29

しばらくパレットが喚き続けていると、牢の扉が開いた。


そこには黒装束の男たちが立っていて、パレットに出るよういう。


パレットはここで暴れてやろうと思ったが、彼女の力――魔道具の指輪は奪われていたため、大人しくいうことを聞くことにした。


だが彼女は、隙あらばロロとルルを見つけて逃げるつもりだ。


そして、渡されタオルで体を拭きながら牢屋を出て、黒服の男たちにいわれた部屋へと入った。


「少しは落ち着いたか?」


そこにはフロートが待っていた。


彼はパレットが部屋に入ると、黒装束の男たちへ二人きりにしてくれと言い、外へと出てもらう。


「ロロとルルはどこッ!? もし彼らに酷いことしていたら許さなんだから!」


パレットは部屋に二人きりになると、フロートへ食って掛かる。


だが、フロートはやれやれといった様子でイスからそっと立ち上がり、静かにパレットへ語り掛けた。


「そんなに知りたいか? なぜ我々スカイパトロールが彼を追っていたのかを?」


「知りたいってゆーか、ぜったいなにかの勘違いだよ! ロロは悪いことができる子じゃない!」


「それは先ほど話しただろう? 我々は彼が犯罪者だから追っていたわけじゃないと」


「だったらなんで!?」


いくつかの問答の後――。


フロートは大きくため息をつくと、「いいだろう」とロロを追っていた理由を話し出した。


今世界にある大陸はすべて、この空中大陸オペラと同じように魔法の力で浮遊することができている。


魔法の力で浮いている大陸は、その魔法を使用している者が死ぬと次の魔女か魔法使いに、大陸を浮かす役目を引き継がなけらばならない。


「それがどうしたの!? ロロと魔女は関係ないじゃない!?」


パレットは、まだフロートが話している途中だというのに大声をあげた。


そして、怒鳴りながらも港で聞いた話を思い出す。


そう――。


今フロートがいった話は、飛空艇乗りたちの噂と同じだった。


たしか、その引き継ぎの時期に空疫病が蔓延するとも。


パレットはそのことも頭によぎる。


「それが関係あるんだよ。おそらく今回のことで君も候補に入っただろうからこそ、こうやって説明してやっているんだ」


「候補……?」


フロートは、顔を強張らせたままのパレットに再び話を始めた。


多くの大陸がそうなように――。


この空中大陸オペラでも長年続けられていることがある。


それは魔力の高い者を人柱とし、この大陸を浮かすことだった。


「魔女や魔法使いと呼ばれている者は、皆この大陸の人柱となり、そのおかげでこの大陸は浮き続けることができる。ロロ·プロミスティックはその関係者なのだ」


「ちょっと待って……。じゃあ、あなたたちがロロを追っていたのって……?」


「ようやく理解したか? そうだ。なぜ我々が彼を追っていたかは、彼――ロロ·プロミスティックが今この大陸を浮かせている魔女、スレイ·プロミスティックの息子だからだ」


パレットはこの大陸の秘密を知って驚愕した。


だが、それ以上にロロがそのことを知っていたのかが、気になってしょうがなかった。


(ロロは……自分のお母さんが魔女だって知っていたのかな……。もしかして……空疫病くうえきびょうについて調べていたのって……)


フロートは、俯いたパレットのことなど気にせずに説明を続けた。


魔女や魔法使いの魔力が尽きると、当然次に代わる人柱が必要となる。


すでにロロの母親の魔力は尽き果て、その命も失われた。


死んでしまった理由は、魔女や魔法使いが引き継ぎまでの時間稼ぎとして、ある魔法を唱えるからだ。


その魔法は自分の命を削って生み出されるもので、少しの間だけ人柱無しで大陸を浮かすことができるものだった。


だがその代償として大陸中に負の魔力が散らされ、魔力の低い者や魔力の弱った者は病にかかってしまう。


「まさかそれが……」


「そう、空疫病だ」


スカイパトロールがロロを追いかけていたのは、一刻も早く大陸を安定させるため――。


そして、空疫病の蔓延を止めるためだった。


肩を落とし、その場で両膝をついたパレット。


フロートはそんな彼女に背を向ける。


「候補というのは、もしロロ·プロミスティックがダメになった場合。次に魔力の高い者を選ばねばらないからだ」


「じゃあ、あたしもその人柱ってやつの候補に入ったわけね……」


力なく俯いたと思ったパレットだったが、突然立ち上がってフロートの胸倉を掴んだ。


そして、今にも歯を立てそうなほどの迫力で睨みつけるのであった。

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