14

ルルからあとをつけられていると聞いたパレットとロロは、辺りを見渡した。


歩きながら、できるだけ不自然ではないように――。


だが、後ろには誰かいるようには見えない。


それでもルルの言葉を聞いたせいなのか、妙な視線は感じる。


それも一人ではなく、複数の人間からだ。


「う~ん。たしかに誰かに見られているような気がするけど。もしつけられているとして、なんであたしたちのあとをつけてくるんだろう?」


パレットはあとをつけられていることが不可解なのか、両方の眉を下げて首を傾げていた。


誰が一体何のために?


しばらく考え込んだパレットは、あることに気が付く。


きっとあとをつけている連中はロロをさらおうとしているのだ。


そして、誘拐した後――大劇場ステイション·トゥ·ステイションの支配人の息子(またはその関係者)であるロロをさらって、身代金を要求するつもりだ。


そう思ったパレットは憤慨。


彼女は立ち止まって両手の拳を強く握り、唸り出していた。


「うぅ~許せない……。あたしの……大劇場の舞台にあがる夢を邪魔しようなんて……ぜぇ~たいに許せない!」


「この娘は……。今度はなにを妄想しているのかしら……」


そんな、一人怒り狂い始めたパレットを見たルルは、顔を引きつらせながら呆れていた。


パレットの夢である大劇場ステイション·トゥ·ステイションの舞台。


そこの支配人の息子である(または関係者である)ロロが自分の前からいなくなったら、そのチャンスを逃してしまうことになる。


せっかくツキが回ってきたというのに、それを妨害しようとしている者がいることに、彼女は烈火のごとく怒っていた。


「来てロロ! あたしの夢は誰にも止められない!」


「わッ!? ちょ、ちょっとパレット!? きみがなにを言っているのかわからないよ!?」


パレットはいきなりロロの手を掴むと走り出した。


港から出て劇場街の通りを進むのが、ルヴィの家へ行く道。


だが港からは住宅もあり、裏道も多いのだ。


ロロをさらおうとしている連中が何者なのかはわからないが、ここら周辺に土地勘がある自分に勝てるはずがない。


パレットはそう思いながらロロの手を引き、路地裏へと入って行った。


「ハハハ、地の利はわれにありとはこのことだね」


「いったいどうしたんだよパレット!?」


「いいから走って! あたしの夢のために走ってロロッ!」


ここで誘拐犯たちを振り切れば、ルヴィのところまでたどり着ける。


ルヴィさえいれば、たとえ相手がどんな屈強な男でも問題ない。


それを聞いたロロが、ルヴィは女性なのだから戦わせるなんて駄目だと返事をした。


だがパレットは「ヘーキヘーキ」と言い、今までにルヴィが仕留めてきた狂暴な空飛ぶ獣たちと比べれば、たかが人間が数人いようが簡単に追い払ってくれると返す。


「そういうことで、ルヴィのところまでいければ誘拐犯なんてラクショ―だよ!」


ルヴィの家は元々高名な騎士の家系だったそうだ。


現在この空中大陸オペラに騎士や封建制度はなくなったが、彼女はその血筋からか、今でも剣や弓などの腕を鍛え続けている。


それはパレットだけではなく、ルヴィを男装の麗人と憧れる女性たちから、港の飛空艇乗りたちの間でも有名な話だ。


「でも、ぼくは……女の人に戦ってほしくないなぁ」


ロロはただでさえ迷惑をかけているルヴィに、自分のせいでケガをしてほしくないっと言った。


それに、どんなに強くてもルヴィは女性なのだ。


自分はたとえ酷い目に遭っても女性を盾にしたくない。


ロロはパレットに手を引かれながら、そういうのであった。


「かぁ~古い考え方だね。でも、ロロのそういう優しいところ好きだよ」


「えッ!?」


ロロがパレットの言葉に顔を赤くした瞬間――。


前から黒装束姿の男たちが現れた。


彼らもパレットたちと同じように、布で顔を覆っている。


黒装束姿の男たちは口々に「いたぞ! 「こっちだ!」と叫び始めている。


「どうやらつけられていたのは、気のせいじゃなかったようなのよ」


ルルがそういうと、パレットはロロの手と繋いだまま引き返そうとする。


だが、すでに後ろからも黒装束姿の男たちが走って来ていた。

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