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パレットにとっては、ロロが上手いか下手かは関係なかった。


ルルが言っていたオリジナル曲のこともどうでもよかった。


ただ彼女は、ロロがピアノの伴奏がしっかりとできるかが聴きたかったのだ。


それは、パレットがあることを企んでいたからだ。


(ムフフ。ロロはステイション·トゥ·ステイションの支配人の息子。その子とパフォーマンスしたら絶対に大劇場に出られるよ)


パレットの考えはこうだ。


大劇場ステイション·トゥ·ステイションの支配人の息子であると思われるロロ(またはその関係者のお金持ちの子)。


そんな人物とコンビを組んで活動していれば自然と話題になり、夢の大劇場の舞台に出演するチャンスがやって来るはず――。


そんな打算的なことを企んでいたのである。


「どうしたのパレット?」


「あなた、顔面がとっても悪い顔になっているのよ」


ほくそ笑んでいたパレットを見て、ロロとルルがそう言った。


パレットは慌てて表情を戻し、ロロに早くピアノを弾くようにと、先ほど見られた顔を誤魔化すように大声で返す。


「そ、そんなことよりも早くロロのピアノのを聴かせて!」


ルルは、この娘がまたロロを巻き込んで良からぬことを考えていることを察していた。


だが、ロロはそんなパレットの企みに気がつくことなくピアノを弾き始めた。


軽やかなリズムに乗せられた和音が鳴り、まるで低音と高音がダンスしているかのような演奏。


ルルがロロのピアノについて、伴奏ならお手のものと言っていたが、彼のピアノはパレットの想像以上に素晴らしかった。


「難しいことなんてなにもやってないのに……なんだろう。この、一音一音を愛でるっていうか……」


「わたしも久しぶりに聴いたけどね。やっぱりロロのピアノはステキなのよね」


「う~ん。なんか我慢できなくなってきた。プレイ!」


パレットは、ロロのピアノを聴いて血が騒いだのか、指輪に魔力を込めて呪文を唱えた。


そして、その手に現れたヴァイオリンと弓を使い、ロロの伴奏にメロディーを乗せるように奏で始める。


シンプルなリズムの上をメロディーが楽しそうに跳ね回る。


魔力の込められたヴァイオリンとピアノの音色が、店内を舞踏会へと変えていく。


「ちょっと……これって……すごいんじゃないのよ……」


思わず呟いてしまっていたルル。


彼女は二人の演奏から目が離せないでいた。


もちろんロロのピアノは何も難しいことはしていない。


当然パレットのヴァイオリンは、たまに音が途切れたりリズムが揺れたりと拙いものだ。


だがしかし、他の演奏者パフオーマーでは奏でることができない、魅力的なハーモニーがそこにはあった。


(ヤバい、ヤバい……楽しい! 鼻唄を口ずさむみたいに力は抜いているのに、メロディーが止まらないよ!)


――パレット。


(誰かと音を重ねるって、こんなにも楽しいことなんだ!)


――ロロ。


二人は心の中でそう思いながら、互いに笑顔を見合わせていた。


少しでも長くこの演奏を続けていたい。


パレットとロロはそう思っていたが、合わせていた演奏を突然止めてしまう。


「お客さん、うちは楽器屋だよ。演奏なら劇場でやってくれんかね」


それは店員の老人が、困った顔をして二人の前に出てきたからだった。


ロロはすぐさま頭を下げて謝罪。


反対にパレットはもっと試奏させてほしいと喚き出す。


ルルはその様子を静観しながら考えていた。


「ふむ。どうやらロロとあの娘は、魔力の相性が良いようなのよ」


魔力の相性とは、その者が持つ内面的な力の親和性のことである。


仮説では、相性の良い魔力同士が結び付くと、思いがけない奇跡を起こせるとも言われている。


当然それは演奏者パフォーマーにいえることであり、今まで名を馳せた楽団の多くが皆魔力の相性が良いといわれていた。


ルルは、まったく性格の違うパレットとロロが、ここまで相性が良いとは思わなかったようだ。


「ふん。だからってあの下品な娘に、わたしの大事なロロを好きにさせるわけはないのよ」


だが、不機嫌な顔をしたルルは、店員の老人に喚き散らすパレットを見ながら、ツンッと鼻を鳴らすのであった。

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