18

階段からドスドスと力強い踏み込みが聞こえてくる。


フロートが大急ぎで上がって来ているのだ。


そのとき、パレットたちは窓から外に出ていた。


屋根の上に乗り、吊るされているボートサイズの飛空艇を慌てて動かそうとしている。


「布が被されていてなんだろうとは思っていたけど。まさか屋根に括りつけているなんてね」


「ロロはそっちのロープを切って。あたしはこっちを切るから」


ロロは渡されていたナイフで飛空艇を吊っているロープを切ると、パレットも同じように切った。


飛空艇は屋根のレンガの上に落ち、パレットたちは駆け足で乗り込む。


「乗れたのはいいけど、このままじゃ地面に真っ逆さまじゃないのよ!」


ルルが大声で叫んだ。


それは、彼女たちが乗り込んだボートサイズの飛空艇が、今まさに屋根の上を滑り落ちているからだった。


パレットは舵を握り、必死に船体を浮上させようとする。


「パレットッ! ぼくになにかできることはない!?」


「大丈夫! ロロはルルと一緒に振り落とされないようにしっかりと捕まっていて!」


ロロはパレットにいわれた通りに、狭い船内で掴まれるところを探し、思いっきり握りしめた。


そして、もう片方の手でルルを抱きしめる。


だが、なかなか浮上しない飛空艇はまだ滑り落ち続けていた。


屋根の下では、フロートの部下――黒装束を着たスカイパトロールたちが早く落ちて来いと言わんばかりに待ち受けていた。


「パレットッ! このままじゃ落ちちゃうよ!?」


「なんとかしなさいなのよ!」


もう屋根の終わりも見えていた。


ロロとルルがそれを見て、悲鳴のような大声をあげたが――。


「なんとかするよぉぉぉッ!」


パレットの叫び声と共に彼女たちを乗せた飛空艇が、屋根を滑走路のように見立てて空へと飛んで行った。


下にいた黒装束のスカイパトロールたちは、ただそれをポカンと眺めている。


「ほらみなさい! あたしに任せておけば大丈夫!」


「スゴイやパレット! ホントに空を飛んでるよ!」


「よし、このまま逃げるよ、ロロ! ルル!」


ボートサイズの飛空艇はそこからさらに上昇。


あっという間にルヴィの家から離れていった。


その様子を、窓から見ていたフロートが顔をしかめて地団駄を踏んでいる。


そんな彼を見たルヴィは、その横でクスクスと笑っていた。


「なにがおかしい!?」


「だってさ。今どき悔しくて地面を踏むなんてあんたくらいなんだもん。それがおかしくて。フフ……フッハハハ」


「うるさいぞルヴィ! お前には彼らの逃亡幇助ほうじょの疑いがある。あとで署まで来い!」


「はいはい。行けばいいんでしょ。でも~その前にさ。部屋の片づけを手伝ってくんない?」


「ぐおぉぉぉ!」


ルヴィの言葉を聞いたフロートは、その場でさらに怒り狂った。


だが、何を壊すでもなくただ空気を相手に暴れている。


ルヴィはそんな彼の姿を見て、愛おしそうに笑うのだった。


その頃――。


ボートサイズの飛空艇で飛び出したパレットたちは、高度を落として街の外まで出ていた。


広がる青空と流れる白い雲。


そして照りつける日差しが、まるで彼女たちのことを歓迎しているようだった。


「わぁ、スゴイや! 飛空艇に乗せてくれるっていっていたけど。もう乗れちゃったね!」


ロロは生まれて初めて見るその光景に、ただ目を輝かせていた。


速度を落として浴びる風は、飛空艇に乗らないと味わえないなんともいえぬ心地よさがある。


ルルもよほど風が気持ちいいのか。


自身の飛膜ひまくを開いて、飛空艇から飛び出した。


「良い風だわ! 今日ほど空を飛んで気分の良い日はないのよ!」


ルルは下から巻き上げてくる風に乗って、縦横無尽に青空を駆け巡っていた。


ロロはめずらしく羽目を外しているルルを見て、羨ましいと思いながら微笑んでいる。


「どうロロ? 空ってステキでしょ?」


「うん! もっと、もっともっと飛んでいたいよ!」


「よ~し! じゃあルルが戻ったらもっと高度をあげようか!」

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