24

次の日――。


ロロが目を覚ますと、隣には誰も入っていない寝袋があった。


どうやらめずらしく――というか、初めてパレットが先に起きたようだ。


「あれ? もしかしてぼく、かなり寝ちゃったかな?」


ロロは寝袋から体を出し、テントの外へと出た。


そこには、すでに食事の支度を始めているパレットとルルの姿が見える。


「あッ! パレットもルルもごめんなさい! ぼく、やっぱり寝坊しちゃっただね」


慌てて彼女らの傍へと近づいたロロ。


パレットは、そんな彼へ背を向けながら声をかけてきた。


「おはようロロ。ちょっと待ってってね。もう朝ごはんできるから」


朝ごはんという言葉を聞いたロロは、狐につままれたような顔になる。


自分は寝坊したはずじゃないのかと、状況を把握できないでいると――。


「慌てなくても大丈夫なのよロロ。あなたはいつも通りの時間に起きているかしら」


その小さな体で食器を用意していたルルが、現在の時刻を教えてくれた。


だが、ロロにはわからないことがあった。


どうしてパレットがこんな早く起きているんだろう?


いつもなら必ず自分よりも長く寝ているはずなのに?


ロロはそう思いながらも、パレットの手伝いをしようと彼女の横に行くと――。


「うわぁッ! どうしたのパレット!? 目の下にクマができてるよ!?」


「うん? クマさんがどうしたの?」


パレットの顔には、どう見ても眠れなかったと思われる隈ができていた。


ロロにはそうとはわからずに、体調を崩したのだと思い、大慌てでパレットに休むようにいう。


「大丈夫だよぉ。昨日はちょっと興奮してたせいで、あまり眠れなかっただけだから」


パレットはそういいながら、不気味な笑みを浮かべていた。


どうやら昨日の演奏が楽し過ぎたため、横になってもあまり寝付けなかったようだ。


ロロはそれを喜んだが、パレットに無理はしてほしくないことを伝える。


それから無理矢理に彼女を休ませると、朝食の支度を引き継ぎ始めた。


パレットは丸太に腰掛けながら、うつらうつらと顔を前後させている。


「まったく、やれやれなのよ。ロロが起きて来る前からわたしも何度も休むようにいったのに、全然聞きやしなかったのよ」


「そうはいっても、ちゃんとルルも心配してたんだね」


「ふん。別にそんなことないのよ」


プイっと顔を背けていうルル。


ロロはそんな彼女を見ながら、素直じゃないなと微笑むのであった。


その後に、昨日の残りのチャウダーを食べてから食器を洗い、寝袋とテントを片付けて出発の準備に入る。


パレットは食事のときも半分眠りながら食べ、片付けに関しても手助けできないほど動けないでいた。


「こんなんじゃ飛空艇の操縦は任せられないわね。どうしようかしら」


「もうちょっとゆっくりしてから行こうか。パレットも少し横になれば元気になるよ、きっと」


丸太を抱きかかえるように横になっているパレット。


その姿は見る人が見たら、木に張り付いているお化けのように映るだろう。


ロロとルルは、そんな彼女の見ながら出発を後らせようとしていると――。


「いやいや、飛空艇の操縦はロロがやってくれればいいでしょ。あたしが教えるし、いい機会だから覚えてもらっちゃおう」


そこからゆっくりと体を起こしていうパレット。


彼女がおどろおどろしく顔をあげたせいか、お化けというよりはゾンビのようだとルルは思った。


そんな呆れているルルとは違い。


飛空艇の舵を握れると聞いたロロは、とても嬉しそうにしている。


早速荷物をボートサイズの飛空艇へと積み込み、発進準備。


ロロは舵を両手でがっしりと掴んで、その目を輝かせていた。


「ねえパレット。それでどうすれば飛びあがるのかな?」


パレットは、待ちきれないといった様子のロロへフラフラと操縦の手順を教え始めた。


そして、最後に自分のバックから手書きの操縦マニュアルを渡して、そのまま飛空艇の床にパタッと寝そべってしまう。


「もう限界だったんだね……。なんか悪いことしたなぁ……」


「まあ、その頑張りは認めてあげようかしら……」


言ってくれれば無理はさせなかったのにと思うロロ。


この娘は変なところで頑張り屋だと思うルル。


彼らは、気持ちよさそうに床に眠っているパレットを見て、大きくため息をつくのであった。


その後――。


ロロは申し訳ない気持ちのまま、教えてもらった手順と手書きの操縦マニュアルを照らし合わせて、見事に飛空艇を飛ばせてみせる。


「やったルル! ぼくにもできたよ!」


「さすがロロなのよ。それじゃ、今日中に次の街まで行こうかしら」

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