05

パレットが企んでいたこと、それは――。


ロロに恩を売ることだった。


彼は楽器を出すことのできる魔法は知らなかったものの、パレットの演奏の感想を聞くに、かなり音楽に詳しいと思われる。


それに、何よりも身なりが良く上品だ。


パレットは、このムササビを連れたお金持ちであろうお坊ちゃんと、繋がっておいて損はないと判断したのだった。


(顔はちょっと子どもっぽいけど、美男だし)


さらに妄想を膨らませていくパレット。


彼女の中では、もしかしたらロロは大劇場ステイション·トゥ·ステイションの支配人の一人息子で、うまいこと彼を使えば夢の舞台に出られるとも考え始めていた。


そして玉の輿に乗り、夢とともに大金持ちにまでなれると、悪い顔をしながらその肩を揺らしている。


(ムフフ。あたしにもようやく運が回ってきたみたいね。これで貧乏生活とはオサラバよ)


パレットがそう内心で思っていると、ムササビのルルが大声をあげる。


「ダメなのよロロ! 知らない女について行っちゃッ!」


それからルルは、捲し立てるように話し始めた。


ついさっき会ったばかりの人間の家に泊まるなんて危険すぎる。


もっと他人を警戒するようしないと駄目じゃないかと、ロロの肩から彼の耳元に向かって喚いていた。


「それに見なさい、この女の顔を。なんて下品なのかしら。きっとロロを部屋に連れ込んでイヤらしいことをするつもり満々なのよ」


「このムササビ……言わせておけばッ!」


そこからパレットとルルの言い争いが開始。


ロロは、ただ困った顔をして見ることしかできないでいた。


「ちょっとあなた、ルルとか言ったわね!? あたしのどこが下品な顔なのよ! こう見えても性格が良ければガールフレンドにしたいって、孤児院の男連中から言われてたんだから!」


「ププ~なにそれ? それってあたしは顔は良いって言いたいの? 残念ながら本当の美しさっていうのは内面から出るものなのよ。その点、あなたはもう終わっているのよ」


「このッ! ムササビのくせに美しさのなにがわかるのよッ!」


「あなたこそ下品顔のくせにロロを誘惑しないでちょうだいなのよッ!」


「そんなこというなら、ぜぇ~たいに泊めてなんてあげないんだから!」


「ふん。イヤらしい女の家にロロを泊まらすくらいなら、そこら辺で野宿したほうが安全なのよ」


このままではさすがにまずい。


そう思ったロロは、まずルルを説得することにした。


「まあまあパレットもルルもケンカはやめようよ。それとルル。ちょっといい?」


ロロはルルを説得する材料として、パレットのヴァイオリンの音色ねいろのことを話した。


彼は大劇場ステイション·トゥ·ステイションで、何度も演奏者パフォーマーの演劇や演奏を観ていたのでわかっていた。


魔力を込めた演劇や演奏は、その者の持つ心が表現されるのだと。


だから、あれほどの優しいヴァイオリンの音を出せるこの少女が悪い人間のはずがない。


拙い演奏ではあったが、パレットの奏でた音を聴いたからこそ信用できると思ったのだと――。


ロロはルルへそう説明したのだった。


「それにルルだって、彼女の演奏を「けっこうよかった」って言っていたじゃないか」


「う~ん、たしかにそれはその通りなのだけど……」


ロロの説得に結局は折れたルルは、気を取り直してパレットに頭を下げる。


「わたしが悪かったのよ。お願いだからあなたの家に泊めてもらえると助かるのだけど……」


ロロの肩の上から縮こまって言うルル。


そんなムササビの姿を見たパレットはニヤリと勝ち誇る。


その表情は、まさに鬼の首を取ったよう顔をしていた。


「ま、あたしも鬼じゃないし。そこまで言うのなら泊めてあげてもいいよ。どうせ泊めてあげるつもりだったしね」


その悦に入ったパレットの態度に、ルルはうぐぐと呻くしかなかった。


苛立つが、他の宿は疫病の影響でどこも休みのようだ。


ここは我慢するしかないと、ルルは身を震わせて耐えることにした。


一方ロロのほうは、ホッと安堵の表情を浮かべている。


「じゃあ、よろしくお願いします。改めて自己紹介させてね。ぼくはロロ、ロロ·プロミスティックだよ」


「わたしはルル。ロロのお目付け役ってところかしら」


それから再び名を名乗ったロロとルル。


パレットは出された手をがっしりと掴んでニッコリと笑った。


「あたしはパレットだよ。ロロにルル、こちらこそ改めてよろしくね!」

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