30
「いくらロロが魔力が高いからって、彼を犠牲にするつもりなの!?」
パレットはフロートに怒鳴り散らした。
話の事情はわかった。
この大陸を浮かすのに人柱が必要なのも理解した。
だが、いくら大陸を浮かせ続けるためとはいえ、ロロはまだ子どもである。
そんな子どもにすべて背負わせて、大人たちは何をやっているのかと。
魔力の高い者ならいくらでもいるだろうと、その小さな手で力一杯フロートの体を揺さぶる。
パレットは許せなかったのだ。
大の大人たちががん首そろえて、すべて子どもであるロロに責任を押し付けることに。
「私たちだって、好きで子どもを犠牲にしたいわけではない」
フロートはそんなパレットとは対照的に、落ち着いた様子で話を始めた。
現在この空中大陸オペラは、機械の発達に伴い、以前ほど魔力に頼らない者が増えている。
そのため、飛空艇などの機械技術が発展し、魔法がなくても問題なく生活が送れるようになったのもあって、年々魔力の高い者が減少傾向にあるそうだ。
「だがまれに、ロロ·プロミスティックの母親――スレイ·プロミスティックのような者もいるのだ」
その中でも、生まれつき魔力の高い者も現れる。
オペラ政府は毎年その魔女、または魔法使い候補を探し、人柱のリストを作っている。
そして、次の人柱に選ばれたのがロロだった。
フロートの淡々とした言い方に、パレットはさらに声を荒げた。
「そんなの知らない! 魔力の高い人が必要ならあなたがやりなさいよ!」
「残念だが、私の魔力はロロ·プロミスティックにも、そして君にもとおく及ばない」
フロートは、喚くパレットをなだめるように言葉を続けた。
魔力というものは、生まれつきその魔力量が決まっていて、修行しだいでどうにかできるものでない。
鍛えれば当然魔力のコントロールや、より高度な魔法を操れるようにはなるが、生まれ持った絶対量はけして変わることない。
――と、悲しそうにいう。
「うそつくなッ! 大人たちがただロロに責任を押し付けているだけでしょ! 魔女の子どもだからって理由でさ!」
「嘘ではない。もし代わってやれるのなら私が代わってやりたいよ。誰も好き好んで子どもを犠牲にしたい大人などいない……」
パレットはフロートの表情を見て、彼が本当に悲しい、悔しい思いをしていることがわかった。
屈強で力のある彼が身を震わせて、子どもの自分にいいようにされても力づくで押さえ付けてこないのだ。
ただ、淡々と答えることしかしないフロートは嘘をいっていない――。
パレットはそう思うと、彼の胸倉から手を放していた。
「なにか……なにか他の方法があるはずだよ! どうしてそれを探さないの!?」
それからパレットは、できる限り思いつくことを口にした。
機械技術が発展してきてるなら、それをうまく利用できないのか?
大型の飛空艇を何十隻、何百隻も作って、大陸を浮かすことはできないのか?
高い魔力が必要ならたくさんの人たちの魔力を合わせ、たった一人が犠牲になるようなことがないようにできないのか?
だがフロートは、今彼女がいったことはすでに試していると、両目をつぶって首を横に振るだけだった。
「ヤダだ……そんなのヤダよ……。だってロロはこれからなんだよ……。あたしとも音楽をやるんだよ……。それなのにそんなのひどすぎるよ!」
もはやどうにもならないことを理解したパレット。
彼女は、か細い声で泣き出したと思ったら突然大声をあげた。
何も悪いことをしていないロロがなぜこんな目に遭うのかと、誰にいうでもなく喚き散らす。
そんな彼女を見たフロートは、何もすることなくただじっとその場に立っているだけだった。
「ロロは悪くないのに……こんなの理不尽だ!」
そのとき――。
二人がいた部屋の扉が開いた。
そこに立っていたのは――。
「パレット……」
心配そうにパレットのことを見ているロロだった。
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