26
街に入ったパレットたちは、ひとまず今夜寝泊まりできる宿を探すことにする。
雨の中を周りを見ながら歩いていく。
この街はパレットたちが住んでいる劇場街ほどではないが、前にいた隣町よりは建物も多く、飲食店などの店も看板がたくさんあった。
だが、街を出歩いている人のほとんどが俯きながら歩き、咳き込んだりして憂鬱そうだ。
そして、皆顔を布で覆い隠しており、その様子はこの街では
雨が降り、空が暗いのもあったが、まだ夜でもないのに街中が眠りについているようだ。
「不謹慎だけど、この街ならなにか聞けそうだね。あたしたちも気を付けないとだけど」
「う、うん……」
心なしか。
ロロも元気がないように見える。
すでに雨のため湿ってしまっていたが、パレットたちも街の人たちのように布で顔を覆うことにした。
それからいくつかの宿屋を訪ねたが、閉まっているところばかり。
ようやく開いている宿を見つけ、早速泊まれるかを訊くために中へと入る。
「すみません~。ここって今空いている部屋ありますか?」
レインコートのフードを取って訊ねたパレットに、宿屋の主人である中年の男がその顔を強張らせていた。
宿屋の主人はイスから立ち上がると、パレットたちのことをジロジロと見てくる。
お前さんたちは旅の人か? と逆に訊いてくると、次に疫病にかかってはいないかと言葉を続けた。
なんでもこの街には空疫病の感染者が多く、最近になって病人の隔離が行われているようだ。
だから悪いことはいわないから、早々に街を出るようにと宿屋の主人はいう。
「その……空疫病で隔離されている人たちはどこにいるんですか?」
ロロが言いづらそうに訊ねた。
パレットはまず泊まるところを確保してから調べるべきだと思ったが、彼のその真剣な表情を見るとその考えを引っ込める。
宿屋の主人はゴホゴホと咳き込むと、乱暴なもの言いながら、その隔離されている病人たちの場所を教えてくれた。
どうやら街の出入り口近くにある大きな仮設テントで、今も多くの人たちが治療を受けているらしい。
「そんなところでちゃんとした治療を受けれるの? なんかもっと悪くなっちゃいそうだけど……」
宿屋の主人はパレットがそう訊かれると、そうでもしないと街の人間すべてに空疫病が蔓延してしまうため、仕方のないことだと返事をした。
そして、わかったらさっさと街を出るようにと言葉を続けた。
それを聞いたパレットがロロのほうを見ると――。
彼は突然宿屋から出て行ってしまった。
「あッロロッ!? ちょっと! 早く彼を追いかけるのよ!」
ルルは宿屋にあったテーブルからパレットの肩へと飛び乗って大声で喚いた。
彼女と同じ気持ちだったパレットは、すぐに出て行ったロロの後を追う。
外へ出ると雨はさらに酷くなっていた。
吹く風も強く、ときおり空もピカッと光り、まるで飢えた獣の遠吠えのような音が鳴っている。
「ロロッ! 待って! 待ってよッ!」
その中で、走り出したロロの背中を見つけて駆けながら声をかけるパレット。
だが、激しい雷雨のせいで耳に届いていないのか、ロロは立ち止まってくれず、物凄い速さでいってしまう。
来た道を戻り、街の出入り口付近まで来ると、大きな仮設テントが見えてきた。
「あれがいっていたテントだよね? 全然気が付かなかったな」
「それよりも今はロロなのよ」
パレットたちが街に入るときに気が付かなかったのは、辺りが暗く、そのテントの色が木々に溶け込んでいたからだ。
ルルはすぐにそう思ったが、それよりも今はロロのことしか頭になかった。
追いかけていたロロが仮設テントへと入って行く。
パレットとルルも、そんな彼に続いてテントへと踏み込んだ。
そして、パレットたちがそのテントの中で最初に目に入った光景は――。
「な、なにこれ……?」
並べられたベットの上で、苦しそうに呻いている病人たちの姿だった。
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