。大砲を船首せんしゅのほうへ固定してくれ。ルルは火薬が湿気ないように雨具をかけるんだ」


これからスカイパトロールの船団を相手に突進するため――。


ルヴィは悪天候での戦いに向けて指示を出す。


パレットは車輪の付いた砲台を押し、彼女にいわれたところへロープで固定。


ルルは積み込んだ荷物の中から雨具を出し、砲台に側に設置してある火薬を覆う。


ルヴィの小型飛空艇にはこの砲台一つしかない。


彼女の狩りは、主に白兵戦――。


剣や弓で空飛ぶ獣を狩るスタイルだからだ。


とてもじゃないが、こんな装備でスカイパトロールの船団に突っ込むなど正気の沙汰じゃない。


ロロにたどり着く前に、船団の大砲に撃ち落とされるに決まっている。


だがそれでも、彼女たちの中に怖がっている者はいなかった。


必ずロロと会うのだ。


そこで何をするかはわからないが、彼と会って話をしたいのだ。


――と、パレットはその表情を強張らせる。


「見えてきた! スカイパトロールだよ!」


パレットが叫んだ。


たどり着いた大陸の底――。


そこには大きな穴があり、その周辺にはけして誰も通さないようにと、スカイパトロールの船団が止まっている。


その整列して並んでいる様は、まるで空中要塞のようだった。


「よし、こっから速度をあげる! パレット! ルル! あんたら振り落とされないように気を付けろよ!」


パレットたちが乗る小型飛空艇は、ルヴィの叫びと共に一気に船団の中へと突進していった。

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