13
ルヴィが肉を卸している店へと着くと、早速パレットが声をかける。
「こんにちはおじさん。店の景気はどう?」
店主は快活に訊ねた彼女に、ルヴィはもう狩りにいけないのに何故ここへ来たんだと訊き返した。
その話の中で、政府が出した自粛勧告の影響で売り上げの悪くなっていることを愚痴っぽく言っていた。
「あ、そう。で、今日来たのはさ」
挨拶もそこそこに、パレットは
ロロとルルもそんな彼女の横で、疫病のこと教えほしいと頭を下げている。
店主はそんなことを聞いてどうするのかと怪訝な顔をしたが、パレットはいいかいいからと理由を答えずに訊き続ける。
呆れた顔をしながらも、店主は空疫病について話しを始めた。
店主がいうに、空疫病はここ最近というよりは、パレットやロロのような子どもが生まれる前からあった病だったようだ。
現在のように、政府の役人が騒ぐ以前からあった病気ではあったのだが、感染者はごく少数だったため、当時はあまり気に留められなかったらしい。
「じゃあ、なんで急に流行り出しのさ?」
話を聞いたパレットが訊くと店主は両手をあげて知らないと答えた。
彼は、一介の店主にそんなことはわかるはずないだろうと、おどけてみせる。
そして、そんな大層なことは役人たちが調べてなんとかするだろうと、皮肉っぽく付け加えるのだった。
「その考え方、あたしは好きじゃないなぁ。だってこのままじゃあたしの大劇場に出る夢が潰されちゃうよ。自分たちにできることはしなくちゃ」
店主はそういうパレットを鼻で笑うと、相変わらず意気込みだけは立派だと言葉を続けた。
からかわれたと思ったパレットは、頬を膨らませながら、もうこれ以上空疫病について知っていることはないのかと訊いた。
店主は何か思い出そうとしているのか。
あごを指でポリポリ掻き始めると、年配の飛空艇乗りの間でいわれているある噂について話し出した。
かつて大地が海に沈み、世界が飲み込まれたとき――。
魔女たちの力で、いくつかの大陸は空へと浮かび難を逃れた。
このオペラもその中の一つだ。
「そんなの子供だって知ってるよ。おじさん、あたしたちをバカにしてるの?」
意味のない話をし出したと思ったパレットは苛立って声をあげた。
自分の知識を訊ねられると、どうでもいいことまで付け足して話したがる。
これだから男ってのは嫌になると、内心で辟易していた。
「せっかくだから聞こうよパレット。この人もわざわざ時間を割いてくれているんだからさ」
「そうなのよ。もしかしたらこの後にスゴイことが聞けるかもしれないのよ。それに、あなたがいちいち話の腰を折るから会話が入ってきづらいかしら」
だが、ロロとルルにたしなめられたパレットは、そこまで言わなくてもとシュンと落ち込んだ。
店主は、気を取り直して話の続きを始める。
魔女の力で浮いている大陸は、その魔女が死ぬと次の魔女か魔法使いに、大陸を浮かす役目を引き継がなけらばならない。
先ほど話した年配の飛空艇乗りの噂とは、その引き継ぎの時期に空疫病が蔓延するといわれていることだそうだ。
店主は一通り話を終えると、パレットたちに背を向けて店の中へと戻っていく。
仕事が忙しくないぶん、これから店の中を徹底的に消毒するのだそうだ。
「おかげで貴重なお話が聞けました。ありがとうございます」
「おじさん、ありがとうね」
その背中に向かって頭を下げ、お礼をいうロロ。
それに続いてパレットもありがとうと声をかけた。
それからパレットたちは、一度ルヴィの家に戻ることにする。
その帰り道で――。
来るときは元気だったロロが、何故か覇気を失っていた。
いや、むしろ不機嫌そうといっていいくらいだ。
パレットはそんな彼の顔を横目で見て、自分が何かしてしまったのかと心配になっていた。
(ま、まさか!? あたしの態度か!? あのおじさんの話の聞き方がマズかったの!? やはり大劇場の支配人のお坊ちゃん、そういう
パレットは、やってしまったと頭を抱えていると、ルルがそんな彼女を遠い目で見ている。
「この娘は、前向きなことでも後ろ向きなことでも、妄想力が豊かそうなのよ」
そのとき、ルルがハッと何かに気が付いた。
彼女は、周りには聞こえないくらいの小さい声で、パレットとロロへ声をかけた。
どうやら店を出た辺りからずっとあとをつけられている。
振り切らないと面倒なことになりそうだと。
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