22

それから飛空艇を飛ばしたが、陽が暮れても次の街にはたどり着かず、一度地上に降りて朝に出発することにした。


元々次の街まではかなり距離があると聞いたので、購入していた野宿するためのものをバックから取り出す。


数日分の食料や火を起こすための道具、それからテントと寝袋だ。


それらを手ごろな平地に準備していると、パレットが何やら不服そうな顔をしていた。


近くの森から集めた木の枝をまとめて火を付けながら、一人ブツブツと何かいっている。


「ルルったら、こんなにお金持っているなら楽器屋でピアノを買えたんじゃないの」


ルルがロロから預かっている財布には、子どもが持ち歩くには多すぎる大金が入っており、パレットはそれが気に喰わなかったようだ。


無理もない。


彼女はロロがお金を持っていないと聞いて、なけなしの全財産から彼にアコーディオンを買ったのだから。


「いつまでも文句いっているのよ。さっさとしないと夕食を食べるのが遅くなるのよ」


「は~い、わかりましたよ~。……こうなったらぜぇ~たいにロロとコンビを組んで、ステイション·トゥ·ステイションの舞台にあがってやるんだから」


「なにかいったかしら?」


「べ、別に! なんでもないよ~」


ルルは予想していた通りの反応をみせるパレットを見て、クスクスと笑っている。


前は元気がなく気になっていなかったことが、今は気が付いている。


それは、彼女がもうロロに対して妙な疑念を持っていないことを意味していたからだ。


(しかまぁ、あの娘、どうもこうわかりやすいのかしら)


ルルはそう思いながら、買ってきていて食材を並べていた。


その小さな体では少々重たそうだが、苦も無く嬉しそうだ。


パレットが火を起こし、ルルが食材を並べている間――。


ロロは一人テントを組み上げていた。


木や金属、布地を使って今日の寝床が完成間近だ。


「よし、うまくできたぞ。店のお姉さんが説明書を付けてくれて助かった」


「ロロ、一人で大丈夫? あたしも手伝おうか?」


「うん、大丈夫。こっちはもうほぼ完成したよ。パレットは火を早く起こして」


パレットに返事をしたロロは、出来上がったテントを眺めながら何やら誇らしそうにしていた。


彼は生まれて初めてテントを組み上げたのだ。


しかも誰の手も借りずに自力で。


普段はそんなところを見せるロロではないが、無事に完成させることができたのがとても嬉しかったのだろう。


幼い彼の顔が、一仕事終えた男のようになっていた。


その後、火を確保したことで、パレット、ロロ、ルル全員で野菜や肉を切る。


「ちょっとあなた!? それじゃ具が大き過ぎちゃうでしょ!」


「えッ? こんなもんじゃない?」


「あなたが良くてもわたしには大きく過ぎるのよ!」


「そんなこといったって、ルルのサイズに合わせたら食べごたえがなくなっちゃうよ!」


切り分ける食材の大きさで揉め始めるパレットとルル。


ロロはそんな彼女らを見て、乾いた笑みを浮かべているしかなかった。


だがもう、パレットとルルが言い合うのは見慣れた光景。


もう以前ほど慌てていない彼の姿が、それを感じさせる。


それから森にあった川から組んできた水を鍋に入れて沸騰。


切った野菜や肉を鍋へと入れ、そこへ牛乳や粉々になったチーズとバター、さらに塩コショウとコンソメなどの調味料を加え、じっくりと煮込む。


「よ~し! これでパレット·アンド·ロロルル·チャウダーの出来上がりだよ!」


「そのネーミングセンス……。どうにかならないかしら……」


パレットが完成したクリームチャウダーに名前を付けると、ロロは笑い、ルルは辟易していた。


そして、それぞれのカップにチャウダーを入れ、買ってきたパンと共にいただく。


「うまい~! やっぱ 外で食べるとさらに美味しく感じるね」


「うん。それにみんなで作った食事って、なんだか特別な感じがするよ」


丸太に腰掛けて、火を囲うように座るパレットたちは、生まれて初めての野営に心を躍らすのであった。

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