20
すっかり日が暮れ、ボートサイズの飛空挺で隣街までやって来たパレットたち。
幸か不幸か、この街では
人通りもあり、お店なども通常時と変わらなく営業していた。
それは、劇場街に比べると人口が少なく、こじんまりとしていてのどかだったためだと思われる。
「久しぶりに飛んだものだからお腹が減ったのよ。ちょっと早いけど、夕食にしましょうかしら」
それからルルがパレットとロロに提案し、どこかの店で食事を取ることにする。
当然すでにお金ないパレットに代わりに(ロロにアコーディオンを買ってあげたため)、ルルがロロから預かっている財布からである。
そのときにルルは、お金を持っていたのにアコーディオンを買わせたのか!? と、パレットから言われると思っていた。
だが、パレットは特に気にしていない。
というよりも、なんだか元気がなさそうだった。
「ちょっとあなた、どうかしたのかしら?」
気になったルルが声をかけたが、パレットは笑みをみせながらなんでもないと返すだけだった。
その態度を見てルルは考える。
パレットが元気を無くしたのは、ルビィから連絡が来た後だ。
きっと追いかけてきていた男たちが、オペラの警察――スカイパトロールであったことを聞いたのだろう。
そのため、ロロのことを犯罪者なのかもしれないと考え、その疑念のせいでいつものように振る舞えないでいるのだ。
ルルはそう予想を立てると、シュンと俯く。
(まあ、しょうがないのよ……。誰だってそうなるものなのよ……)
元気のない二人を見たロロは、ルルがそんなことを考えているとは知らずに心配そうに訊く。
「パレットもルルもどうしたの? さっきまではあんなに元気だったのに」
訊ねられたパレットとルルはなんでもないと笑ったが、どこか無理矢理に表情を動かしているように見えた。
そんな彼女たちを見たロロは、何かに気がついたようでポンッと手を打ち鳴らす。
「わかった! 早く夕食にしよう! お腹が減ったら元気もなくなるよね」
そして、ルルを自分の肩に乗せ、パレットの手を引いて食事ができるところへと走り出したのだった。
ロロに手を引かれながらパレットは思う。
こんな無邪気な男の子が犯罪者のはずがない。
きっと何かの誤解でスカイパトロールに追われているんだ。
一体自分は何を気にしていたんだろう。
ロロはロロだ。
いくら警察に追われていても、悪い人間のはずないじゃないか。
――と、考えを改め、再び元の笑顔を取り戻すのだった。
「ちょっとロロ。そんなに強く引っ張ったらイタイよ」
「ゴメンパレット。だけどお腹が減ってるんでしょ? なら急がなきゃ」
パレットの表情が戻ったことに気が付いたルルは、内心でホッとしていた。
変な疑いや警戒はなくなってよかった。
これでロロとまた仲良くしてくれるだろうと。
ルルは、口ではまだパレットのことを悪く言っていたが、もうすでに彼女のことを信頼していたのだ。
「よ~し! 肉だ! 今夜は肉を食べよう!」
「なにをいっているのよ! ちゃんと野菜も食べなきゃ大きくなれないのよ! まったく、あなたのせいでロロまで栄養が偏ったらどうしてくれるのかしら」
「野菜だってちゃんと食べるよ! それと、なんでロロのこともあたしのせいにするんだ!」
そして、普段の言い合いが始まった。
ロロはやれやれと思いながらも、そんな二人を見て微笑んでいる。
元気がなかったのは自分の勘違いだったのだと、安心していたのだ。
その後――。
歩いているうちに見つけた宿屋へと入り、そこで食事と今夜眠る場所を確保。
ボートサイズの飛空艇は、宿の馬小屋に置かせてもらうことになった。
夕食は宿の出してくれた野菜たっぷりのスープとパン。
そして、パレットが食べ応えのある肉を頼んだのもあって、子豚の丸焼きが出てきた。
子豚とはいえ、ドサッとテーブルに置かれたときの迫力は凄まじく、パレットもロロも唖然としてしまっている。
「とてもおいしそうだけど……。こ、これ……全部食べられるかな……?」
「せっかく宿の人があなたの頼みを聞いて作ったんだから、残すのはぜぇ~たいに許さないのよ」
子豚の丸焼きに迫力負けしてしまっていたパレットがポツリと呟くと、ルルがすかさず釘を刺す。
パレットはうぐぐと呻きながらも、フォークとナイフを握って子豚の丸焼きに手を付け始めた。
「あたしが食べものを残す? そんなことあるはずないじゃないの。見てなさいルル。それを今夜に証明してあげるわ」
そして、パレットはもの凄い勢いで食べ出した。
そのあまりの勢いに驚いていたロロだったが、パレットに負けじとスープを豪快に飲み始める。
「あッ!? ロロまでやらなくていいのよ!」
ルルがそんな下品な食べ方を止めたが、ロロは食べ続けた。
パレットに負けないくらいに下品にパンをくわえたまま、子豚の丸焼きをナイフで突き刺している。
ルルは、そんな食べ方をするロロがとても楽しそうだったので、今夜だけはいいかと思い、それ以上は何も言わないでおいた。
「美味しいねパレット!」
「でしょでしょ! やっぱ肉は最高だよ!」
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