08
パレットたちがルビィの家には転がり込んでから次の日――。
ルビィの狩りの仕事もなく、劇場でオーディションもなかったパレットは昼になってもまだ寝ていた。
ベットの上で、だらしなくイビキをかきながらヘソを出している。
ルビィは彼女を起こしに来たのだが、その姿を見て頭を抱えていた。
「こりゃたしかにルルのいう通りかもね。嫁入り前の娘が……だらしない……」
こんな色気のない姿を見て――。
ロロがパレットを襲わないと断言するルルの気持ちが、少しわかったルビィだった。
一方ロロは――。
パレットとは違い、朝早くから起きてルビィが目覚めるのを待っていた。
そして朝食の手伝いから掃除、洗濯などの家事を、ルビィに教えてもらいながらもしっかりこなしていた。
今はルルと共に洗った洗濯ものを外に干しているところだ。
「まったく、あの娘はいつまでも寝ているつもりなのよ」
ハンカチや靴下などの小さなものを干していくルル。
どうやらまだ起きてこないパレットに、少苛立っているようだ。
ロロはそんな彼女をなだめながら、ルルでは持てない洗濯ものを干していた。
「あッ! ちょ、ちょっとロロ!? それはわたしが干すのよ」
だが、突然ルルが彼の持っていた洗濯ものを強引に奪った。
それは、その洗濯ものがルビィの下着だったからだ。
大人が身に付けるセクシーなブラジャーとパンツである。
きっとルルはこの下着を見たら、ロロに悪影響を与えると思ったのだろう。
なんでもないと言いながら、彼に見えない位置にその下着を干した。
ロロはルルのいきなりの態度に一瞬何事かと思っていたが、気にせずに洗濯ものを干し続ける。
「もう終わりそうだね。そろそろお昼にしよう」
そこへルヴィがやってきてロロとルルへこちらへ来るように声をかけた。
もう昼食が出来上がったので、一緒に食べようと言いに来たのだ。
ロロは急いで洗濯ものを干すと、ルルと共に家へと戻る。
すでに料理がテーブルには並べてあり、まだ寝足りなそうなパレットが席に着いている。
「あ、ロロ、ルル。おはよう~」
彼女はあくびをしながら出迎えてくれた。
その間の抜けた顔を見たルルは、怪訝な顔をする。
「おはようパレット。昨日はよく眠れたみたいだね」
ロロはそんなルルとは違い、爽やかな笑みを浮かべていた。
それからルヴィも席に着くと、パレットがまぶたを擦りながらも、テーブルにあるサンドイッチを次々に食べていく。
「ロロはこれからどうするの?」
寝ぼけまなこにまま口いっぱいにサンドイッチを詰め込み、それを粗食しながら会話を始めるパレット。
そんな彼女は、寝てたいのか、食べたいのか、話したいのかよくわからない様子だ。
ある意味忙しそうなパレットを見たルルは、その身をワナワナと震わせている。
ルルは、また彼女に下品な女と言いそうになっていた。
だが、こんなことで怒ってはいけないと、サンドイッチを一口サイズに千切ってゆっくりと口に運ぶ。
「う~ん。ルヴィさんから家のことはもう大体終わったと言われたし。午後はちょっと外へ出てみるよ」
「そう、モグ、なんだ、モグモグ。ねえ、モグ、あたしもついて行っていい? モグモグ」
「もうッ! 食べるか話すかどっちかにしなさいなのよ!」
それでもやはりというべきか。
パレットの食事の仕方には耐えられずに、結局ルルは彼女に怒鳴りあげたのだった。
それから昼食を終えたパレットたちは、早速出かける準備をしていた。
ロロへ行きたいところはあるかと訊ねたパレットだったが、彼がここら辺で知っているのは大劇場ステイション·トゥ·ステイションくらい。
だから、そう訊かれても困ってしまうという。
「だったら港のほうへ行ってみなよ。劇場街よりは人がいると思うし。あとなんか昨日行った店のおやっさんが、
ルヴィがいうに――。
昨日仕留めた巨大な鳥を金に換えた後。
その店の店主から疫病について話をされたそうだ。
空疫病にあまり興味のないルヴィは、適当に相手をして店を出たが、その店主からなら何か話を聞けるかもしれない。
ルヴィの話を聞いたロロは、その店主の店がある港へ行くことを決める。
「よし。じゃああたしも行くよ」
「なんであなたが一緒に来るのよ」
ルルは露骨に嫌な顔をした。
それはパレットが一緒に来ても、役に立つどころか邪魔をしそうだと思ったからだ。
だが、パレットはそんな彼女のことなど気にせずに、ロロとルルを急かし始める。
「ほらほら、一日は短いんだよ。早くしないとすぐに夜になっちゃうんだから」
「……昼まで寝ていた女がいうセリフかしら」
そして、家から出たパレットたちは、ルヴィから渡された口を覆う布を付けて、港へと向かうのであった。
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