21
食事の後、部屋に案内されて風呂に入ったパレットたちは、よほど疲れていたのだろう。
湯から出るとそのまま眠ってしまった。
そして次の日――。
昨夜お腹いっぱい食べたパレットは、まだベッドで横になっていた。
彼女は、何故か苦しそうに呻き声をあげては、手足を動かしている。
「ああ~ブタが~。ブタが襲ってくる~」
子豚の丸焼きを食べ過ぎたせいだろうか。
その寝言から想像のできる悪夢をみているようだった。
「う~ん、これが天罰ってやつなのかしら? それとも呪い?」
ルルはパレットの隣にあるベッドから、苦しそうにしている彼女を眺めていた。
そこへ扉が開き、ロロが入ってくる。
どうやら目を覚ましてから、宿にある水汲み場で顔を洗っていたようだ。
「あれ? パレットはまだ寝てるんだ。じゃあ、寝かせておいてあげよう」
「いや、起こしてあげたほうがいいんじゃないかしら……」
苦しそう呻いているパレットの寝姿を見て、まだ起こさないであげようと言ったロロ。
ルルは、それが彼なりの優しさだということは理解していた。
だが、そんな悪気のないロロを見た彼女は、彼の将来に一抹の不安の覚えるのだった。
結局ルルの助言でうなされているパレットを起こし、宿を後にする。
乗ってきたボートサイズの飛空艇は、出発するまで宿の馬小屋に置かせてもらえることになり、パレットたちは街へ出て
「なんだろう……? 昨日はスゴく怖い夢をみていたんだけど、思い出せないな」
「わたしからの忠告は、もう食べ過ぎに注意しろとしかいえないのよ」
「うん? なんで食べ過ぎに気を付けなきゃいけないの?」
「この娘は……。まったくやれやれなのよ」
パレットは街を歩きながら、昨夜にみた悪夢を思い出そうと、その身を震わせている。
その悪夢の見当がついていたルルは、それとなく遠回しにその夢の内容を伝えたが、彼女にはわからないままだった。
街には、昨日着いたときと同じように、特に問題もなく人が歩いていた。
パレットたちが住んでいる劇場街とは違い、誰も布で顔を覆ってもいない。
当然空疫病の影響で出された自粛勧告は政府から出ているはずなのだが、きっと感染した者が誰もいないのだろう。
この隣町は皆のどかに過ごしていそうだった。
「パレット、ルル。見てみて。ほら牛がいるよ」
ロロは人に引かれて歩く家畜を初めて見たのか、なんだか嬉しそうに声を出していた。
他にも街にあった鶏小屋や豚小屋を見ては近寄って行き、その動物たちの頭を撫でている。
「おかしいな? なんか豚を見たら寒気がしてきたんだけど……。昨日はおいしくいただいたのに……」
「きっと呪い、呪いなのよ。あなたの召し上がり方が豚たちの恨みを買ったんじゃないかしら」
そんな感じで街を回っていたパレットたちだったが、結局誰も空疫病について知っていることはなく、この街から出て次の街へ行くことに決める。
ここからは道がわからない彼女たちは、旅に必要なものを購入するついでに、店にいた女性へ次の街へどうやって行けばいいかを訊ねた。
親切な女性は手書きで簡単な地図を書いてくれて、これがあれば安心して出発できそうだ。
「お姉さん、わざわざありがとうね」
「ありがとうございます。これで道に迷わなくてすみますよ」
お礼をいったパレットとロロを見たその女性は、気にしなくていいと返事をすると、彼女たちに質問をしてきた。
どうしてあなたたちのような子どもだけで旅をしているんだ?
ここら辺はまだ空飛ぶ獣が少なく大人しいが、次の街まではかなり距離があって狂暴な獣も増えてくる。
冒険もいいが、あまり無理せずに誰か大人を連れていったほうがいいんじゃないか?
――と、心配そうな顔をしていた。
店の女性の言葉を聞いたパレットは、ドンッとまだ膨らみかけの胸を叩いた。
それを見たルルは、彼女が何をいうのかわかったのだろう、呆れてため息をついている。
「大丈夫だよお姉さん! あたしはこう見えても将来はこの大陸オペラで最高の
やはりとげんなりしたルルの横では、ロロが口角を上げて嬉しそうにしている。
「やっぱりパレットは頼りになるよね」
「そうかしら……? わたしは最初から今でも不安だらけなのよ……」
意気揚々と店を出たパレットに続き、ロロもルルも宿の馬小屋へと向かう。
馬小屋に到着したパレットたちは、早速買い込んだ旅に必要なものを飛空艇へと積み込み、船を動かして出発することに。
「よ~し! じゃあロロ、ルル。 出発するよ!」
「おー!」
「はいはい、いちいち声を張らなくても聞こえているのよ」
舵を握ったパレットが大声を出すと、ロロも負けじと声を返し、ルルはやる気なく答えた。
そして、浮かび上がっていくボートサイズの飛空艇は、そのまま次の街へと向かうのであった。
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