09
港へと向かったパレットたちは、途中に通った街の路上でまったく人通りがないことに驚いていた。
当然空疫病の影響なのだろうとはわかるが、まさか人っ子一人いないとは思わなかったのだ。
まるでゴーストタウンにでもなってしまったかと思いながら、彼女たちは誰もいない石畳の道を歩く。
昼間から閉ざされている家の窓を見ていて不安を覚えてしまう――そんな心境だった。
「ロロは怖くないの?
急に思い立ったのか。
パレットは今さらながらロロに訊ねた。
この街の現状を見ていて気になったのだろう。
訊ねたパレットは、ロロの返事を待たずに言葉を続ける。
「そして熱が出て、次第に体が弱っていって、最後には死んじゃう病気なのにさ」
「う~ん。怖くないってことはないんだけどさ。怖がるよりも知りたいって気持ちのほうが強いんだ」
「ふーん。それって好奇心ってやつ?」
連続で訊ねられたロロが困った顔をしていると、そこへルルが会話に入ってくる。
「あなたこそどうなのよ? 空疫病が怖くないのかしら」
パレットはルルにそう訊ねられると、いきなり自分の小さな胸を誇らしげに張り出した。
なんだかよくわからないが、とても自信満々といった様子だ。
「ふふん。自慢じゃないけどね。あたしは生まれてから一度も病気になったことがないのよ。だから空疫病なんてドンと来いだよ」
そして、自分の張った胸をドンと打ち鳴らした。
ルルは、こういう奴から病気にかかって死んでしまうんだよなと、顔を引きつらせていた。
「まったく、おめでたいったらない娘なのよ」
「あッ、あの店は開いてるよ。ちょっと寄ってっていい?」
パレットは、ルルの皮肉など気にせずに、唯一空いていた店へと駆け込んだ。
ロロとルルは、訊いておいて返事も聞かずに走り出していく彼女の後をを、仕方なく追っていった。
その店は楽器屋だった。
劇場街に近いのもあって、
もちろん初心者から趣味で音楽を嗜む者も買いに来るところである。
「ねえねえロロ、ルル! これ見てよ!」
店内はとても広いとはいえなかったが、品揃えは良く、そこらじゅうに楽器が並べられている。
壁に立て掛けてある弦楽器。
ディスプレイケースに入れられた管楽器。
さらにはピアノやオルガン、チェンバロなども置いてあった。
パレットはそれらを眺めながら目を輝かせている。
まるで初めてオモチャ屋へ来た、子どものようなはしゃぎっぷりだ。
「ぼく、楽器屋さんには初めて来たよ」
「わたしもなのよ。それにしてもなかなかの品揃えなのね」
パレットの後をついていきながら、店内にある楽器を眺めて進むロロとルル。
パレットほどではなかったが、彼らもその光景に心を踊らせていた。
「ねえ、ロロはなにか楽器できないの?」
店内の先へ行くパレットが訊ねた。
ロロはその質問に答えづらそうにしていると――。
「ロロはピアノを習っていたわ。譜面を見ながら弾くの苦手だけど、伴奏ならお手のものなのよ」
何故かルルが答えた。
そして、このムササビはさらに胸を張って言葉を続ける。
「なによりもロロはオリジナル楽曲を作れるのよ。ピアノの弾き方を覚えてからは、いつも作曲ばかりに精を出していたかしら」
「へぇーそうなんだ。って、どうしてあなたが偉そうにするの……」
まるで自分の自慢話をするかのようなルルの態度に、パレットは怪訝な顔をしていた。
だが、それよりも今はロロだ。
パレットはすぐに店員の老人へ声をかけ、店にあったピアノを試奏させてもらうことに。
「自信ないなぁ……。ぼく、あまりうまくないし……」
「いいからいいから。さあ、弾いてみてよ」
パレットにせがまれたロロは、しょうがないといった様子でピアノの前にあった椅子に腰かけた。
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