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その後――。


スレイは我が子ロロと病にかかったレレを連れて、スカイパトロールと共に館へと戻ることになった。


その行く途中の森で、スレイは小動物を見つける。


それは二匹のムササビの親子だった。


まだ小さいムササビが、すでに動かなくなった母にすがりついている。


「ああ……母が恋しいのですね……」


スレイはその小さいムササビを抱き、その母を弔った。


赤ん坊のロロは、その小さななムササビを見て喜び始める。


小さいムササビのほうもロロに笑いかけられ、嬉しそうに鳴き返していた。


「どうやらロロはお前と居たいようです。よかったらわたしたちと一緒に行きましょう」


そうスレイに言われた小さいムササビは、まるで言葉がわかっているかのようにコクッと頷いた。


その後、その小さなムササビはルルと名付けられ、彼女に飼われることとなった。


館に到着後――。


レレは医者に診てもらったが、すでにかなり病が進行していて意識を失っていた。


その体には、もうこの病気の特徴――鳥の羽根が全身を覆い尽くしている。


「レレ……ごめんなさい……。わたしは行きます」


スレイは覚悟を決めていた。


この空中大陸オペラを浮かすための人柱となる決意をしたのだ。


自分があのとき――レレに泣き言をいってしまったために、彼を巻き込んでしまった。


もし時間を戻せるのならば、彼の手を取って逃げたりはしない。


そうしていれば、この羽根が生える疫病がここまで蔓延しなかったのだ。


スレイは自分のしてしまったことを恥じていた。


だが、今からでも遅くはない。


疫病から大陸を救うため――。


禁術による影響から大事な人を守るため――。


今まさに彼女は己の運命を受け入れたのだった。


「ロロ……。あなたも父のような優しい人間になってくれるよう、この大地の下から見守っています。……ルル、ロロのことをお願いね」


そしてスレイは、眠っているロロと彼に寄り添うルルに別れの挨拶をし、大陸の中心部である地下の祭壇へと向かったのであった。


彼女が人柱となり、その魔力によって空中大陸オペラから禁術による影響――その後に空疫病くうえきびょうと呼ばれる疫病の脅威は消え去った。


だが、スレイが一番に望んだことはかなわなかった。


すでにレレの弱った体では回復は見込めず、彼はロロと会話することなくこの世を去る。


残されたロロは、その後若かりし頃の母と同じように政府の館で育つこととなった。


またいつか起こる、人柱の引き継ぎのときまで――。


「母さん……」


スレイの魂に抱かれながら――。


ロロには彼女の記憶が流れ込んできていた。


いや、それは母スレイだけではない。


遠い昔に――。


海面の上昇により、世界のすべての大地が海に覆われ、この大地を浮かすために自らを捧げてきた者たちの記憶もだ。


ある者はこの大陸オペラを救うために――。


またある者は大事な者のために――。


理由は様々だったが、ロロが見た歴代の魔女、魔法使いの記憶は、自己犠牲精神から来るものがほとんどであった。


誰一人嫌がってこの祭壇へと上がり、魔法陣に縛り付けられた者などいない。


ロロは母の魂に抱かれながら思う。


自分だってそうだ。


すべてを知り、自分にしかできないと聞き、そしてここまでやってきたのだ。


今さら怖気づいたりはしない――。


そう思っていた。


だが、目の前には――。


「ロロ! こっちを見て! あたしを見てよッ!」


そんな自分に会いたいというだけで、危険な目に遭いながらも来た少女――パレット·オリンヴァイがいる。


彼女が自分のことを呼ぶ声が聞こえるたびに、決意が揺れてしまう。


またパレットと旅をしたい。


ルヴィの家で一緒に料理を作って、それを食べたい。


なによりもまた彼女と一緒に演奏をしたい。


そして、その二人で奏でた音楽でルルに踊ってもらうんだ。


――と、人柱になる覚悟にひびが入り、ここから彼女と共に逃げ出したくなっている自分がいた。


そんなロロの心中を察してか、スレイの魂が声をかける。


「ロロ……いいのよ。あなたが好きなようになさい」


「母さん……ぼくは……ぼくは……」


すると、宙に浮いているロロの体から光が発し始めた。


その光は、彼の周囲を包んでいた魔法陣の光を打ち消す。


それから次第に宙から下りてくるロロの体。


彼の真下にいた禁術を名乗る光は、驚きのあまり言葉を失っていた。


そして、ロロの体が魔法陣の上まで来るとようやくその口を開く。


「儀式はすでに済んでいる。今さらこの魔法を解けないはずだ」


禁術を名乗る光は、ゆっくりとロロへと近寄ろうとした。


だがその瞬間に、パレットは指輪に魔力を込める。


「プレイ!」

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