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パレットが呪文を唱えると、身に付けていた指輪が輝き出し、彼女の手にヴァイオリンと弓が現れた。


そして、弓を力強く握ってヴァイオリンの弦へと当てる。


彼女は意識せずに、さんざん演奏してきた手癖にもなっている曲を弾こうとした。


先ほどは阻止されたが、今度こそ音を奏でてみせる。


ただそれだけを考えて。


そんなパレットに気が付いた禁術を名乗る光は、両手を開き、再び魔法陣から光を放った。


「それくらいじゃもう……止められないよ!」


パレットの叫びと共にヴァイオリンの音色ねいろが鳴り響く。


魔力が込められた音が輝き、彼女を吹き飛ばそうと襲ってくる光からその体を守った。


だが、それでも魔法の威力の差もあり、パレットは魔法陣から放たれている光に押し潰されそうになっていた。


「お前一人の魔力で大陸を浮かすほどの力に勝てるものか。これ以上邪魔をするつもりならこのまま消し去ってくれようぞ」


禁術を名乗る光がそういうと、パレットに振りかかっている光がさらにその威力を増していく。


パレットは、それでも負けじと姿勢を正そうとした。


魔力をヴァイオリンと弓に込めながら、全身から余計な力を抜く。


今にも押し潰されそうになりながらも――。


全力で体内から魔力を放出したことで、苦悶の表情を浮かべながらも――。


彼女の演奏はけしてブレることなく、いつも以上の集中力でもって奏でられる。


だが、それでも押されているのは変わらない。


このままではパレットの魔力は尽き、彼女は魔法陣から放たれる光に飲み込まれることは、火を見るよりも明らかだった。


「パレット……わたしにかかっている力も……なのよ」


その傍で倒れているルルがか細くそういうと、彼女の全身から魔力が立ち込め始めた。


ルルの体から出てきた魔力は、そのままパレットのヴァイオリンと弓へと飛んでいく。


ロロが彼女にかけていた魔法――。


動物が言葉を話せるようになる魔法の魔力が、今パレットへと移っていった。


すると、今まで押されていたパレットの音が、魔法陣から放たれる光を押し返していく。


その様子を見ながら、ルルがギャーギャーとムササビ本来の鳴き声で喚いている。


「次の曲は……ロロが作ったあたしたちの曲だよ!」


パレットが叫び、途切れずに次の曲が始まった、


そのメロディーは以前にロロが作り、彼と一緒に演奏をした曲だ。


その音が、ルルが与えた魔力とパレットの魔力をさらに高めていった。


そして先ほどは反対に、一気に禁術を名乗る光を押し潰そうとしている。


「バカな!? たかが小娘とムササビごときに、この大陸を浮かすほどの力が負けるというのか!?」


禁術を名乗る光は、今にもヴァイオリンの音に消されてしまいそうになりながら叫んだ。


それを見たパレットは、さらにテンポを上げて魔力を高めていく


「あたしたちの力だけじゃない! これは魔法と音楽の力なんだ!」


ロロとまた一緒に話したい――。


彼ともう一度演奏したい――。


その想いが音楽となって、この奇跡と呼べる力を引き出していた。


それは今では忘れられた、演奏家パフォーマー同士で起こせる驚異的な魔力のパフォーマンスだった。


パレットはそのことに気が付かないまま、無我夢中で演奏をした。


そして、彼女はあることに気が付く――。


(あたし……こんなときなのに……楽しんでる……。すごく、すごく楽しんでるよ!)


こんな状況なのに笑っている自分に気が付いたパレット。


彼女は、自分が不謹慎だと思いながらも、さらに嬉しそうにヴァイオリンを弾き続ける。


「忘れていたのは我か……。本来の魔法とはこういうものだったことを……。小娘、ムササビよ……見事なり……」


そう言い残して禁術を名乗る光は消え去り、その地面に書かれた魔法陣も消滅していった。


もはや止める者はいなくなり、パレットはヴァイオリンと弓を指輪へと戻して、ルルを抱いて倒れているロロの元へと駆け寄る。


「ロロ! あたしだよ! パレットだよ! ルルも一緒だよ!」


「パレットもルルも来てくれたんだ……」


ロロは、パレットとルルに見下ろされながら、ニッコリと微笑んで返した。


だが、次の瞬間――。


大地が大きく揺れ始め、今彼女たちがいる祭壇――地下の天井が崩れ出した。

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