19
それからルルが飛空挺へと戻ると、パレットはさらに高度を上げて雲の中を突っ切っていく。
空中大陸オペラの地面が見えなくなるまでさらに飛んでいく。
「見てよあれ! お日様があんなに近くに!」
雲を突き抜けるとロロが歓喜の声をあげた。
気がつけば太陽がもう手に掴めそうだと、手を伸ばして遊んでいる。
ルルははしゃぐ彼の姿を見ながら嬉しそうにしていた。
そして、久しぶりに飛んだせいなのか、グッタリと飛空挺の船体に寄りかかっている。
「自由だ! ぼくは今自由なんだ!」
港でもそうだったが、ロロはそのとき以上に興奮しているようで、太陽向かって一人叫んでいた。
パレットはそんな彼を見て、ずっと部屋に閉じ込められていたのかなと、改めて思っていた。
何故ならばそのときのロロは、常識では考えられないくらい喜んでいたからだ。
思えば大劇場の前――。
ルビィの家――。
楽器屋――。
港、そして飛空挺で上がった空――。
それらで見たロロの姿は、彼がこれまで不遇な境遇だったのではないかと、パレットに思わせるのには充分だった。
「そうだね。あたしたちは自由だ!」
そんなロロに続いて叫ぶパレット。
彼女は舵から両手を放して、思いっきり高く上げて広げる。
それを見たロロは微笑みながらまた叫ぶ。
「自由だ!」
「そうだよ! 自由だよ!」
パレットとロロは同じことを叫び合いながら陽の光を感じていた。
また風も、そんな二人を祝福するかのように穏やかに吹いている。
「まったく、そんなに何度も叫ばなくてもいいじゃないのよ」
グッタリと寄りかかっていたルルは、そんな二人を見て憎まれ口を叩いていた。
だが、その表情は言葉とは裏腹にとても嬉しそうだ。
それからパレットたちは、大空から見える光景を堪能すると、劇場街がとは違う別の街へ行ってみることに。
「今さらだけど、ルビィは大丈夫かな?」
心配そうにいうロロ。
パレットはそんな彼を元気づけようと、声を弾ませるようにして励ます。
「大丈夫大丈夫、心配いらないって。ルビィはあたしが知る限りこの大陸オペラ最強の人だよ。ちょっとやそっとのことでやられたりしないよ」
ロロのためにこうは言っているが。
パレットも実はルビィのことを心配していた。
ただでさえ居候させてもらって迷惑をかけているのだ。
そのうえよくわからない厄介ごとに巻き込んでしまい、本当に無事だろうか。
――と、ルビィに対して申し訳なさと共に、彼女の安否を気にしているのだった。
そのとき、パレットたちが今乗っているボートサイズの飛空挺に付いていた通信機がけたたましく鳴った。
パレットとロロ、そしてルル全員かビクッとなり、互いに顔を見合わせる。
そして、パレットが恐る恐る通信機のパイプ――受話器を手に取った。
「こ、こちらパレット。ど、どこのどちら様でしょうか?」
《こちらルビィ、って、なんであんたそんなに怖がってるんだよ?》
「ルビィ!? ルビィなの!?」
連絡をしてきたのはルビィだった。
その事を知ったロロとルルも、パレットと同じように喜んでいる。
それからルビィは、パレットたちに何か問題はないかと訊ねた。
どうやらパレットたちが今乗っているボートサイズの飛空挺は、しばらく動かしてなかったらしく、そのことを心配しているようだ。
パレットはこちらは問題ないと返事をすると、ルビィのほうは大丈夫なのかを訊き返す。
《こっちは大丈夫。まあフロート奴がうるさいけど。あいつはいつもあんな感じだからね》
ルビィは簡単にフロートとの関係性や、家に来たオペラの警察――スカイパトロールのことを話した。
パレットは追いかけてきていた黒装束の男たちがスカイパトロールだと知り、驚きを隠せないでいた。
ルビィは言葉を失っている彼女へ優しく声をかける。
《かなりショックを受けているみたいだけどさ。あの子が悪いやつじゃないのはわかるだろ?》
「う、うん……そうだね……」
《よし、それがわかっているならいいや。じゃあ
ルビィはそういうと通信を切ってしまった。
パレットはぼうっとしたままパイプを戻すと――。
「ルビィは元気なの? 酷いこととかされてない?」
ロロが心配そうに声をかけてくるのだった。
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