25

問題なくボートサイズの飛空艇を操縦するロロ。


さすが子供でも運転できる船だけあって、要領の良い彼にとっては、すでに手足のように動かすことができていた。


順調に空を進んでいくと、次第に明るかった天候が怪しくなってきたのが見える。


「なんだか雨でも降って来そうだね」


ロロが舵を握りながら心配そうにいうと、ルルは彼の肩からヒョイと下りて荷物をあさり始める。


そして、前の街で購入していたレインコートを出した。


「一応着ておこうかしら。雨が降ってからじゃ遅いと思うなのよ」


ロロはルルの言う通りレインコートを羽織り、ルルも犬猫用のものを身に付ける。


そしてルルが、まだ眠っているパレットにも、雨具を毛布のようにドサッと被せた。


パレットはそんな状態でもゴニョゴニョと何か寝言をいっている。


「ブタめ……やっつけてやるぞ……。ぜんぶ……あたしが食べてやる……」


「ずいぶんと嬉しそうだけど……前にみた夢の続きかしら……? 今度は悪夢じゃなさそうね……」


ロロは、そんなルルとパレットを見ながら微笑んでいたが、見上げると青い空はもうそこにはなかった。


雲がすぐ目の前に見えているせいか、空が暗くなっているとなんだか恐ろしい気分になってくる。


いつの間にか黒い雲へと変わっていたと思ったら、パラパラと雨が降り始めた。


最初こそ小雨だったが、それは次第に強さを増していく。


その雨の強さと呼応するかのように、ゴゴゴと唸る音まで聞こえ出してきた。


「まさかカミナリまで来るなんて、このまま飛んでいて大丈夫かな」


「う~ん、頼りの経験者は今だに夢の中でブタさんと戦っているのよね。叩き起こしてやろうかしら」


ロロは、それはかわいそうだとルルへ言い、ひとまず飛空艇の高度を下げて進むことに。


道に立っている木などに当たらないくらいまで落とし、速度もかなり抑える


さらにルルに頼んで、パレットから渡されていた手書きの操縦マニュアルから、雷の対策が書いてあるかを見てもらう。


「どうもこの飛空艇には放電装置みたいなものがあるようなのよ」


マニュアルを床に置き、ページをめくりながらルルが言葉を続ける。


飛空艇は空気と摩擦しながら飛行するため、電荷でんかが溜まりやすい。


電荷がたまると、雷が落ちやすくなるだけでなく、通信装置のノイズの原因にもなるため、電荷を船から逃がす必要がある。


そのために、多くの飛空艇には放電索ほうでんさくと呼ばれる電荷を空中へ放電する細い針のようなものが、電荷を逃がしてくれる役目をしている。


さらにその放電索は避雷針の役割もあり、直接人間に落ちることはほとんどないのだとか。


「そうか。なら安心だね」


「でも、油断はできないのよ。もし直接カミナリに打たれたら死んじゃうんだから」


嵐とまではいかないが、かなりの悪天候の中をロロたちはゆっくりと進んでいった。


そんな厳しい現状でも、パレットは気持ちよさそうに眠っている。


「ここまでくると、もう敬服しちゃうのよ。よく寝てられるわ」


「ホント頼もしいよね、パレットって」


「頼もしい? ロロ、それは図太いの間違いなのよ」


ロロは、そうかもしれないと返事をするとつい笑ってしまっていた。


強い雨が降って雷もなり始めた過酷なときだったが、彼はそんな状況も楽しんでいた。


そんな調子でゆっくりと進んでいくと、ようやく次の街が見えてくる。


ロロたちは、今回は街の側に飛空艇を置いていくことにした。


何故ならばそれは、前の街で飛空艇を宿屋の前に停めたときに、住民たちから注意を受けたからだった。


幸い飛空艇のサイズが小舟ほどだったことと、ロロたちがまだ子どもだったこともあり、注意だけで済んだが。


ロロは知らなかったとはいえ、自分に配慮がなかったことを気にしていたのだ。


「ほら、着いたのよ。早く起きなさい」


「うぅ……ゴハンできたの?」


着陸してからパレットを起こし、一応飛空艇は葉っぱや木々で覆って隠すことにした。


雨の中での作業は大変だったが、船が盗まれることを考えれば苦にもならない。


「いや~それにしてもスゴイ雨だねぇ。そのうちオペラまで飲み込んじゃいそう」


「その大陸を飲み込みそうなほどの雨の中で、とても気持ちよさそうに眠れるあなたは何者かしら……」


空にいたときよりもさらに強くなっていた雨。


パレットたちは、そんな激しくなった雨に打たれながら街へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る