23

パレットたちは食べ終わると食器を片付けると、皆で夜空を眺めていた。


いつも見ている星空。


だが、街にいるときとは違って見える夜空だった。


「きれいだなぁ。なんだかよく知っているはずなのに初めて見た気がするよ」


「ホントだよね。そういえば空飛ぶ獣が多いって聞いてたけど、獣たちも夜空を眺めているから出てこないのかなぁ」


パレットたちは、まだ眠るには早いからと、食後に果物をかじりながら静かに会話を楽しんでいた。


しばらくして、ロロがおもむろに丸太から立ち上がる。


そして、プレイと呪文を唱えると、彼の手にはパレットが買ってくれたアコーディオンが現れた。


パレットはロロが何をするか見ていると――。


「今……曲が降りてきたよ。ちょっと弾いてみていいかな?」


パレットとルルがコクッと頷くと、ロロは笑みを浮かべて演奏を始める。


右手で鍵盤を操りながら主旋律を奏て、左手でボタンを押して伴奏をする。


蛇腹じゃばらを動かして空気を送り込み、両方の音を鳴らしていく。


さらに魔力の込められたアコーディオンのレトロな響きは、パレットたちの周辺へと小さな光を飛ばしていく。


その光景は、人懐っこいメロディーとそれを優しく支える和音コードが、星空の下で手を取りあっているかのようだった。


単調ながらその穏やかで、そして少し切ない響きは、まるでロロの自身のことを表現しているようだ。


「ロロ……。すごい……すごいよ……」


パレットは月の光に照らされたロロの姿に見惚れていた。


それがなんだか悔しくて嬉しくて――。


彼女も呪文を唱えてヴァイオリンと弓を出す。


「メロディーは覚えたよ。ねえ、あたしも入っていいかな?」


「どうぞ! ぜひ入ってきて!」


それからパレットは、ロロの奏でたメロディーをヴァイオリンと弓を使って鳴らしていく。


二人は同じ主旋律を弾いているというのに、ロロの作った曲がその姿を変え始めた。


穏やかで切ないのは変わらないのだが、そこへ小さくはしゃぐリズムが加わったように聴こえ出したのだ。


ルルは、笑顔で向かい合いながら演奏を続けるパレットとロロを見て、ただ微笑んでいた。


そして、けして認めたくはないが、パレットとロロの相性が良いことを再認識している。


「ねえルル、踊ってよ! 昔みたいにぼくの曲で踊ってみせて!」


ロロはそんなルルへ突然声をかけた。


アコーディオンを弾きながら、自分たちの音に合わせて踊ってほしいと笑いかける。


「は、恥ずかしいのよ。こんな外で……」


「いいからみせてよ。ルルが踊ってくれたらこの曲はもっとよくなるんだ」


「あたしも見たい! ねえルル、踊って!」


モジモジしていたルルだったが、二人にせがまれてしょうがなそうに丸太から立ち上がった。


そして自身の飛膜ひまくを広げ、か弱く吹く風に乗って飛び、踊り始めた。


パレットとロロはそんな彼女の姿を見てから、互いに顔を合わして微笑み合う。


「よしパレット。ちょっとスピードをあげるよ」


「オッケーだよロロ!」


そこからロロの弾く伴奏がテンポをあげていく。


今まで主旋律を支えるようだった和音コードが、急にグイグイと引っ張っていくようだ。


メロディーはそのままなのに、まるで別の曲のように変化したみたいで、パレットはその演奏に参加しているというのに驚きを隠せないでいた。


それに合わせてルルの踊りも、より軽やかなものへと変わっていく。


「スゴイよロロ! 曲もルルの踊りも! 同じことやっているのにまるっきり別の曲になっちゃってる!」


堪らずに叫ぶパレット。


彼女は演奏を始め出してから今――。


あのときの感じ――。


飛空艇で空を飛んでいるときの光景が見えてくるみたいな。


そんな自由を味わっていた。


パレットは劇場のオーディションを受けるときも、一人で練習していたときも、いつも有名な曲の楽譜を読んで演奏していた。


もちろん彼女はそれらの演奏も大好きだ。


だが、こないだ楽器屋でロロと音を合わせたときもそうだった――。


パレットは今、彼の作った曲を弾くことで別の楽しさを音楽から再発見していた。


「こういう楽しさもあるんだね! よ~し! あたしも踊っちゃうよ!」


そして、パレットはヴァイオリンを弾きながら、ルルの踊りに合わせて体を動かすのであった。

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