12
ロロへ呪文を教えて指輪の使い方を説明した後――。
楽器屋を出たパレットたちは、今度は寄り道せずに港へと向かった。
とはいっても人通りはないし、どこの店も開いていないので寄り道できるようなところはなかったが。
「わぁ~飛空艇だ!」
港へと到着すると、
大型から小型の船が並んで停泊してある様に圧倒されたのだろう。
彼は両目を大きく広げて、その場に立ち尽くしていた。
「へえ~、ロロは飛空艇が好きなんだ」
パレットに訊ねられたロロはコクッと頷くと、彼女はムフフと笑みを見せる。
そんなパレットを見たルルは、また変なことを言い出すに決まっていると、内心で辟易していた。
「よかったら今度乗せてあげるよ」
「えッ!? ホントッ!?」
ロロは驚きのあまり普段の彼からは想像ができないないような大声を出した。
そんな彼の肩に乗っているルルは、ほら来たと言わんばかりの顔をしている。
「どうせあなたのじゃないのよ。大方ルヴィの船を自分のもののように言っているだけじゃないのかしら」
「うッ! そ、それはそうだけど……」
ルルに痛いところを突かれたパレットは、ぐうの音も出ずに呻くだけだった。
だが、ロロは顔を覆っている布を取って、大喜びで彼女の両手を掴む。
「でも、パレットからルヴィのお願いしてくれるんだね! ありがとう!」
ロロにとっては、誰の飛空艇だろうと構わないようだ。
ただ空を飛ぶ船に乗れるかもしれないというだけで、パレットにお礼を言っている。
(たかが飛空艇でここまで喜ぶなんて……。ロロって普段はあまり外へ出ないのかな?)
パレットは考える。
きっと両親が厳しくて、大劇場ステイション·トゥ·ステイションのようなお金持ちが行くようなところしか知らないのだろう。
いつもは自分の部屋で家庭教師から教えてもらう勉強や習い事をしていて、なかなか自由に外へ出してもらえないのだ。
ロロは大劇場の支配人のお坊ちゃん(または関係者の子)なのだ。
それもしょうがない。
「ムフフ。だからこそあたしにもチャンスが回ってきたわけなんだけどね」
パレットはさらに考える。
おそらく家に閉じこもっているロロには、同世代の友人はいないだろう。
そこへ自分のような同じくらいの人間が現れて仲良くなろうと言えば、簡単に心を許すはず。
実際にもう一緒にルヴィの住み始めたり、楽器屋でのセッションもあって、互いの距離も縮んできているのだ。
あとは一緒に音楽活動をする約束さえとりつければ、彼女の夢である大劇場ステイション·トゥ·ステイションの舞台に立てる。
パレットはそう妄想を膨らませると、つい表情の筋肉が緩んでしまっていた。
「ああ……あたしのヴァイオリンを聴き終わった聴衆の大喝采が聞こえてくるわ……」
「この娘は……。いったいなにを考えたらこんなだらしない顔になるのよ……」
そんなパレットを見たルルは、もはや悪口すら出なくなっていた。
それから停泊している飛空艇を横目に――。
ルヴィが言っていた、
その人物は、いつもルヴィが狩ってきた空飛ぶ獣の肉を買う店主のことだ。
パレットは任せてと言うと、フラフラと先頭を歩き始めた。
まだ妄想の中から完全に帰ってきてなさそうな様子で、緩みきった表情のまま進んでいく。
その姿は、まるでラム酒を飲み過ぎた船乗りのようだ。
「あの娘に任せて……ホントに大丈夫なのかしら」
「ちょっと心配だけど。ともかくぼくらも追いかけよう」
ロロとルルはそんな千鳥足なパレットの後を、心配ながらもついて行くのだった。
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