07

テーブルの上の料理を見ているパレットは、今にも食いつきそうな様子だった。


よだれをゴクッと飲み込んで視線は獲物を狙う獣ように真っ直ぐだ。


だが、さすがにルルと揉めたばかりなので我慢している。


ロロがそんな彼女を見てクスリと微笑み、一方でルルのほうは呆れていた。


「よし、これで全部だ」


そこへルビィが最後の料理を運んできた。


それは焼きたてのパンだ。


ルビィの家には小さいながらオーブンがあり、それを使ったのだ。


パレットは、その香ばしい匂いを嗅いで食欲をさらに刺激されている。


「焼きたてのパンなんて初めてだよ。美味しそうだね」


「たしかにこの香り……なんだがとても抗えないものがあるのよ」


それはロロとルルも同じだった。


彼らも初めて嗅いだ焼きたてのパンの香りに、すっかり虜になっていた。


「ルビィ~! 早く早く! あたしもう、おへそと背中がくっつきそうだよ!」


「はいはい、今いくから待ってなよ」


それからパレットたちは、いただきますと食事の挨拶を終え、テーブルに並べられた料理に手をつけ始める。


ガツガツと肉から食べ始めたパレットの横では、上品に野菜の盛り合わせを口へと運ぶロロ。


ルルは、彼女用に出された小さなボールに入ったスープを、音も立てず飲んでいる。


ルビィは食事をしながらでいいからと、ロロとルルへ声をかけた。


パレットから聞いたが、空疫病くうえきびょうについて調べているというのは本当なのか?


どうしてロロのような少年がそんなことをしているのか?


彼女はロロとルルに威圧感を与えないように、穏やかな口調で訊いたのだった。


「疫病を調べるのは、役人にでも任せておけばいいじゃないか。一体なんだってそんな危険なことをしているんだ?」


「そ、それはですね……」


言葉を詰まらせるロロ。


その態度を見るに、どうやらあまり訊かれたくなかったことのようだ。


それを見かねたルルが彼の代わり話し出す。


「ロロの家庭事情ってところなのよ」


ルルの返事を聞いたルビィは、彼がこの質問に答えたくないことを察したのだろう。


それ以上の追求はしなかった。


それから食後――。


ロロはルビィに言われる前から自分が使った食器類を台所へと運び、そんな彼を見たパレットが慌てて同じことをしていた。


そして、食器を洗い終わり、二人は今夜眠る寝室へと案内される。


「あんたらは同じ部屋で大丈夫だよね?」


訊ねたルビィがいうに、急に居候が増えたため、今はこの部屋しか空けていないらしい。


そのため他の部屋には、飛空艇を直すための工具や部品で埋まっているから、数日間は一緒の部屋で寝泊まりしてもらうことになると。


「別々がいいとか言わないでよ。さすがに風呂やトイレに寝てもらうわけにはいかないんだからさ」


それを聞いたロロは構わないと返事したのだが、ルルのほうが大声を出し始めた。


ただでさえ同じ屋根の下に年頃の男女が住んでいるのに、そこでさらに同じ部屋で眠るのはどうなのだ?


もしパレットがロロに手を出したら責任を取ってくれるのか?


ルルは、まるで我が子を心配する母親のように喚き出したのだ。


ルビィは、必死になって抗議するルルに、どうしていいかわからなくなっていた。


「ロロがいいって言っているんだからいいじゃない?」


そこにパレットが会話に入ってくる。


彼女は、最初からそのつもりだった言いながら、自分の荷物を部屋に置き始めていた。


「それに普通逆じゃないの? 女のあたしがいうセリフだよ、それ」


「ロロがあんたなんかに手を出すはずがないのよ! それに最初から一緒の部屋で寝るつもりだったなんて……。ロロ! 出ましょ! こんなイヤらしい女とあなたを一緒になんてできないわ!」


「人がおとなしくしていれば……。おい、一体誰がイヤらしいのよ!」


そこからまたパレットとルルは言い争ったが、部屋に布で敷居をもうけるいうことで落ち着いたのだった。


「やれやれ、いきなりこれじゃ先が思いやられるな」


ロロは呆れているルビィを見ながらも、何故かとても嬉しそうにしていた。

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