52
我が子である――ロロの言葉を聞いたスレイの魂はそっと呟く。
「ああ……ロロ……あなたはやっぱりあの人の……レレの子だわ……」
そして彼女は、そのまま彼の体へと入っていった。
スレイの魂の続き、魔法陣から次々と人の形をした光が現れては、ロロの体へと吸い込まれていく。
それらは今までこの空中大陸オペラを浮遊させてきた魔女や魔法使いたちの魂だった。
数えきれないほどの魂が、ロロの意思によって再び大陸を浮かせようとしていた。
この現象は、ロロが本当の意味で人柱となる覚悟をしたことに他ならない。
それは母スレイの魂が望む。
何気ない幸福な人生でもなく。
大事な人のため――。
自分を想ってくれた者を救いたいという気持ちからだった。
「へへ、こんな個人的なことで大陸を浮かすなんて……バチが当たっちゃうかな……」
ロロは自覚していた。
自分はこの大陸に住むすべての者を救いたいから人柱になるのではない。
最初こそそう思っていたが、パレットたちが現れたときにその覚悟は見事に粉砕されてしまった。
犠牲になることはしょうがないことなどだと、自分に言い聞かせ、受け入れているふりをしていたのだ。
だが、本当の彼の気持ちは――。
まだ彼女たちといたい――。
また一緒に食事をしたり、いろいろなところへ旅に出たりしたい――。
パレットのヴァイオリンとルルの踊りに、自分の演奏する音を重ねたい――。
そう思っていたのだ。
ロロはそんな自分を情けなく思いながら、抱いていたパレットの体をそっと離す。
ゆっくりと地面に下りていくパレットと彼女の肩に乗っているルル。
それと同時に、側で見ていたルヴィやフロート――。
さらには崩れて落ちて来ていた大地の欠片や祭壇の柱など、浮いていたものすべてが緩やかに宙から降下し始めていた。
ロロが大陸へと注ぐ魔力が安定し出したのだ。
地面へと着いたパレットは、ハッと目を覚ます。
彼女は何が起きたのかわからないまま、下にある魔法陣を見て顔を上げた。
「ロロ! ダメだよ!」
一体何がいけないのか?
パレット自身もよくわかっていなかたが、彼女はロロを止めようとした。
光に包まれていく彼を見上げながら、立っているのがやっとの体で喉を振り絞る。
「まだあたしたち……ちゃんと話をしていないんだよ!?」
それから何度も何度も――。
パレットは叫び続けた。
だが、ロロは彼女を見下ろしながら微笑むだけだった。
「パレット……。ありがとうね。ルルのことはきみにお願いするよ」
「ヤダだッ! こんなのヤダよッ! あたし……あなたと音楽をやりたいって言ったじゃないッ! それなのに……こんなのってないよ!」
「ぼくも同じ気持ちだったよ」
「だったらッ!」
パレットがそう叫んだ瞬間――。
ロロの体は消滅し、そこに光り輝く結晶が現る。
そしてその結晶はパレットが立っている魔法陣へと下りて来ていた。
それを見たパレットは、指輪に魔力を込める。
「プレイ!」
呪文を唱えてヴァイオリンと弓を出し、なけなしの魔力を使って音を奏で始めた。
先ほど禁術を名乗る光を消滅させたように――。
また魔法陣を消すつもりだ。
パレットは、今自分がしていることを理解していなかった。
この場でロロを止めてしまったら、オペラは地上へと落下し、そのまま海へと沈んでしまう。
そうなったら自分ですらも死んでしまうのだ。
だが、それでも彼女はただロロと話したいという一心で、弓をヴァイオリンの弦へと当ててメロディー繋いでいく。
「届いて! あたしの音ッ!」
魔法陣から放たれている光に包まれた祭壇内に、パレットの全身全霊の魔力がこもった演奏が響き渡る。
彼女は、歯を食いしばりながら体の痛みにも負けず、いつも以上に酷い演奏を続けた。
だが、もうほとんど魔力が残っていない彼女の
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